Love After The Loop

 放課後。
 俺たちはいつものように重い鉄製の校門を抜けた。夕陽が校舎の影を長く伸ばしている。ただ、今日辿るのは慣れ親しんだ帰り道ではなかった。

 郁真の家。

 これまで会話の中で何度も話題に上ったことはある。けれど、実際に放課後遊びに突撃したことなんて片手で数えるほどしかなかった。それも、他の友人も交えた大人数での集まりばかりだったはずだ。

「…なんか、変に緊張するな」
「何で?今さらだろ」
「いや……」

 俺は歩幅を合わせて隣を歩きながら、制服のポケットの中で自分の左手の人差し指へとそっと触れた。そこには、昨日一緒に買ったあの銀色のペアリングが確かな冷たさをもって嵌まっている。

「こういうの、初めてだからさ」
「泊まるのが?」
「……郁真の家で、2人きりで泊まるのが」
「そっか」

 郁真は視線を前方に向けたまま、どこか照れくさそうに頬を緩めた。

「俺もだよ」
「……お前も?」
「うん。2人きりでお泊まりなんて、よく考えたら初めてだなと思って」

 何気なく紡がれたその短い返事が妙に嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、俺も小さく笑った。

 電車に揺られ、会話も途切れ途切れに2人で並んで揺られる。
 最寄り駅から静かな住宅街をしばらく歩くと、見覚えのある1軒家の前に辿り着いた。何度か足を踏み入れたことがあるはずのその場所は、今日に限ってはどこかやけに広く特別な異空間のように思えた。

「ただいまー」
「お、おじゃまします…」
「ほら、誰もいないだろ?」
「ほんとだ」

 玄関で靴を脱ぎ、揃える。引き戸を閉めると、家の中にはどこかひんやりとした静寂が満ちていた。
 郁真の両親が旅行中なのだから、当たり前のことだ。けれど、誰もいない家という独特の空気が、今この空間には俺と郁真の2人しか存在しないという事実を嫌でも強調してくる。

「洗面所は廊下の奥だから、まず手洗って。タオルは新しいの出してあるから」
「あ、ああ。サンキュ」
「手洗ったら、さっそくリビングで作戦会議しよう」

 案内された洗面所のドアを開け、蛇口をひねる。冷たい水で念入りに手を洗いながら、俺はふと目の前の鏡に映る自分の顔を見つめた。

(……俺、露骨に顔が固くなってないか?)

 今日はただ、郁真の家に泊まるだけだ。
 目的はどこまでも明確で、このループの世界から抜け出すための謎を解き明かすこと。その糸口を掴むために、密室で2人きりで過ごしてみるという実験に過ぎない。

 そう何度も心の中で自分に言い聞かせる。濡れた手を拭くために持ち上げた左手の人差し指で静かに光るリングの質感に触れる度、胸の奥が妙に騒いで静まってくれなかった。ただの友達として振る舞おうとすればするほど、自分の中にある不純な感情が顔を出しそうになる。

「唯斗ー?洗えたー?お茶淹れたよー」
「あ、今行く!」

 急いでタオルで手を拭き、深呼吸を挟んでからリビングへと向かった。