Love After The Loop

 それからしばらくして、俺たちは教室を出た。
 校門を抜ける頃には、空がすっかり重厚な夕焼けに染まっていた。鮮やかな橙色の光がアスファルトを斜めに照らし、長く引き引き伸ばされた影が2人分、並んで地面に落ちている。

「今日さ、帰りコンビニ寄らない? 新作のお菓子食べたい」
「お前、昨日も食ってただろ」
「好きなんだから仕方ないじゃん」
「はいはい」

 ほら、また『好き』だ。
 結局、俺の存在もその新作お菓子と同じ軽さで処理されている。

 でも、これでいい。いつもの軽薄な調子だ。
 くだらない話をしながら歩いて、いつもの分かれ道を通る。

 そうやって何事もなく今日が終わるはずだった。

「……唯斗」
「ん?」

 突然、隣を歩いていた郁真が立ち止まった。俺もつられて足を止める。

「どうした?」

 何気なく振り返った俺を、郁真はまっすぐに見つめていた。

 いつもの意地悪そうな笑みはない。
 夕闇の赤を映したその瞳は、冗談を言っている時とはまるで違っていて__息が詰まるほどの熱を孕んでいた。

 俺は思わず、息を呑んだ。

「俺さ」
「…うん」
「今まで、適当に『好き』って言ってたように見えた?」
「……まあ」

 郁真が一度、胸を大きく膨らませて息を吸い込む。

「冗談じゃなく、本当に唯斗のことが好き」

 頭の中の音が全て消えた。
 喉を通る風の音も遠くの雑音も。自分が何を言われたのかを理解するまでに、何秒もの空白が必要だった。

好き?
本当に?
俺を?
郁真が?

 ずっと、ずっと喉から手が出るほど欲しかった言葉。
 叶うはずもないと切り捨て、何度も夢に見ては傷ついてきたはずの真実。
 
 なのに、

「……また始まった」

 反射的に口から飛び出したのは、防衛本能に支配された冷ややかな拒絶だった。

「はいはい。もう冗談はお腹いっぱいだって」

 笑え、自分。
 引き攣りそうになる頬の筋肉を無理やり引き上げ、完璧な呆れ顔を作ってみせる。

「さっき俺に『軽すぎる』って言われたのがそんなに効いたのかよ。やり口変えてくんなって」

 郁真が何かを言いかけたが、耳の奥で激しい血流の音がして上手く聞き取れない。脳が、心が、これ以上の理解を拒絶していた。

「ほら、さっさと帰ろうぜ。コンビニ寄るんだろ?」
「唯斗」

 何でもないことのように笑いながら、俺は踵を返して歩き出す。

 振り返るわけにはいかなかった。

 もし振り返って、そこに嘘偽りのない本気の顔があったら。
 もし、本当にコイツが俺を愛してくれているのだと認めてしまったら。

 もう二度と、友達のふりなんてできなくなってしまう。

「……唯斗」

 背後から、すがるような低い声で、もう一度名前を呼ばれた。
 それでも俺は、一度も後ろを振り返らなかった。

 橙色の街路に伸びる2つの影だけが、ゆっくりと決定的に離れていった。