Love After The Loop

 しばらくして、郁真は思い出したように顔を上げた。

「…あ」
「何?なんか思いついたか?」
「今日、うち来ない?」
「……は?」
「いや、ほら」

 郁真はルーズリーフの『2人だけに関係すること』という文字をトントンと指で叩いた。

「このループが始まってから、誰の目も届かない『完全に2人だけの空間』になったことって、一度もなかったと思ってさ」
「ここは?この空き教室だって、今2人きりじゃん」
「でもここは学校の一部だし、いつでも誰かが入ってくる可能性があるろ?」
「……まあ、それはそうだけど」

 言い返せずに口ごもる俺に、郁真は確信めいた目で言葉を重ねた。

「俺の家なら、文字通り俺たち2人だけになれる」
「ご両親は?」
「それがさ、20日から1週間旅行に行ってるんだよ」

 郁真は、悪戯っぽく少しだけ笑ってみせた。

「…マジで言ってる?」
「マジ。ループに巻き込まれる前に親から『しばらく帰らないから適当にやって』って言われてたんだよ」
「なんでそれをもっと早く言わないんだよ!」
「だって、急にタイムループに巻き込まれてそれどころじゃなかったし…」
「……それもそうか」

 俺は思考を巡らせる。
 2人きりの密室空間。それは、このループの中で俺がずっと無意識に避けていたシチュエーションでもあった。

 俺は、郁真のことが好きだ。
 友達としてではなく、1人の男として、恋愛感情を抱いている。
 
 その想いは、この狂ったループの中でも消えるどころか、日を追うごとに強く深くなっていた。真剣にループ脱出の可能性を考えてくれるところも、心が折れそうな俺を隣で支え続けてくれるところも、2人だけの秘密を共有して一緒に抗ってくれるところも、全部が愛おしかった。

 大好きな人と、2人きりで過ごす個人的な空間。
 そんな甘美で魅惑的な響きに心惑わされそうになるが、今はループ脱出という大きな目的がある。そんな不純なことを考えている余裕はないんだと、俺は必死に自分を律した。

「…郁真ん家に泊まるってことか?」
「唯斗がいいなら」

 そう言われると、もう断ることはできないだろう。
 渋々頷けば、パァッと嬉しそうな顔をされる。

「今日1日、ずっと一緒にいてみよう」
「ずっとって…」

 何気なく放たれたその言葉に、ドクンと心臓が強く跳ね上がった。
 変な意味じゃない。ただの男友達の家に泊まるだけだ。今までだって、お泊まり会くらい何度も経験してきた。

 なのに今の俺には、郁真の前でただの『友人』として振る舞い続けられる自信が、ほんの少しだけ揺らいでいた。

「……まあ、お前がいいなら別にいいけど」
「よし、決まり!」

 郁真は心底嬉しそうに破顔した。

「…お前、なんかこの状況を楽しんでないか?」
「ちょっとだけね」
「……ったく」

 呆れながらも、俺の口元からも自然と笑みがこぼれていた。