「……」
何かを深く噛み締めるように黙り込んでいた郁真が、やがてスッと手を伸ばした。
「唯斗、指何号?」
「なに、何号って」
「指の太さだよ」
いつの間にか店員から借りてきたらしい、じゃらじゃらとたくさんの金属の輪がついたリングサイズゲージを手に、郁真は「ん」と手を差し出してくる。それに促されて手を差し出すと、あいつは慣れた手つきで俺の指に次々と輪を嵌めていった。
「16…いや、15号かな。どう?きつい?」
「ちょうどいい感じ」
「じゃあ15号だな」
郁真はそのまま自分用のサイズも手際よく確認していく。あまりにも淀みのない動作に、俺は疑問を抑えきれずに思わず口に出してしまった。
「普段からよく測ってんの?」
「ぇ、あー……まあ、ちょっとね」
「歯切れ悪いな」
「別にいいだろ。…たまに測るくらいだよ」
喉まで出かかった「誰の指を測ったんだよ」という言葉を、俺はぐっと飲み込んだ。無駄な嫉妬や詮索をして、この愛おしく心地よい非日常に水を差したくなかった。…測ったのは、自分の指だけかもしれないしな。
俺たちは1番シンプルで飾りのない、一番安価な銀色のリングを2つ選んだ。高校生の少ない小遣いでも十分に買える程度の指輪。それでも、今の俺にとっては世界中のどんな高級な宝石よりも価値があるように思えた。
店を出ると、街はすっかり静かな夜の闇に包まれていた。
俺たちは駅前のロータリーにあるベンチに、少しだけ肩を寄せるようにして並んで座った。
「はい、これ」
郁真から手渡された小さな紙袋からリングを取り出し、俺は左手の人差し指へとゆっくり滑り込ませた。ひんやりとした金属の冷たさが、皮膚を通してどうしようもなくリアルに伝わってくる。
隣を見ると、郁真も同じように自分の左手の人差し指にリングをはめ、照れくさそうに息を吐きながら笑っていた。頭上の街灯の黄色い光を反射して、お揃いの銀色が2人の手元で鈍く光っている。
「……変な感じだな」
「お前が言い出したんだろ」
郁真がくすっと笑う。
その穏やかな横顔を見つめているだけで、胸の奥がギュッと強く締め付けられた。
明日になれば指輪も、この温もりも消えてしまうと分かっている。
それなのに、この小さな金属の輪が狂った世界の中で俺たちを確かに繋ぎ止めてくれているような錯覚に陥りそうだった。
「なあ、郁真」
「ん?」
「今日、学校サボってよかったわ」
「…俺も」
それ以上の言葉は、もう必要なかった。
自動改札機の前まで来ると、俺たちは立ち止まった。
家が逆方向の俺たちは、ここで別れなければならない。
「じゃあな」
「おう。気をつけて帰れよ」
郁真がひらひらと手を振る。
その左手に輝く銀色の光が、改札の蛍光灯に反射して一瞬だけ眩しく煌めいた。あいつは改札機にICカードをタッチし、そのまま人の波の中へと消えていく。
俺はポケットの中で、人差し指にはめたリングを何度もなぞった。
明日になれば、またあの憂鬱な『22日』がやってくるに違いない。
それと同時に、この指輪は俺の指から消えているのだろう。
けれど今日、2人で笑い合った時間もこの指にはめられたひんやりとした感触も、俺の心からは絶対に消えない。
(……また明日な)
遠ざかる郁真の背中に心の中で語りかけながら、俺は1人静かに改札を潜った。
何かを深く噛み締めるように黙り込んでいた郁真が、やがてスッと手を伸ばした。
「唯斗、指何号?」
「なに、何号って」
「指の太さだよ」
いつの間にか店員から借りてきたらしい、じゃらじゃらとたくさんの金属の輪がついたリングサイズゲージを手に、郁真は「ん」と手を差し出してくる。それに促されて手を差し出すと、あいつは慣れた手つきで俺の指に次々と輪を嵌めていった。
「16…いや、15号かな。どう?きつい?」
「ちょうどいい感じ」
「じゃあ15号だな」
郁真はそのまま自分用のサイズも手際よく確認していく。あまりにも淀みのない動作に、俺は疑問を抑えきれずに思わず口に出してしまった。
「普段からよく測ってんの?」
「ぇ、あー……まあ、ちょっとね」
「歯切れ悪いな」
「別にいいだろ。…たまに測るくらいだよ」
喉まで出かかった「誰の指を測ったんだよ」という言葉を、俺はぐっと飲み込んだ。無駄な嫉妬や詮索をして、この愛おしく心地よい非日常に水を差したくなかった。…測ったのは、自分の指だけかもしれないしな。
俺たちは1番シンプルで飾りのない、一番安価な銀色のリングを2つ選んだ。高校生の少ない小遣いでも十分に買える程度の指輪。それでも、今の俺にとっては世界中のどんな高級な宝石よりも価値があるように思えた。
店を出ると、街はすっかり静かな夜の闇に包まれていた。
俺たちは駅前のロータリーにあるベンチに、少しだけ肩を寄せるようにして並んで座った。
「はい、これ」
郁真から手渡された小さな紙袋からリングを取り出し、俺は左手の人差し指へとゆっくり滑り込ませた。ひんやりとした金属の冷たさが、皮膚を通してどうしようもなくリアルに伝わってくる。
隣を見ると、郁真も同じように自分の左手の人差し指にリングをはめ、照れくさそうに息を吐きながら笑っていた。頭上の街灯の黄色い光を反射して、お揃いの銀色が2人の手元で鈍く光っている。
「……変な感じだな」
「お前が言い出したんだろ」
郁真がくすっと笑う。
その穏やかな横顔を見つめているだけで、胸の奥がギュッと強く締め付けられた。
明日になれば指輪も、この温もりも消えてしまうと分かっている。
それなのに、この小さな金属の輪が狂った世界の中で俺たちを確かに繋ぎ止めてくれているような錯覚に陥りそうだった。
「なあ、郁真」
「ん?」
「今日、学校サボってよかったわ」
「…俺も」
それ以上の言葉は、もう必要なかった。
自動改札機の前まで来ると、俺たちは立ち止まった。
家が逆方向の俺たちは、ここで別れなければならない。
「じゃあな」
「おう。気をつけて帰れよ」
郁真がひらひらと手を振る。
その左手に輝く銀色の光が、改札の蛍光灯に反射して一瞬だけ眩しく煌めいた。あいつは改札機にICカードをタッチし、そのまま人の波の中へと消えていく。
俺はポケットの中で、人差し指にはめたリングを何度もなぞった。
明日になれば、またあの憂鬱な『22日』がやってくるに違いない。
それと同時に、この指輪は俺の指から消えているのだろう。
けれど今日、2人で笑い合った時間もこの指にはめられたひんやりとした感触も、俺の心からは絶対に消えない。
(……また明日な)
遠ざかる郁真の背中に心の中で語りかけながら、俺は1人静かに改札を潜った。



