気づけば、すっかり夕方になっていた。
西の空が、燃えるような茜色から深い紫へと混ざり合いながら染まっていく。
「そろそろ帰るか?」
「そうだな」
2人で駅へ向かって歩く、その途中でのことだった。隣を歩いていた郁真が、ふと足を止めた。
何かに惹かれるように足を止めた郁真に倣って、俺も止まる。
「どうした?」
「あ、いや……なんでもない」
郁真の視線の先には、ガラス張りの小さなアクセサリーショップがあった。気まずそうにサッと視線を逸らしたが、別にやましいことでもないだろう。
「行ってみようぜ」
「え、ちょ、唯斗!?」
戸惑う郁真の手首を強めに引き、俺はそのまま店内へ足を踏み入れた。
平日の夕方という時間帯のせいか店内には他に客もおらず、がらんと静まり返っていた。
「お、おい…。こんなとこ男2人で入る場所じゃねぇだろ……」
どこか場違いな雰囲気に気圧されたのか、郁真は何故か声を潜めて居心地悪そうに肩をすぼめている。その様子を横目に、俺はキラキラと光るディスプレイを眺め始めた。
ネックレス
イヤリング
ピアス
ブレスレット
ガラスの向こうでスポットライトを浴びたアクセサリーはどれも綺麗で、それぞれ固有の輝きを放っていた。
「なあ、郁真はイヤリングとピアスだったらどっちが好き?」
「は? なんだよ急に」
「だーかーらー、どっちが好きかって聞いてんだよ」
未だに周囲を警戒してビクビクしている郁真にもう一度尋ねると、小さく呆れたように答えた。
「イヤリング。っていうか、俺たち校則的にピアスなんて開けられないだろ」
「そりゃ今はそうだけどさ。じゃあ大学生とかになったらピアス開けんの?」
「……どうだろ。考えたこともないな」
__まあ、そんな大学生になる未来が来れば、だけど
一瞬、郁真の口からそんな言葉が聞こえた気がした。
もちろん、あいつはそんなこと一口も言っていない。分かっているのに、幻聴まで聞こえてしまう自分の追い詰められた精神状態が、どうしようもなく嫌になった。
俺は郁真に悟られないよう、無意識のうちに奥歯を強く食いしばる。
なんで俺たちなんだ。
好きでたまらない奴と2人きりで、こんな不条理な奇跡に巻き込まれるなんて。
本来なら、物語の主人公気取りでほんの少しだけでも喜べばいいはずなのに素直に喜べなかった。
(でも、…そうか。どうせ明日にはリセットされるなら、別に何をしたっていいじゃんか)
「…なあ」
(ほんの少しだけ夢を見たって、……罰は当たらないだろ)
「……ペアリング、買わね?」
ショーケースの奥に並ぶ指輪を見つめたまま呟くと、隣で郁真が大きく息を呑む気配がした。
男同士でペアリングなんて、傍から見たら変かもしれない。だけど、明日になればこの購入した事実すら世界から消えて無くなるのなら、周りの目なんてどうだってよかった。
「ほら、今日の記念っていうかさ。どうせ明日になれば何もなかったことになるんだし……別に、減るもんじゃないだろ」
左手の薬指に、なんて我が儘は言わない。
ただ、好きな人とお揃いの指輪をしてみたい。
そんな、どこにでもあるささやかな願いを叶えたかった。
例え明日になればこの指輪が手元から消えてしまったとしても、俺の記憶の中には絶対に残り続ける。
この理不尽で狂ったループに巻き込まれて良かったと、後から思える思い出が1つだけでも欲しかった。
西の空が、燃えるような茜色から深い紫へと混ざり合いながら染まっていく。
「そろそろ帰るか?」
「そうだな」
2人で駅へ向かって歩く、その途中でのことだった。隣を歩いていた郁真が、ふと足を止めた。
何かに惹かれるように足を止めた郁真に倣って、俺も止まる。
「どうした?」
「あ、いや……なんでもない」
郁真の視線の先には、ガラス張りの小さなアクセサリーショップがあった。気まずそうにサッと視線を逸らしたが、別にやましいことでもないだろう。
「行ってみようぜ」
「え、ちょ、唯斗!?」
戸惑う郁真の手首を強めに引き、俺はそのまま店内へ足を踏み入れた。
平日の夕方という時間帯のせいか店内には他に客もおらず、がらんと静まり返っていた。
「お、おい…。こんなとこ男2人で入る場所じゃねぇだろ……」
どこか場違いな雰囲気に気圧されたのか、郁真は何故か声を潜めて居心地悪そうに肩をすぼめている。その様子を横目に、俺はキラキラと光るディスプレイを眺め始めた。
ネックレス
イヤリング
ピアス
ブレスレット
ガラスの向こうでスポットライトを浴びたアクセサリーはどれも綺麗で、それぞれ固有の輝きを放っていた。
「なあ、郁真はイヤリングとピアスだったらどっちが好き?」
「は? なんだよ急に」
「だーかーらー、どっちが好きかって聞いてんだよ」
未だに周囲を警戒してビクビクしている郁真にもう一度尋ねると、小さく呆れたように答えた。
「イヤリング。っていうか、俺たち校則的にピアスなんて開けられないだろ」
「そりゃ今はそうだけどさ。じゃあ大学生とかになったらピアス開けんの?」
「……どうだろ。考えたこともないな」
__まあ、そんな大学生になる未来が来れば、だけど
一瞬、郁真の口からそんな言葉が聞こえた気がした。
もちろん、あいつはそんなこと一口も言っていない。分かっているのに、幻聴まで聞こえてしまう自分の追い詰められた精神状態が、どうしようもなく嫌になった。
俺は郁真に悟られないよう、無意識のうちに奥歯を強く食いしばる。
なんで俺たちなんだ。
好きでたまらない奴と2人きりで、こんな不条理な奇跡に巻き込まれるなんて。
本来なら、物語の主人公気取りでほんの少しだけでも喜べばいいはずなのに素直に喜べなかった。
(でも、…そうか。どうせ明日にはリセットされるなら、別に何をしたっていいじゃんか)
「…なあ」
(ほんの少しだけ夢を見たって、……罰は当たらないだろ)
「……ペアリング、買わね?」
ショーケースの奥に並ぶ指輪を見つめたまま呟くと、隣で郁真が大きく息を呑む気配がした。
男同士でペアリングなんて、傍から見たら変かもしれない。だけど、明日になればこの購入した事実すら世界から消えて無くなるのなら、周りの目なんてどうだってよかった。
「ほら、今日の記念っていうかさ。どうせ明日になれば何もなかったことになるんだし……別に、減るもんじゃないだろ」
左手の薬指に、なんて我が儘は言わない。
ただ、好きな人とお揃いの指輪をしてみたい。
そんな、どこにでもあるささやかな願いを叶えたかった。
例え明日になればこの指輪が手元から消えてしまったとしても、俺の記憶の中には絶対に残り続ける。
この理不尽で狂ったループに巻き込まれて良かったと、後から思える思い出が1つだけでも欲しかった。



