急に何の話かとつい耳を傾けちゃったけど、深刻そうなその横顔に私はいくつもツッコミを入れていた。
東京って、距離は遠いかもしれないけど、私、朝までそこにいたんだけど。
飛行機ならすぐだよ。
そんなに高くないし、LCCだってある時代だし。
と、返事もせずにそんなことを考えていたら、彼が続けた。
「なんか、もう、二度と帰ってこないんじゃないかって気もするんですよね」
うーん、少年よ、いくらなんでもおねえさんにだってそれくらい分かるぞ。
帰ってくるわけないじゃん。
地元で働く気があるなら、最初から学費免除の地元の専門学校に行ってると思うよ。
今頃、都会で彼氏もできて、故郷の人のことなんか思い出す日もないんじゃないかな。
だって、君自身が言ってるんだもん、ここには何もないって。
と、彼が急に晴れやかな顔になって腕を広げた。
「ここの風景を見てると、自分が悩んでることとか、全部どうでも良くなりませんか」
「人間がちっぽけに見えるとか?」
「でしょう」
同意したわけじゃないのに、向こうから勝手に同意されちゃった。
微妙に噛み合わない会話なんだけど、終わらせるタイミングがつかめない。
私は、ふと思い浮かんだ疑問を口にした。
「でも、ここの人たちって、毎日そんなふうに考えるの?」
「え?」と、ぽかんとした表情を浮かべたかと思うと、彼はすぐに真顔になった。「ああ、そっか、だから簡単にあきらめちゃったりするんですかね。俺みたいに」
「あきらめちゃったんですか?」
「だって、あいつは俺よりも都会を選んだんだから、止めようがないじゃないですか」
「気持ちは伝えたんですか?」
「言うわけないっすよ」と、彼は肩をすくめながら笑う。「他人の夢を邪魔する権利なんてないっすから」
追いかけようと思わなかったんですか、と喉まで出かかった質問を引っ込める。
この人には選択肢がないんだ。
目の前にあってもこの人には見えないんだ。
だけど、彼女には見えちゃったんだろうな。
――違う、そうじゃない。
この人は目をつむっちゃってるんだ。
自分の手が届く範囲の世界しか見ないようにしてるんだ。
べつに禁止されているわけじゃない。
外の世界と切り離されているわけじゃないのに、踏み出すことを選ばなかった。
彼女はただ選んだだけ。
私もいつもそうだった。
言われたことはちゃんとやる子だったから、小中の成績はそこそこ良くて、地元の公立進学高に進んで、そこでも与えられた課題をきちんとこなしていただけなんだけど、成績優秀者として、けっこううらやましがられる都心の私立大学に推薦をもらえた。
『いいなぁ』
『ずるいな』
話したこともない同級生からもそんなふうに声をかけられたけど、私はただ与えられたチャンスを自分で選んできただけ。
誰かが選ばなかったから、私に回ってきた。
べつに他人を蹴落としたわけじゃなくて、むしろ余り物だった。
なのに、選んだ途端、ずるいって言われる。
東京って、距離は遠いかもしれないけど、私、朝までそこにいたんだけど。
飛行機ならすぐだよ。
そんなに高くないし、LCCだってある時代だし。
と、返事もせずにそんなことを考えていたら、彼が続けた。
「なんか、もう、二度と帰ってこないんじゃないかって気もするんですよね」
うーん、少年よ、いくらなんでもおねえさんにだってそれくらい分かるぞ。
帰ってくるわけないじゃん。
地元で働く気があるなら、最初から学費免除の地元の専門学校に行ってると思うよ。
今頃、都会で彼氏もできて、故郷の人のことなんか思い出す日もないんじゃないかな。
だって、君自身が言ってるんだもん、ここには何もないって。
と、彼が急に晴れやかな顔になって腕を広げた。
「ここの風景を見てると、自分が悩んでることとか、全部どうでも良くなりませんか」
「人間がちっぽけに見えるとか?」
「でしょう」
同意したわけじゃないのに、向こうから勝手に同意されちゃった。
微妙に噛み合わない会話なんだけど、終わらせるタイミングがつかめない。
私は、ふと思い浮かんだ疑問を口にした。
「でも、ここの人たちって、毎日そんなふうに考えるの?」
「え?」と、ぽかんとした表情を浮かべたかと思うと、彼はすぐに真顔になった。「ああ、そっか、だから簡単にあきらめちゃったりするんですかね。俺みたいに」
「あきらめちゃったんですか?」
「だって、あいつは俺よりも都会を選んだんだから、止めようがないじゃないですか」
「気持ちは伝えたんですか?」
「言うわけないっすよ」と、彼は肩をすくめながら笑う。「他人の夢を邪魔する権利なんてないっすから」
追いかけようと思わなかったんですか、と喉まで出かかった質問を引っ込める。
この人には選択肢がないんだ。
目の前にあってもこの人には見えないんだ。
だけど、彼女には見えちゃったんだろうな。
――違う、そうじゃない。
この人は目をつむっちゃってるんだ。
自分の手が届く範囲の世界しか見ないようにしてるんだ。
べつに禁止されているわけじゃない。
外の世界と切り離されているわけじゃないのに、踏み出すことを選ばなかった。
彼女はただ選んだだけ。
私もいつもそうだった。
言われたことはちゃんとやる子だったから、小中の成績はそこそこ良くて、地元の公立進学高に進んで、そこでも与えられた課題をきちんとこなしていただけなんだけど、成績優秀者として、けっこううらやましがられる都心の私立大学に推薦をもらえた。
『いいなぁ』
『ずるいな』
話したこともない同級生からもそんなふうに声をかけられたけど、私はただ与えられたチャンスを自分で選んできただけ。
誰かが選ばなかったから、私に回ってきた。
べつに他人を蹴落としたわけじゃなくて、むしろ余り物だった。
なのに、選んだ途端、ずるいって言われる。


