アラサー覆面調査員の出張メシ 夜のお供はコンビニ豚丼ですけど何か?

 自分の仕事をあまり明かせないので、聞かれたら旅行ライターということにしている。

 でも、そう言ったら言ったで、不安定な仕事でしょとよけいに心配されるけど、けっこう充実してるんで放っておいてもらえますか。

 と、頭の中でそんなことを考えていたら、返事をしなかったせいか、相手に頭を下げられてしまった。

「すみません。まあ、べつに、スーツ着てする仕事ばかりじゃないですもんね。俺も漁師の手伝いなんで」

 だから日焼けしてるんだね。

 ガタイもいいし。

 ――タイプじゃないけど。

 彼は手をもみ合わせながら続けた。

「実は俺もいまだにネクタイの締め方覚えてないんですよ」

「高校の制服とかは?」と、つい聞いてしまった。

「ゴムで留めるなんちゃってネクタイだったんで」

 ああ、あれか。

 私の高校は女子校だったけど、ネクタイは昔ながらのちゃんと自分で結ぶタイプだったな。

 結び方をいろいろアレンジするのがはやってたっけ。

 会話を続けるつもりはなかったし、お土産物もいいものがなかったからさりげなくお店の外に向かって歩いていたら、彼がついてきた。

「何もないでしょ、ここ」

 ああ、まあ、なんかそんな有名な歌もあるくらいだし。

 そこに歌碑もなぜか二つも立ってるし。

 本当に他に何もないんだろうな。

「あの、さっきは『おねえさん軽そう』なんていってすんませんでした。あれ、体重のことで、軽い女とかそういうんじゃないんで」

 はあ?

 ああ、あれね。

 いやべつに、そんな意味には受け取らなかったから大丈夫。

 でも、なんか自分がスリムだと自覚してると主張するのも何だし、何これ、どう返事したらいいの。

「べつに、気にしてないんで」

 あんまりテンパっちゃって、体重を正直に明かしそうになって引っ込めて出てきたセリフがこれ。

 偉そうだな、おい。

 ああ、もう、もう勘弁してください。

 年下とはいえ、ふだん男の人との会話なんて慣れてないから、もういっぱいっぱいなんです。

 私が自分の車に逃げようとしているのに、彼は勝手に話を続けてくる。

「俺、高校までずっと一緒だった幼なじみっつうか、地元で仲のいい女の子がいたんですよ。でも、その彼女、看護師になるからって、東京の方の大学に行っちゃったんですよ。このあたりにも、卒業して地元の総合病院に就職すれば学費が全額免除になる専門学校とかあるんですけど、最近じゃあ、看護師になるのも大学に行くのが当たり前だからとかなんとかって。だったら、札幌あたりでも良かったんじゃないかと思うんですけどね。なんかすげえ遠くに行っちゃったんですよ」

 一息にまくし立てた彼は、そこでようやく話を切って、髪をかき上げながら遠い目で視線を海に向けた。