北海道の背骨と呼ばれる日高山脈が海へ沈み込む一歩手前でほんの少し意地を見せて盛り上がったかと思うと、海へ潜り込む怪獣の尻尾のような断崖になり、そのまま背びれを出して沖へと泳ぎ出すように岩が連なり、やがて何もない海に吸い込まれていく。
それは大地の息吹を感じさせる姿だった。
ああ、ついに来たんだ、襟裳岬。
って、そんな感傷に浸る余裕もないほど風が強いんですけど。
遮るものが何もないと、地球ってこんなに乱暴なの?
左右の断崖を見下ろしながら、駐車場から続く細い遊歩道を歩き、先端まで来る。
すごいな、なんか、地球を独り占めって感じ。
だって、実際三百六十度、まわりに誰もいないんだもん。
《下にアザラシがいます》なんて、看板が出てるから、柵からちょっと身を乗り出して崖の下をのぞき込むと、波に洗われる岩が並んでいるだけで、それらしい姿はどこにもない。
季節外れなのかな。
と、その瞬間、横殴りの突風が押し寄せて、危うく体ごと持って行かれそうになる。
「ちょ、やばっ!」
必死に柵をつかんで体を支えながら思わず声に出ちゃったけど、何これ、アハハ、なんかもう、これ、笑うしかないじゃん。
いや、もう、暴力的すぎて笑っちゃう。
すごい、すごいよ、地球じゃん。
自分でも何言ってんのかよく分からなくなるくらい頭の中が真っ白になって、その瞬間、私はこの地球の片隅で、何かに認められたような気がした。
――大丈夫、これでいい。
いつの間にか風が弱くなっていた。
神々しい風景を前に、神社にお参りするみたいに手を合わせてから振り向くと、すぐ後ろに二十歳くらいの若い男の人がいた。
「落ちないでくださいよ」と、筋肉質な腕を引っ込めながら言われる。「おねえさん軽そうだから」
「ああ、ええ、大丈夫です。すごい風でしたね」
「地元ですけど、今のはさすがにすごかったっすね」
私は軽く会釈してすれ違い、来た道を戻った。
誰もいないかと思ったけど、ずっと見られてたのかな。
一人だと思って油断してたから、ちょっと恥ずかしいような気もするけど、旅の恥はなんとかって言うし、ま、いいか。
駐車場まで戻ると、ちょうど午後の二時だった。
観光センターというお土産物屋と食堂が合わさったようなお店が一軒だけ営業していて、昼食時は過ぎているのに買い物客はいなくて、奥にある食堂の方が賑わっていた。
私も何か食べようかなと思ったけど、あんまりおなかもすいてないし、北海道らしいメニューばかりとはいえ、どれも観光地価格であまり食欲をそそられない。
かといって、お土産物もねえ。
配る相手もいないのよね。
と、思いつつ、何か自分用にないかと見て回っていたら、男の人に声をかけられた。
「おねえさん、一人旅ですか」
――え?
いや、ふだん、こんなことないんだけど、とチラッと見たら、さっき岬の先端にいた地元の若い人だった。
「いえ、仕事です」と、わざとぶっきらぼうに答える。
「へえ、そうなんですか。スーツじゃないんですね」
ああ、まあ、一般客と同じ格好でいなくちゃならないんだもん。
だから普段着なんだけど、説明できないから困っちゃうな。
それは大地の息吹を感じさせる姿だった。
ああ、ついに来たんだ、襟裳岬。
って、そんな感傷に浸る余裕もないほど風が強いんですけど。
遮るものが何もないと、地球ってこんなに乱暴なの?
左右の断崖を見下ろしながら、駐車場から続く細い遊歩道を歩き、先端まで来る。
すごいな、なんか、地球を独り占めって感じ。
だって、実際三百六十度、まわりに誰もいないんだもん。
《下にアザラシがいます》なんて、看板が出てるから、柵からちょっと身を乗り出して崖の下をのぞき込むと、波に洗われる岩が並んでいるだけで、それらしい姿はどこにもない。
季節外れなのかな。
と、その瞬間、横殴りの突風が押し寄せて、危うく体ごと持って行かれそうになる。
「ちょ、やばっ!」
必死に柵をつかんで体を支えながら思わず声に出ちゃったけど、何これ、アハハ、なんかもう、これ、笑うしかないじゃん。
いや、もう、暴力的すぎて笑っちゃう。
すごい、すごいよ、地球じゃん。
自分でも何言ってんのかよく分からなくなるくらい頭の中が真っ白になって、その瞬間、私はこの地球の片隅で、何かに認められたような気がした。
――大丈夫、これでいい。
いつの間にか風が弱くなっていた。
神々しい風景を前に、神社にお参りするみたいに手を合わせてから振り向くと、すぐ後ろに二十歳くらいの若い男の人がいた。
「落ちないでくださいよ」と、筋肉質な腕を引っ込めながら言われる。「おねえさん軽そうだから」
「ああ、ええ、大丈夫です。すごい風でしたね」
「地元ですけど、今のはさすがにすごかったっすね」
私は軽く会釈してすれ違い、来た道を戻った。
誰もいないかと思ったけど、ずっと見られてたのかな。
一人だと思って油断してたから、ちょっと恥ずかしいような気もするけど、旅の恥はなんとかって言うし、ま、いいか。
駐車場まで戻ると、ちょうど午後の二時だった。
観光センターというお土産物屋と食堂が合わさったようなお店が一軒だけ営業していて、昼食時は過ぎているのに買い物客はいなくて、奥にある食堂の方が賑わっていた。
私も何か食べようかなと思ったけど、あんまりおなかもすいてないし、北海道らしいメニューばかりとはいえ、どれも観光地価格であまり食欲をそそられない。
かといって、お土産物もねえ。
配る相手もいないのよね。
と、思いつつ、何か自分用にないかと見て回っていたら、男の人に声をかけられた。
「おねえさん、一人旅ですか」
――え?
いや、ふだん、こんなことないんだけど、とチラッと見たら、さっき岬の先端にいた地元の若い人だった。
「いえ、仕事です」と、わざとぶっきらぼうに答える。
「へえ、そうなんですか。スーツじゃないんですね」
ああ、まあ、一般客と同じ格好でいなくちゃならないんだもん。
だから普段着なんだけど、説明できないから困っちゃうな。


