アラサー覆面調査員の出張メシ 夜のお供はコンビニ豚丼ですけど何か?

 店員さんに教えられたとおり、国道をそれて北海道らしい直線道路を走っていると、目の前に桜のトンネルが現れた。

 ――信じられない。

 どこまで走っても桜、桜、桜……なのに、誰もいない。

 私一人のために咲いてくれたみたいに、まるで『待ってたよ』と、抱きしめてくれているみたいにほぼ満開の桜がどこまでも続いている。

 あ、馬だ。

 桜の木々の間に見え隠れする牧場では、お日様を受けて毛並みを輝かせた馬が草を()んでいた。

 私は道路脇にある広めのスペースを見つけて駐車し、車を出て周囲に注意しながら桜の写真を撮った。

 ――あれ?

 なんかあんまり映えないな。

 肉眼で見るとほぼ満開なのに、写真だと枝の方が目立っちゃうのはなんでなの?

 私の腕が悪いのか、スマホのカメラの限界なのか、それとも加工していないのが悪いのか。

 ま、いいか。

 べつに仕事とは関係ないし、誰に見せるわけでもないし。

 こんないい桜を見ても一人って、尾崎放哉じゃないんだから。

 私は車に戻って、助手席にハンバーガーセットを広げ、桜並木を眺めながら早めの昼食にした。

「うん、おいしい」

 アボカドダイスをふんだんに挟んだエビカツのハンバーガーはまだ衣がサクサクで中はプリッとしてて、タルタルソースにものすごく合う。

 素敵な風景を眺めながらだと、定番のナゲットもペロリだ。

 ま、朝一の便で空港バスが四時出発だったから、朝御飯抜きだったのよね。

 仕事で購入した食品だからっていうのがもちろん一番の理由なんだけど、そうでなくても旅先でチェーン店に寄ることは多い。

『せっかく北海道に来たのに、いつでもどこでも同じ全国チェーンのお店とか、もったいなくない?』なんて、必ず言われるんだけど、私、年に三回は北海道に来てるから、毎回海鮮丼とかラーメンとかジンギスカンっていうのも、無駄に食事に身構えちゃう感じで、なんか嫌なのよね。

 旅先でなじみのチェーン店に行くっていうのも、旅に求めるリラックスの一部だし、案外いい思い出になるんじゃないかな。

 稚内とか、石垣島のワクワクナルドなんかも行ったけど、同じなのがいいのよ。

 夜も、わざわざ地元のいいお店なんか探索しないで、チェーン店からテイクアウトして、ホテルの部屋で一人のんびり。

 それでローカル局なんかでありがちな二時間サスペンスの再放送なんてやってたら、もう最高の旅行じゃん。

 それに、今は桜並木を独り占めにしながら食べてるんだもん、誰にも真似できない経験でしょ。

 旅のスタイルなんて人それぞれだし、私は私。

 べつに共感を求めたくて一人旅をしてるわけじゃないんだもん。

 以上、食べ終わっちゃったんで、襟裳岬に向けて出発しますかね。

 あ、レポート送信しなくちゃ。

 ホテルに入ってからでもいいんだけど、忘れないうちに済ませた方がいいからね。

 調査会社のエキスパート専用アプリに出てくる、店員・店舗・メニュー提供に関する五十項目くらいの定番チェック事項に入力し終わると、フリー項目画面が出てくる。

『カウンターからシフト表が見えていました』

 私はお店で気づいた問題点を打ち込んだ。

 オペレーションに関わる資料が客の目に触れていたのは大問題だ。

 社外秘でもあるし、従業員の個人情報にも関わる。

 ふつうは冷蔵庫の扉にこんな書類は掲示されない。

 突発的な仕事が入って、書き込んでいた用紙を放置してしまったのかもしれない。

 いろいろ憶測は広がるけど、そういった余計なものは極力排除して、事実としてそういう状況であると簡潔に報告する。