アラサー覆面調査員の出張飯 夜のお供はコンビニ豚丼ですけど何か?

 私はカウンターから一番近いテーブルに移動しながら店内全体を眺める。

《DELICIOUS BURGER》と書かれたタイル張りの壁面はここ最近全国で導入されているディスプレイだし、あちこちに掲げられたワクドカフェのロゴも、この店舗がカフェメニューに力を入れている証拠だ。

 テーブルは従来の共通型だけど、椅子は《W-4S》という形式で、昨年から取り入れられたモダン基調の最新式に切り替わっている。

 ただ、それは私のレポートには関係がない。

 こういったインテリアは本部が管理しているので、たとえばロゴの文字が斜めになっているなんてことがあればもちろん報告はするけど、この大手チェーンの場合、そんなひどい店舗自体が存在しない。

 ただ単に、調査員をやってると、自然とそういう業界的な仕様に詳しくなるだけだ。

 ほんの数秒の間に観察を終えた私は、商品を待ちながら椅子に腰掛け、スマホを出して観光名所を検索する……ふりをしながら椅子やテーブルの清掃が行き届いてるかをチェックした。

 お客さんが多い時間だとソファの隙間にポテトが挟まっているとか、テーブルがベタついていることもあるけど、閑散としたこの時間はさすがにそんなこともない。

 と、本当に二十間道路の桜並木とやらを調べているうちに、袋を持った店員さんがやってきた。

「お待たせいたしました。アボタルシュリンプバーガーとワクドナゲットにホットコーヒーSのセットです」

「ありがとうございます」

 と、スマホをしまって品物を受け取ると、店員さんが並んで歩いて、わざわざドアを開けてくれた。

 こういうサービスも、店舗が暇なときは珍しいことではない。

 だが、その後がちょっと違った。

「お客さんは道外の方ですか」

「はい、襟裳岬に行くところです」

「ああ、そうなんですか。もし良かったら、この近くの桜並木に寄っていってくださいよ。今年はもうおとといくらいから咲き始めてるんですよ」

「え、そうなんですか?」

「いつもはゴールデンウィークに満開なんですけど、もう、ありえないくらい温かくて、半月も早いみたいで。桜祭りも今年は月末に早めたっていうのに、その頃にはもう散ってるだろうって、地元じゃみんな頭抱えてますよ」

「じゃあ、行ってみなくちゃ……ですね」

「ええ、ぜひ。コーヒーが冷めないうちに着きますから」

 私は店員さんのスマイルに見送られて車に戻った。

 カーナビの目的地を変更してすぐに出発。

 今日の私の調査はこれで終わり。

 ――え、これだけ?

 うん、そうだけど、何か?

 今日の依頼案件はこれだけ。

 後の時間は全部フリー。