「……ここ、どこ?」
目を開けて最初に飛び込んできたのは、見慣れない白い天井。
ここはどこだっけ?なんで、わたしここにいるんだっけ?……わたしって誰だっけ。
何もわからない。何も思い浮かばない。
ぼーっと天井を見上げていたら、ドスン、と何かが落ちる音がして、わたしは身体を持ち上げた。
「……は?」
立っていたのは、知らない男の人。コンビニの袋が床に落ちて、ペットボトルの水がゴロゴロと床に転がっている。さっきの音の正体はこれらしい。
その男の人はわたしのことを見た瞬間、目をまんまるに見開いて、わたしを凝視している。
「お前……なんで……」
男の人の声が震えていた。こちらに大股で近づいてくる。
近づいてくると、とても端正な顔立ちをしている人だということに気づいた。少し長い黒髪に、顔には濃いクマがある。
「……斗亜?」
低くつぶやかれたその名前。誰のことかわからなくてきょとんとする。
だけど、この部屋にはわたしとその男の人しかいなくて、必然的にわたしの名前なのだと気づいた。
「わたし、斗亜って言うの?」
わたしの言葉に、また目を見開く男の人。信じられないものを見るような目をしている。
「そうだよ、お前は来栖斗亜……だけどなんで」
なんで、の後は男の人は慌てて口を噤んだ。そして、わたしを探るように見ている。
「あなたは誰?ここは、どこなの?なんでわたしはここにいるの?」
一気に質問すると、彼は口を歪めた。何かを堪えるような___噛みしめるようなそんな顔。
少し沈黙が降りた後、男の人は質問に答えてくれた。
「俺は宮川凪。お前は……斗亜は、記憶喪失したんだ」
記憶喪失。それはあまりにも非現実的な話だったが、わたしの今の状況を鑑みると、それ以外考えられなかった。
最初は自分が誰かもわからなかったし、何が起きているのかもまったく理解していない。
「じゃあ、ここはどこ?」
「ここは、俺の家。お前は病気で記憶喪失になって、体調が回復したから今ここにいるんだ」
彼は目をそらしながらそういった。まだグッと堪えるような顔をしているのが、横顔でわかった。
彼の言葉は辻褄が合っているようで、合っていない。体調が回復したら、親元に戻るわけではないのか。どう考えても彼と血縁関係には見えない。
だけど、記憶がないわたしは、彼の言葉を信じるしかない。
「もう一つだけ、聞いてもいい?」
「なんだ」
「___記憶喪失する前のわたしと、あなたはどういう関係だったの?」
一瞬彼は泣き出す前の子どものような、不安定な顔をした。だが、すぐに笑顔に戻ると言った。
「俺とお前は___幼馴染、だよ」

