風呂から上がる頃には、クリスタはずいぶんと眠たそうだった。
「絵本を読みながら一緒に寝るわ」
「かしこまりました。寝室の前で待機しています」
二人と共に寝室へ移動する。すぐにハインツもやってきて、三人は仲良く寝室へ入っていった。
寝室の扉に背を預けながら時間が経つのを待つ。一晩くらい眠らなくても問題はないけれど、退屈なのは確かだ。
部屋からは本を読み聞かせるクラウディアの声が聞こえる。ふと、幼い頃を思い出した。
(お母さんも昔、よく絵本を読んでくれたっけ)
お金がなくて絵本を頻繁に買うことはできなかったから、同じ本を何度も読み聞かせてくれた。
おかげで何も見なくても本文を諳んじることができるようになったけれど、それでも読んでほしいとせがんだのを覚えている。
懐かしい気持ちになっていると、ユーリアがやってきた。
「お疲れ、フィーネ」
「ありがとう。でも、休んでていいのに」
「だって貴女、退屈でしょ」
だからきてあげたの、とユーリアが笑った。
「ねえ、フィーネ。楽しい話をしましょう。今回の依頼の報酬、どうやって使う?」
「家のローンじゃないの?」
頭金で大金を払ったが、まだ少しローンが残っている。だからてっきり、生活費の分を除いてローンの返済に充てるのだと思っていた。
「それもいいけど、記念すべき初依頼よ? なにか、パーッと使いたくない?」
「パーッと……」
「欲しい物とかないの?」
「うーん……魔法鞄、かな」
魔法鞄というのは、収納魔法が付与された特殊な鞄である。
見た目はただの鞄だが、内部にはかなり広い空間が広がっており、様々な物を簡単に持ち運ぶことができる。
日常でも戦場でも重宝される高級品だ。
「やっぱり」
ユーリアがにやけた顔でフィーネの頬をつついてきたため、慌てて首を横に振る。
「違うって。そういうのじゃないから。私はただ、日常遣いにも便利なアイテムだなと思って、一個くらい持っててもいいのかなって考えただけで……」
「そういうのって、どういうのだと思ったの?」
「……ユーリアの意地悪」
「私はただ、貴女に相応しい場所で輝いてほしいと思っているだけよ」
耳にタコができるほど聞かされた言葉だ。
「フィーネ。貴女の才能は、もっとたくさんの人を救うために役立てるべきだわ」
出会った時から変わらない、気高い誇りを宿した青色の瞳。彼女に背中を押されて、いつしか同じ夢を見るようになった。
「本当に今みたいな暮らしをずっと続けるつもりなの? 退屈でしょ?」
「……私は元々、のんびり生きるのが性に合ってるの」
一日中ベッドの上でだらだらして、お腹が空いたら適当な物を胃の中に突っ込んで眠る。それでいいはずだった。
たまたま、偶然と運命と必然が重なって忙しい日々を過ごしていただけ。退屈なんて感じるはずがない。
「ねえ、フィーネ。やっぱりもう一度挑戦してみない?」
「しない」
自分の口から出た声が思っていたよりも強くて、フィーネは慌ててユーリアの手を掴んだ。
「……ごめん。でも私は、今の仕事で精一杯だよ」
「フィーネ……」
「期待に応えられなくてごめん」
「……私こそ、ごめん」
「ううん。ユーリアが謝る理由なんて、一つもない」
(だって全部、私が悪い)
目を合わせられなくて、視線を窓の外へ移す。半分欠けた月が、夜空でぼんやりと輝いている。
あの日も、同じような月だった。
(たくさんの人を救えなくたってよかった。大切な人を守れたら、それだけでよかったのに)
時を戻せるのなら、絶対にあの日、戦場へ向かったりしない。
「絵本を読みながら一緒に寝るわ」
「かしこまりました。寝室の前で待機しています」
二人と共に寝室へ移動する。すぐにハインツもやってきて、三人は仲良く寝室へ入っていった。
寝室の扉に背を預けながら時間が経つのを待つ。一晩くらい眠らなくても問題はないけれど、退屈なのは確かだ。
部屋からは本を読み聞かせるクラウディアの声が聞こえる。ふと、幼い頃を思い出した。
(お母さんも昔、よく絵本を読んでくれたっけ)
お金がなくて絵本を頻繁に買うことはできなかったから、同じ本を何度も読み聞かせてくれた。
おかげで何も見なくても本文を諳んじることができるようになったけれど、それでも読んでほしいとせがんだのを覚えている。
懐かしい気持ちになっていると、ユーリアがやってきた。
「お疲れ、フィーネ」
「ありがとう。でも、休んでていいのに」
「だって貴女、退屈でしょ」
だからきてあげたの、とユーリアが笑った。
「ねえ、フィーネ。楽しい話をしましょう。今回の依頼の報酬、どうやって使う?」
「家のローンじゃないの?」
頭金で大金を払ったが、まだ少しローンが残っている。だからてっきり、生活費の分を除いてローンの返済に充てるのだと思っていた。
「それもいいけど、記念すべき初依頼よ? なにか、パーッと使いたくない?」
「パーッと……」
「欲しい物とかないの?」
「うーん……魔法鞄、かな」
魔法鞄というのは、収納魔法が付与された特殊な鞄である。
見た目はただの鞄だが、内部にはかなり広い空間が広がっており、様々な物を簡単に持ち運ぶことができる。
日常でも戦場でも重宝される高級品だ。
「やっぱり」
ユーリアがにやけた顔でフィーネの頬をつついてきたため、慌てて首を横に振る。
「違うって。そういうのじゃないから。私はただ、日常遣いにも便利なアイテムだなと思って、一個くらい持っててもいいのかなって考えただけで……」
「そういうのって、どういうのだと思ったの?」
「……ユーリアの意地悪」
「私はただ、貴女に相応しい場所で輝いてほしいと思っているだけよ」
耳にタコができるほど聞かされた言葉だ。
「フィーネ。貴女の才能は、もっとたくさんの人を救うために役立てるべきだわ」
出会った時から変わらない、気高い誇りを宿した青色の瞳。彼女に背中を押されて、いつしか同じ夢を見るようになった。
「本当に今みたいな暮らしをずっと続けるつもりなの? 退屈でしょ?」
「……私は元々、のんびり生きるのが性に合ってるの」
一日中ベッドの上でだらだらして、お腹が空いたら適当な物を胃の中に突っ込んで眠る。それでいいはずだった。
たまたま、偶然と運命と必然が重なって忙しい日々を過ごしていただけ。退屈なんて感じるはずがない。
「ねえ、フィーネ。やっぱりもう一度挑戦してみない?」
「しない」
自分の口から出た声が思っていたよりも強くて、フィーネは慌ててユーリアの手を掴んだ。
「……ごめん。でも私は、今の仕事で精一杯だよ」
「フィーネ……」
「期待に応えられなくてごめん」
「……私こそ、ごめん」
「ううん。ユーリアが謝る理由なんて、一つもない」
(だって全部、私が悪い)
目を合わせられなくて、視線を窓の外へ移す。半分欠けた月が、夜空でぼんやりと輝いている。
あの日も、同じような月だった。
(たくさんの人を救えなくたってよかった。大切な人を守れたら、それだけでよかったのに)
時を戻せるのなら、絶対にあの日、戦場へ向かったりしない。



