厭世の魔法人形屋~最強魔女とやり直す、大切な人との最期の1日~

「では、今から魔法人形を作ってまいりますので、クラウディア様はお風呂にでも入っていてください」
「……お風呂?」
「クリスタ様は、いつものお母様に会うのを楽しみにしていますから」

 フィーネが伝えると、クラウディアは頷いて立ち上がった。その肩をハインツが素早く支える。

「ユーリアはお客様についていてあげて。私は魔法人形を作ってくるから」
「了解」

 頷いたユーリアと別れ、屋敷の裏にある山へ向かう。山の中腹あたりまでくると、フィーネは感知魔法を用いて周囲に人がいないことを確認した。

 懐から杖を取り出す。魔法学園入学以前から愛用している、ヤーデの木で作られた細身の杖だ。杖の先端には、黄金色の琥珀が埋め込まれている。

 杖で空中に魔法陣を描く。杖の先端から放たれた琥珀色の光が、輝く魔法陣を空に描いた。
 風が吹いて、フィーネの前髪が揺れる。普段は隠れている黄金色の右目が露になった。

「ごめんね、クリスタ」

 謝罪の言葉を口にして、浮かび上がってきた土の中央にペンダントを投げる。彼女が三歳の誕生日にもらったという遺品だ。
 土はペンダントを包むように丸くなっていく。完全な球体になったところで、球体は内側から七色の光を発した。

 魔法人形の作成には、通常の属性魔法ではなく、複数の属性を組み合わせた魔法が必要になる。そのため、七色の光が混ざり合うのだ。
 土でできた球体を中心とした、七つの花弁を持つ光の花。

 美しい、なんて思うのは人間だけなのだろう。
 周囲の鳥や獣達が一斉に騒ぎ出す。まるで、神のような振る舞いを咎めるように。
 最後にもう一度魔法陣を描く。すると、眩しく光りながら花弁が散り、光が消えた瞬間、一人の少女が現れた。

(こんなところ、やっぱり依頼者には見せられないな)

 人間の形をした偽物、土でできた人間。
 神や生命に対する侮辱と捉えられても文句は言えない。
 けれどフィーネは、この人形が人を救うことがあると知っている。

「初めまして、クリスタ様。私はフィーネ・フェルナーです」
「……だあれ? おかあさまは?」
「貴女に会えるのを楽しみにお屋敷で待っています。私と一緒に行きましょう」

 手を差し出すと、クリスタはそっとフィーネと手を重ねた。手のひらが温かいのは彼女が生きているからではなく、フィーネの熱魔法によるものだ。

(人は、冷たい人形を人間だとは思えないから)

 何度も試行錯誤を繰り返し、限りなく人間に近い魔法人形を作れるようになった。だからフィーネは、誰よりも魔法人形が偽物だということを知っている。

「早くおかあさまに会いたいわ!」

 ぶんぶんとフィーネの手を振り回しながら、クリスタが大きな歩幅で歩き出した。しかし、クラウディアに会わせる前に伝えておかねばならないことがある。

「クリスタ様。お母様とお会いできるのは一日だけです」
「……わたくしが死んでしまったから?」
「はい」
「そう。わたくし、病気で死んじゃったのね……」

 魔法人形は通常、死因の記憶は持たない。しかしクリスタの場合、病気で寝込んでいた記憶がある。死因の推測は容易だろう。
 少しの間黙り込んだ後、クリスタは満面の笑みを浮かべた。

「だったら、早くおかあさまのところへ行かなくちゃ!」

 魔法人形は自らの死因を覚えていない。ただ、死んだことは理解している。
自らの死をあっさりと受け入れられるのは、彼女が偽物だから。フィーネが、そんな風に作っているからだ。

 どれほど人間に似ていても、生前の記憶を有しているとしても、魔法人形は偽物だ。しかも、フィーネによって都合よく作られた人形。
 言葉遣いや思考回路が本物とそっくりだとしても、本人ではない。

(ごめんなさい、神様)
 いつか地獄に落ちてしまってもいい。それでもフィーネには、この魔法が必要だったのだ。




「おかあさまっ‼」

 中で待っていられなかったのか、クラウディアは屋敷の正門前に立っていた。入浴を済ませ、髪を整え、着替えを済ませた彼女は別人のようである。
 なによりクリスタを見て涙を流す姿は、廃人のような先程までの姿とは百八十度違う。

「クリスタ……っ‼」

 折れそうな足で走ってきたクラウディアが、勢いよくクリスタを抱き締める。泣いている母を見つめ、クリスタは不思議そうな顔で首を傾げた。

「おかあさま、どうしたの? どこか痛い?」
「違うの、クリスタ。貴女に会いたくて、ずっと、ずっと……」
「わたくしもよ! そうだわ。ねえ、おとうさまもきて!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、クリスタは呆然と立ち尽くしていたハインツを呼んだ。ハインツはああ、と返事をし、慌てて彼女のもとへ駆け寄る。
 一瞬だけ目が合った時、彼は化け物を見るような眼差しでフィーネを見ていた。

「お疲れ様、フィーネ」

 ぽん、と右肩を叩かれる。

「……ありがとう、ユーリア。でも、ここからが本番みたいなものだから」

 魔法人形の作成にもそれなりに魔力を使うが、魔法人形の操作にはさらに魔力を使う。
 その上、通常の攻撃魔法と異なり、繊細な魔力操作を常に求められるのだ。
 少しでも魔力操作を間違えてしまえば、依頼者にトラウマを与えかねない。そのため、なるべく魔法人形からは距離をとらないことにしている。

「おかあさま、おとうさま。お庭で遊びたいわ。だめ?」

 無邪気に笑ったクリスタが両親の手を引く。ちら、と窺うようにこちらを見たハインツに頷きを返し、フィーネ達は庭へ移動した。