「おはよう、フィーネ」
目を覚ますと、見慣れた天井が目に入った。慌てて上体を起こすと、寝巻姿のユーリアと目が合う。
「……ここ、家?」
「そうよ。馬車の中で寝ちゃってたから、そのまま運んだの」
「えっ⁉ あ、ありがとう……ていうか、ごめん……」
「いいわよ。フィーネ、軽いし」
ちょっと大変だったけどね、と呟いてユーリアは大きくあくびをした。外を見ると、完全に日が沈んでいる。
「夕飯作ってあるから食べる?」
「あ、うん……ありがとう」
なにからなにまで、ユーリアの世話になりっぱなしだ。彼女がいなかったら、たぶん今日は食事を抜いていただろう。
ベッドから下りて居間へ向かう。今日の夕飯は仔牛肉のカツレツとオニオンスープ、そしてパンと果物だ。
「私はもう寝るわね。おやすみ、フィーネ」
皿に盛られた果物は新鮮だ。きっとフィーネが眠っている間に市場へ買いに行ってくれたのだろう。疲れているのは彼女も同じだろうに。
「……うん、おやすみ、ユーリア」
ユーリアはひらりと手を振って寝室へ消えていった。
フォークに手を伸ばし、揚げたてのカツレツを口に運ぶ。カリッとした衣と柔らかい肉のバランスが絶妙で、二口、三口……と夢中になって食べてしまう。
彼女が作ってくれる食事はどれも美味しい。
『えっ⁉ 貴女って普段、こんな家畜の餌みたいなご飯食べてるのっ⁉』
昔、ユーリアにそう言われたことは今でも覚えている。
彼女を初めて家に招いた日、気合を入れて豪華な食事を作ったつもりだったのに、ユーリアにドン引きされてしまった。
(いろいろ混ぜ過ぎって言われたけど、私としては効率よく食べられていいと思ってたんだよね……)
そう主張したら、ユーリアに溜息を吐かれた。あの日以来、ユーリアにキッチンに立たせてもらえなくなったのだ。
それなら、と代わりに掃除や洗濯を頑張ってみたりもしたけれど、どれもユーリアから及第点をもらうことはできなかった。
彼女からすると、フィーネの家事は全て雑らしい。水魔法で一気に食器を洗うのを披露した時、『食器が欠けちゃってるじゃない!』と怒られた。
ちょっとくらい欠けたって、食材を入れるのに問題はないのに。
「……あのアパート、今度なくなっちゃうんだよね」
魔法学園時代、ユーリアがフィーネのアパートに転がり込んでくる形で、二人の共同生活が始まった。
一人暮らし用のアパートは狭く、しかも家賃に見合ったぼろさで、生活環境がよかったとはお世辞にも言えない。
雨漏りも酷かったし、冬は寒くて夏は暑かった。
もうあんなところには住みたくないと思うのに、同時に懐かしくてたまらない。
あのアパートが老朽化を理由に取り壊されることになった、という話を少し前に噂で聞いた。
寂しいけれど、フィーネにはどうすることもできない。
こうやって少しずつ、思い出の場所がなくなってしまうのだろうか。
「はあ……」
溜息を吐いて、残っていたご飯を口の中に詰め込む。食事を終えると、食器を台所まで下げてから寝室へ戻った。
寝室には二台のベッドが並んでいる。右側がユーリアの、左側がフィーネのベッドだ。
馬車で長い間眠っていたけれど、まだ身体に疲れは残っている。
それに、起きていても特にやることはない。ベッドに転がって、ふわふわの布団を頭の上までかぶった。
目を閉じて思い出すのは、ハインツとクラウディアのことだ。
(私も二人みたいに、強くなれる日がくるのかな……)
大切な人の死を受け入れ、未来のために歩み出す。そんな日が自分にもくるのだろうか。
「んぅ……フィーネ、だめよ、そんなに無理したら倒れちゃう……っ!」
布団をめくり、隣で眠るユーリアの寝顔を確認する。いつもの寝言だ。
「……ユーリア」
眠っているから、もちろん返事はない。そっと彼女の頭を撫でて、フィーネはもう一度目を閉じた。
目を覚ますと、見慣れた天井が目に入った。慌てて上体を起こすと、寝巻姿のユーリアと目が合う。
「……ここ、家?」
「そうよ。馬車の中で寝ちゃってたから、そのまま運んだの」
「えっ⁉ あ、ありがとう……ていうか、ごめん……」
「いいわよ。フィーネ、軽いし」
ちょっと大変だったけどね、と呟いてユーリアは大きくあくびをした。外を見ると、完全に日が沈んでいる。
「夕飯作ってあるから食べる?」
「あ、うん……ありがとう」
なにからなにまで、ユーリアの世話になりっぱなしだ。彼女がいなかったら、たぶん今日は食事を抜いていただろう。
ベッドから下りて居間へ向かう。今日の夕飯は仔牛肉のカツレツとオニオンスープ、そしてパンと果物だ。
「私はもう寝るわね。おやすみ、フィーネ」
皿に盛られた果物は新鮮だ。きっとフィーネが眠っている間に市場へ買いに行ってくれたのだろう。疲れているのは彼女も同じだろうに。
「……うん、おやすみ、ユーリア」
ユーリアはひらりと手を振って寝室へ消えていった。
フォークに手を伸ばし、揚げたてのカツレツを口に運ぶ。カリッとした衣と柔らかい肉のバランスが絶妙で、二口、三口……と夢中になって食べてしまう。
彼女が作ってくれる食事はどれも美味しい。
『えっ⁉ 貴女って普段、こんな家畜の餌みたいなご飯食べてるのっ⁉』
昔、ユーリアにそう言われたことは今でも覚えている。
彼女を初めて家に招いた日、気合を入れて豪華な食事を作ったつもりだったのに、ユーリアにドン引きされてしまった。
(いろいろ混ぜ過ぎって言われたけど、私としては効率よく食べられていいと思ってたんだよね……)
そう主張したら、ユーリアに溜息を吐かれた。あの日以来、ユーリアにキッチンに立たせてもらえなくなったのだ。
それなら、と代わりに掃除や洗濯を頑張ってみたりもしたけれど、どれもユーリアから及第点をもらうことはできなかった。
彼女からすると、フィーネの家事は全て雑らしい。水魔法で一気に食器を洗うのを披露した時、『食器が欠けちゃってるじゃない!』と怒られた。
ちょっとくらい欠けたって、食材を入れるのに問題はないのに。
「……あのアパート、今度なくなっちゃうんだよね」
魔法学園時代、ユーリアがフィーネのアパートに転がり込んでくる形で、二人の共同生活が始まった。
一人暮らし用のアパートは狭く、しかも家賃に見合ったぼろさで、生活環境がよかったとはお世辞にも言えない。
雨漏りも酷かったし、冬は寒くて夏は暑かった。
もうあんなところには住みたくないと思うのに、同時に懐かしくてたまらない。
あのアパートが老朽化を理由に取り壊されることになった、という話を少し前に噂で聞いた。
寂しいけれど、フィーネにはどうすることもできない。
こうやって少しずつ、思い出の場所がなくなってしまうのだろうか。
「はあ……」
溜息を吐いて、残っていたご飯を口の中に詰め込む。食事を終えると、食器を台所まで下げてから寝室へ戻った。
寝室には二台のベッドが並んでいる。右側がユーリアの、左側がフィーネのベッドだ。
馬車で長い間眠っていたけれど、まだ身体に疲れは残っている。
それに、起きていても特にやることはない。ベッドに転がって、ふわふわの布団を頭の上までかぶった。
目を閉じて思い出すのは、ハインツとクラウディアのことだ。
(私も二人みたいに、強くなれる日がくるのかな……)
大切な人の死を受け入れ、未来のために歩み出す。そんな日が自分にもくるのだろうか。
「んぅ……フィーネ、だめよ、そんなに無理したら倒れちゃう……っ!」
布団をめくり、隣で眠るユーリアの寝顔を確認する。いつもの寝言だ。
「……ユーリア」
眠っているから、もちろん返事はない。そっと彼女の頭を撫でて、フィーネはもう一度目を閉じた。



