「フィーネさん。わたくし、もう消えるのよね」
クリスタを作り出した場所へ着くと、彼女は表情を消して地面に座り込んだ。
「うん。もう、終わり」
「……ありがとう」
空中に魔法陣を描く。眩い光がクリスタを包み、次の瞬間、巨大な光の花が現れた。
クリスタを作った時と同じ、七色の花弁を持つ花。
「さようなら、クリスタ」
花は美しく輝いた後、一瞬で枯れた。
ぽとり、と花の中央からペンダントが落ちてくる。ペンダントは腐り始めていた。
遺品を核に魔法人形を作る。物には死者の魂がわずかに残っていて、それを拡大し、死者に関する知識と繋ぎ合わせ、本物同然の人間を生み出すのだ。
黒い光を放ち始めたペンダントを手のひらにのせた。ここにはまだ、クリスタの魂がわずかに残っている。
けれど、魂はすり減っていて、もう元の人格は残っていない。
もう一度このペンダントを核に魔法人形を作ろうとしても、出来上がるのは化け物だろう。
(だから、ちゃんと終わらせてあげなきゃ)
両手でペンダントを丁寧に包む。白い光に包まれて、ペンダントは完全に消失した。
「安らかに眠ってね、クリスタ」
杖をしまい、大の字になって地面に寝転がる。そういえば昨日は徹夜だったな、ということを思い出すと睡魔もやってきてしまった。
とはいえ、家へ帰るまでが仕事である。
フィーネは気力を振り絞って起き上がり、下山を始めた。
◆
屋敷に戻ると、ハイドン侯爵夫妻は庭でユーリアと共にフィーネを待っていた。二人とも泣き腫らした目をしているが、晴れやかな表情を浮かべている。
(よかった)
フィーネの姿を見つけると、二人は支え合うようにして共に歩き出す。彼らより先に、ユーリアが全速力で駆け寄ってきた。
「フィーネ、大丈夫⁉」
「大丈夫。ちょっと疲れちゃったけど」
「ちょっとじゃないわよ! 二十四時間、全属性の魔法を使いっぱなしにしてたんだから‼」
「……平気だよ、それくらい」
「無茶しないで。私が抱えてあげるから」
そう言って、ユーリアはフィーネを抱きかかえようとした。慌てて止めると、不満そうな顔で見つめてくる。
「それより、帰りの馬車、探してきてくれないかな?」
「……分かった」
頷くと、ユーリアは再び全速力で走っていった。行ってらっしゃい、という頃にはもう彼女の背中は見えなくなっている。
ハイドン夫妻は口を大きく開けて驚いていた。
「……これにて、依頼は終了となります」
「「ありがとうございました」」
ぴったりと重なった声に、二人はきっと大丈夫だろうと感じる。二人ならきっと、娘の死を乗り越えて前に進めるはずだ。
「クリスタのためにも、私達がこれ以上沈み込んでいるわけにはいかない。ようやく心の整理がついたのは君のおかげだ」
そう言うと、ハインツは懐から革袋を取り出した。受け取って中を確認すると、金貨と銀貨が半分ずつくらい、びっしりと詰まっている。
「あの、料金は事前にいただいてますよ……?」
「これは礼だ。受け取ってくれ」
「……そ、それでは、ありがたく頂戴いたします」
大金をあっさり遠慮できるほど懐に余裕はないし、せっかくの好意を断るのも野暮だろう。革袋を丁寧にしまうと、ユーリアが正門の方から走ってきた。
「フィーネ! 馬車、見つかったわよ」
行きはハインツに同乗させてもらったが、帰りまでハイドン侯爵家の世話になるのは気が引ける。ユーリアも同じように考えているはず。
「もう帰られるの? もう少し、ゆっくりしていってもいいのに」
「お気遣いありがとうございます、クラウディア様。ですが、次の仕事がありますので」
真っ赤な嘘である。次の依頼なんてまだきていない。
身体も疲れているし、本音を言えばあと一日くらい屋敷で休ませてほしい。しかし、フィーネ達がこれ以上長居しても、二人にいい影響はないだろう。
「それでは失礼します。お二人とも――いえ、お三方とも、お元気で」
慣れない笑顔はぎこちなかったかもしれないけれど、二人も笑い返してくれた。また会いましょう、なんて言わない。
もう二度と、フィーネのことなんて必要としない方がいいに決まっているから。
二人に背を向けて歩き出す。なぜか、いきなりユーリアに手を握られた。
「ユーリア、どうしたの?」
「なんとなく」
ユーリアの手のひらは、フィーネのそれよりも少しだけ温かい。だから、手を握られるといつもホッとする。
「おつかれさま、フィーネ。よく頑張ったわね」
「……うん」
「貴女が二人を救ったの。やっぱりフィーネは、人を救う力を持ってるんだわ」
相も変わらず、ユーリアはフィーネのことを誇らしげに語った。
「……あの二人が、乗り越えるだけの力を持ってただけだよ」
「私はそうは思わないわ。力を持っていた人でも、きっかけがないと始まらないことだってあるじゃない」
ねえ、と笑いながらユーリアが腕を組んでくる。フィーネが黙り込んでしまうと、彼女は楽しそうに声を上げて笑った。
「お礼も弾んでもらっちゃったみたいだし、パーッと使っちゃいましょ。帰りの馬車で欲しい物、ちゃんと考えておかないとね」
ユーリアが呼んでくれた馬車に乗り込む。ハイドン侯爵家が所有する馬車のように上等な物ではなく、座席部分がかなり硬い。
それでも気が緩んで、座ると眠くなってきた。
「寝てていいわよ。なにかあったら起こしてあげるから」
「……ありがとう、ユーリア」
目を閉じ、ユーリアの肩に頭を預ける。一分も経たずに、フィーネは意識を手放した。
クリスタを作り出した場所へ着くと、彼女は表情を消して地面に座り込んだ。
「うん。もう、終わり」
「……ありがとう」
空中に魔法陣を描く。眩い光がクリスタを包み、次の瞬間、巨大な光の花が現れた。
クリスタを作った時と同じ、七色の花弁を持つ花。
「さようなら、クリスタ」
花は美しく輝いた後、一瞬で枯れた。
ぽとり、と花の中央からペンダントが落ちてくる。ペンダントは腐り始めていた。
遺品を核に魔法人形を作る。物には死者の魂がわずかに残っていて、それを拡大し、死者に関する知識と繋ぎ合わせ、本物同然の人間を生み出すのだ。
黒い光を放ち始めたペンダントを手のひらにのせた。ここにはまだ、クリスタの魂がわずかに残っている。
けれど、魂はすり減っていて、もう元の人格は残っていない。
もう一度このペンダントを核に魔法人形を作ろうとしても、出来上がるのは化け物だろう。
(だから、ちゃんと終わらせてあげなきゃ)
両手でペンダントを丁寧に包む。白い光に包まれて、ペンダントは完全に消失した。
「安らかに眠ってね、クリスタ」
杖をしまい、大の字になって地面に寝転がる。そういえば昨日は徹夜だったな、ということを思い出すと睡魔もやってきてしまった。
とはいえ、家へ帰るまでが仕事である。
フィーネは気力を振り絞って起き上がり、下山を始めた。
◆
屋敷に戻ると、ハイドン侯爵夫妻は庭でユーリアと共にフィーネを待っていた。二人とも泣き腫らした目をしているが、晴れやかな表情を浮かべている。
(よかった)
フィーネの姿を見つけると、二人は支え合うようにして共に歩き出す。彼らより先に、ユーリアが全速力で駆け寄ってきた。
「フィーネ、大丈夫⁉」
「大丈夫。ちょっと疲れちゃったけど」
「ちょっとじゃないわよ! 二十四時間、全属性の魔法を使いっぱなしにしてたんだから‼」
「……平気だよ、それくらい」
「無茶しないで。私が抱えてあげるから」
そう言って、ユーリアはフィーネを抱きかかえようとした。慌てて止めると、不満そうな顔で見つめてくる。
「それより、帰りの馬車、探してきてくれないかな?」
「……分かった」
頷くと、ユーリアは再び全速力で走っていった。行ってらっしゃい、という頃にはもう彼女の背中は見えなくなっている。
ハイドン夫妻は口を大きく開けて驚いていた。
「……これにて、依頼は終了となります」
「「ありがとうございました」」
ぴったりと重なった声に、二人はきっと大丈夫だろうと感じる。二人ならきっと、娘の死を乗り越えて前に進めるはずだ。
「クリスタのためにも、私達がこれ以上沈み込んでいるわけにはいかない。ようやく心の整理がついたのは君のおかげだ」
そう言うと、ハインツは懐から革袋を取り出した。受け取って中を確認すると、金貨と銀貨が半分ずつくらい、びっしりと詰まっている。
「あの、料金は事前にいただいてますよ……?」
「これは礼だ。受け取ってくれ」
「……そ、それでは、ありがたく頂戴いたします」
大金をあっさり遠慮できるほど懐に余裕はないし、せっかくの好意を断るのも野暮だろう。革袋を丁寧にしまうと、ユーリアが正門の方から走ってきた。
「フィーネ! 馬車、見つかったわよ」
行きはハインツに同乗させてもらったが、帰りまでハイドン侯爵家の世話になるのは気が引ける。ユーリアも同じように考えているはず。
「もう帰られるの? もう少し、ゆっくりしていってもいいのに」
「お気遣いありがとうございます、クラウディア様。ですが、次の仕事がありますので」
真っ赤な嘘である。次の依頼なんてまだきていない。
身体も疲れているし、本音を言えばあと一日くらい屋敷で休ませてほしい。しかし、フィーネ達がこれ以上長居しても、二人にいい影響はないだろう。
「それでは失礼します。お二人とも――いえ、お三方とも、お元気で」
慣れない笑顔はぎこちなかったかもしれないけれど、二人も笑い返してくれた。また会いましょう、なんて言わない。
もう二度と、フィーネのことなんて必要としない方がいいに決まっているから。
二人に背を向けて歩き出す。なぜか、いきなりユーリアに手を握られた。
「ユーリア、どうしたの?」
「なんとなく」
ユーリアの手のひらは、フィーネのそれよりも少しだけ温かい。だから、手を握られるといつもホッとする。
「おつかれさま、フィーネ。よく頑張ったわね」
「……うん」
「貴女が二人を救ったの。やっぱりフィーネは、人を救う力を持ってるんだわ」
相も変わらず、ユーリアはフィーネのことを誇らしげに語った。
「……あの二人が、乗り越えるだけの力を持ってただけだよ」
「私はそうは思わないわ。力を持っていた人でも、きっかけがないと始まらないことだってあるじゃない」
ねえ、と笑いながらユーリアが腕を組んでくる。フィーネが黙り込んでしまうと、彼女は楽しそうに声を上げて笑った。
「お礼も弾んでもらっちゃったみたいだし、パーッと使っちゃいましょ。帰りの馬車で欲しい物、ちゃんと考えておかないとね」
ユーリアが呼んでくれた馬車に乗り込む。ハイドン侯爵家が所有する馬車のように上等な物ではなく、座席部分がかなり硬い。
それでも気が緩んで、座ると眠くなってきた。
「寝てていいわよ。なにかあったら起こしてあげるから」
「……ありがとう、ユーリア」
目を閉じ、ユーリアの肩に頭を預ける。一分も経たずに、フィーネは意識を手放した。



