俺を嫌いな君へ。

 紫地に金色の文字で『総合優勝二連覇!』と印刷されたTシャツ。

 今年もドぎつい文化祭Tを着た長澤が、海渡くんと連れ立って登校してきた俺の顔を見るなり、ニヤッと笑った。

「南、今日は顔色が良さそうだな」

 顔が熱くなって俯く俺とは対照的に、海渡くんは顎を上げて得意気に笑う。

「そりゃ、そうだろう。なんたって俺が寝かし―――」

「ちょっ!ちょっと!海渡くん!」

 慌てて海渡くんの口を手で塞ぐけれど、長澤はなにもかも察したように、はっはっは!と高笑いした。

 長澤のやつ、またお姉さんに逐一報告するつもりだろ。
 去年の文化祭でのちょっとした騒動は、そのままお姉さんの小説のネタになったらしく、俺たちの手元には紅白まんじゅうが届けられた。

 ……あれ、有名な菓子店のやつで、何気に美味かったんだよな。今年はなにが届くかな。
 って、違う違う……!
 俺たちはネタのためにカップルやってるわけじゃないんだからな。

「二人とも、今年も期待してるぞ。のど自慢コンテストの優勝と、うちの姉様へのネタの献上」

「長澤〜〜〜」

 筋肉の鎧をまとう二の腕を掴もうと伸ばした手は、海渡くんの骨ばった手に絡めとられる。

「危ないぞ。優里が怪我する」

「いや、そんなわけ……」

 海渡くんこそ、今年ははりきって三曲も演奏する予定なんだから、手を大事にしてほしいんだけど。

「優里くん、おっはよ〜!」

 明るい声とともに、冬馬くんがうしろから肩をぶつけてくる。よろけそうになった俺の体を、海渡くんがとっさに支えてくれた。

「冬馬、優里が転んだりしたらどうするんだ!」

「もう、海渡は相変わらず重いんだってば!俺たちみたいに爽やかに愛を育んで―――」

「まあ、冬馬くんも似たようなもんだろ。ね、さっちゃん」

 俺の言葉に眉をしかめた冬馬くんの隣では、丸橋さんことさっちゃんがクスクスと笑っている。
 『さっちゃん』と呼ぶだけで嫌そうな顔をする冬馬くんだって、充分重いだろう。

 俺とさっちゃんは溺愛彼氏を持つもの同士、すっかり仲良くなって愚痴や惚気を言い合うようになっていた。
 時々、しれっと長澤が混ざっているけどな。

「長澤だって優勝に貢献しろよ。『まさかのヒーロー覚醒賞』狙ってるんだろ?白石と」

 海渡くんが、長澤のぽっこり盛り上がった肩をたたく。
 人には怪我するとか言っておきながら……。
 でも、長澤の顔がみるみる赤くなって面白い。

 クソ真面目で熱血漢な学級委員長と、いつでも底抜けに明るいギャル。
 意外な組み合わせすぎるけど、不思議とお似合いなんだよな。

 白石さんの猛アプローチに逃げ回っていた長澤も、最近じゃすっかり大人しくなっている。
 恋愛からは程遠い文化祭バカの猛獣を、ここまで手懐けてしまった白石さんがすごすぎる。

 ……長澤、まさか自分のことまでネタとして提供してないだろな?

 一抹の不安がよぎった俺の耳元に、海渡くんの低くて甘い声が落ちてきた。

「優里、後夜祭は視聴覚室な」

 囁かれた耳を押さえながら睨みつける俺の顔は、絶対また赤くなってる。

 海渡くんはとろりとハチミツをたらしたような瞳で俺を見て、それからトンと肩をぶつけてきた。



 〜Fin〜