クールな彼は嘘をのむ

 俺は芦澤(あしざわ)(れん)。沼らない男。
 大学3年。わりと陽キャだ。
 今は昼飯を、サークル仲間と食っている。食後にデザートは、欠かせない。
「芦澤さん、またそれ食ってるんすか?」
 一年の竹下が、俺のレトロプリンを覗き込む。
「二週間は、食べてますよね。同じの」 
 同じく一年の桜井が、苦笑する。
「今は、流行り廃りのサイクルが早いからな、食べられる時に、食べておかないと……」
 二人は、視線を合わせ、笑う。

――仲がいいな。……羨ましくはないが。

   *

 俺は芦澤漣。沼らない男。
 推し活など、時間と金の無駄だ。
 桜井は昔、好きだったアニメのコンビニくじを、探しに探して、十回も引いたらしい。しかも、全部、アクキーだとか。 
 俺も昔、たまたま同じアニメのくじを、たまたま入ったコンビニで見つけ、たまたま最後の九回だけ引いて、ラストワン賞をもらったがな。

――あれは今でも、神のように崇めている。

   *

 俺は芦澤漣。沼らない男。
 執着などとは、無縁だ。
 最近、竹下と桜井が、急に仲良くなった。 
 会う頻度、話す距離、一緒にいる時の表情が、前とは違う。
 俺はこの授業は取っていないが、この広い階段教室の一番後ろの席から、二人を見下ろしている。
「!」
 竹下と桜井が、なにやらコソコソ筆談し始めた。その様子、メモしなくては。

 二人の観察日記も、もう二冊目が終わろうとしていた。 

   *

 俺は芦澤漣。沼らない男。
 二週間程前、二年間付き合っていた、バイト先の上司に、妻子がいるとわかり、こちらからあっさりと振ってやった。

――ピリリリリリ……。

 電話だ。知らない番号だが――
「……」
 出てしまった。
「あなたね!うちの主人をたぶらかした女は!」
 女性が怒っている。――が、俺は、その女性が言う『女』ではない。たぶん。
「――すみませんが。かけ間違い、では?」
「あ、あら、男の方?……失礼しました」

 電話が切れた。――知らん。

   *

 俺は芦澤漣。沼らない男。
 たぶんな。