追い越せ!青春!

 コンビニ限定のお菓子を数点購入して公園へと戻れば、すでに陽菜たちが戻ってきていた。コンビニよりもスーパーの方が遠いはずなのに、なんでだ。不思議に思いながら「帰ったぞ」と買い物袋を持っていない方の手を肩のあたりまで持ち上げる。

 陽菜たちは公園に設置されたベンチに座っており、湊たちに気がつくと手を振って迎えた。

「遅いよー! どこで道草食ってたの!」
「普通に一番近いコンビニ行って帰ってきただけだわ!」

 ぷくっと頬を膨らませた陽菜の前に買ってきたものを置く。それだけで不満そうだった陽菜の表情はぱあっと明るくなった。早速袋の中のお菓子をベンチの上に並べて、「杏子、これ美味しそうじゃない?」と騒ぎ始める。

「お菓子パーティするって話だけど、ここでやるの?」

 持っていた袋を陽菜に奪われながら涼太が尋ねる。湊は公園を見渡して、ここじゃ無理だろ、と思った。

 この公園にはブランコと滑り台しかなくて、あとは小さな砂場とグラウンドというには狭すぎる広場があるだけだった。休憩するスペースも今、陽菜と杏子が座っているベンチくらいで、日除けになる場所もない。

「それなら、湊の家でやろう!」

 当然のように言う陽菜に湊は手で大きなバツを作る。

「ダメダメ。僕の家はダメだから」
「どうして? 誰もいないじゃん?」
「そうだけど、部屋汚いし、今から掃除したくないし」

 「どうしても?」と聞かれるが、できないことはできないのだ。湊は頑なに自分の家を会場に使うことを拒む。すると隣で杏子が手を上げた。

「それなら、私の家に来ない? お母さんがいるけど、きっとみんなが来ても問題ないと思うよぉ」
「杏子の家? 行きたい! 行ってみたい!」

 目を輝かせ杏子の手を握る陽菜の様子は、まるで初めていく友達の家に興奮しているみたいだった。

「じゃあ、小鳥遊の家で決まり。さっさと移動しよう」
「そうだね。時間は有限! 一秒たりとも無駄にしたらダメだからね!」

 大きく鼻を膨らませながら陽菜が張り切る。その横で杏子が「そんなに期待しないでよー。大した家じゃないんだからぁ」と戸惑うように零していた。


 かくして、四人は杏子の家まで出発することになる。

 杏子の家は公園からそう遠くない位置にあるらしい。学校を中心に考えて、西側に湊と陽菜の家があるとしたら、南側の方に杏子の家はあった。公共交通機関を利用しなくても杏子の家に行けるのは、今月のお小遣いが底をつきかけている湊にとって良いことだった。

「ねぇ、そのノート。他にどんなことが書いてあるの?」
「ふふん、良くぞ聞いてくれたね! 例えば、ここ見て……」

 前を歩く女子二人が顔を突き合わせながら歩いている。楽しそうに笑う二人を見ていると、なぜか湊の心も温まるようだった。

「それでね、リストのここでは、湊に一発芸してもらうんだ」
「……はぁ? やらないぞ、僕は!」

 微笑ましく思いながら会話を聞いていたらまさかの飛び火した。湊はその火の粉を振り払うように顔を顰める。すると陽菜は「冗談じゃん」とケラケラと笑うから湊はなんだか面白くない気持ちになった。

「まぁ、まぁ、そんなに拗ねるなって。それに、俺は見たいね。湊の一発芸」

 肩に手を回され、至近距離で涼太がニヤリと笑う。湊はこめかみをぴくりと震わせながら「だから、やらんってば!」と涼太の体を突き返す。涼太は残念そうにわざとらしく肩を落とすと、「楓原ー、お前の幼馴染、ちょー怖い」と泣きつきにいく。

「誤解を招くような言い方をするな!」
「ダメだよ、湊! お友達は大切にしないと!」
「……っう、してるわ! ちゃんと……!」

 大事だと思ってる、そう言おうとしてハッと言葉を止める。油を差し忘れた機械のようにゆっくりと涼太の方を向けば、涼太は口元を手で隠しながらニヤニヤと笑っていた。そして、その少し向こうでニコニコと嬉しそうに笑う陽菜がいて——。

「あぁ、もう! さっさと行くぞ!」

 売り言葉に買い言葉。言わなくてもいいことまで言ってしまい(正確には言いかけて)、涼太と陽菜のいたずら心に火をつけてしまった。涼太と陽菜はお互いに目を見合わせると、さっさと歩き出した湊の両脇に陣取る。「近づくな」、「離れろ」といくら言っても二人は聞く耳を持たない。

「あ、湊くん、そっちじゃないよー」

 そして、杏子の家までの道のりを知らなかった湊は、案の定、道を間違えるのだった。