追い越せ!青春!

 各々お菓子を買ったら公園に集合すると決めて湊と涼太は女子二人に背を向けて歩き出す。

 通勤ラッシュの時間は過ぎているからか、公園からコンビニまでの道沿いはあまり車が走っていない。

「お前もよく、こんな朝早くからあいつに付き合うよな」
「まぁ、他にやることもないし」
「でも、まだ夏休み初日だぞ。せっかく学校が休みになったんだから、もっとゆっくり過ごしたかったよ、僕は」
「でも、結局付き合っちゃうんだろ?」

 涼太が全部わかっていますというような自信ありげな顔で言う。その顔がなんとなく気に食わなくてわざと体をぶつけにいく。「やめろよ」と口では嫌がるが涼太は楽しそうに笑っていた。

「まぁ、惚れた弱みってやつでしょ」
「は、はぁ? な、何言ってるんだよ、涼太!」
「あれ? 違った? 俺の目からはそう見えたけど」

 涼太の目には一体何が見えたのか。それを問いただすよりも前に、涼太が「いいよなぁ、可愛い幼馴染がいて」と羨ましそうにぽつりと零した。

「何もいいことなんてない。勝手に部屋に入ってくるし、話は聞いてもらえないし。一緒にいることが当たり前だと思われてるから、こうやって朝から付き合わされて、僕の夏休みの計画が台無しだ」
「どうせ、ゲーム三昧なんだろ? なら、みんなで思い出作りしたっていいだろ」

 呆れたように肩を竦めた涼太のことを湊は睨みつける。心の中で「この裏切り者め」と呟くことを忘れずに。

 湊は地面に転がっていたちょうどいい大きさの石を爪先で弾く。コロコロと転がっていく石を見つめながら「ていうか、なんで今更」と愚痴る言葉が止められない。確かに、涼太が言うように、陽菜に付き合わされることはそれほど嫌ではない。むしろ全力で今を楽しむ姿勢は見ていて清々しいとすら思う。

「別に、受験があったって、来年も夏休みはあるんだから。この夏であのノートに書いてあること全部やらなくてもいいだろ」
「あはは、確かにそうかも」

 蹴った石に追いついたからもう一度石を弾く。石は乾いた音を立てながら転がると、側溝に落ちていってしまった。石の行先を見守っていた涼太は「でもさ」と口を開く。湊が視線を向ければ、涼太は遠くの空を見ていた。


「きっと、今じゃなきゃダメなんだろ。来年の夏じゃなくて、この夏……この時じゃないと」
「そんなに変わるものか?」
「俺たちにとってはきっとそんなに変わらないかも。でも——」


 涼太が何か大事なことを言おうとした時、ちょうど二人はコンビニに着いた。青と白を基調とした、有名チェーン店だ。湊はやっと一時的にでも暑さから解放されると心の中で喜んだが、涼太が何を言いかけたのかが気になり視線を送った。涼太はその視線に気がついているようだったが、一瞬視線を逸らしたかと思うと「今のコンビニ限定のお菓子って何があるかな」とはぐらかされた。

「おいおい、さっき何を言いかけたんだよ」
「ん? 何も言いかけてないだろ? それよりも、早く買って公園に戻ろう」

 さっさとコンビニに入っていく涼太の背中を見て、釈然としない気持ちを抱える。だけど、涼太が一度決めたことを覆すことはほぼないので、ここでどれだけ問い詰めても涼太が答えないだろうと予測できた。湊は「絶対に何か言いたそうだったのに」と口を尖らせながら、涼太の後を追う。