追い越せ!青春!

 ぼんやりとそんなことを考えていた矢先、陽菜がパッとノートを開いた。

「もちろん! ショッピングするだけじゃ終わらないよ! それじゃあ、ただのお買い物になっちゃうからね!」
「具体的には何をすればリストは埋まっていくの?」

 涼太が陽菜に尋ねれば、陽菜は胸を張って答える。

「まずは、みんなと映画を見る! あ、ポップコーンとジュースも忘れずにね! それと、みんなとお買い物を楽しんで、フードコートでご飯を食べて、それからアイス屋さんのアイスを食べれるだけ食べるの!」
「それ、ほとんど食いもんしかないじゃん」

 陽菜のやりたいことリストを聞きながら、湊は思ったことをつい口にしてしまう。すると陽菜は「チッチッチ」と舌を鳴らしながら人差し指を揺らす。

「この私のリストが、ただ食べて終わるわけないでしょ」

 妙に鼻につく言い方をされて、湊はこめかみをぴくりと動かしながら「じゃあ、他には何があるんだよ」と聞き返した。

「みんなとゲームセンターで遊んで、みんなと一緒にプリクラを撮るの!」
「いいねぇ。プリクラ、小学校の時に撮ったのが最後だから楽しみー」
「でしょ、でしょ! みんなで変顔して撮ろう!」

 満面の笑みを浮かべる陽菜に杏子が賛同する。こういう時、女子の結束力は強い。

 プリクラなんて撮ったことのなかった湊は涼太に「本当に僕たちがやるのか」という意味を込めた視線を送る。その視線に気がついた涼太は「俺はプリクラ撮ったことあるから」となぜかマウントを取られた。

「よーし! 早速映画館に行って何見るか決めよう!」
「あ! おい……!」

 そう言って陽菜は湊の手を掴んで駆け出す。突然引っ張られた湊は咄嗟に涼太の腕を掴む。そして、涼太は少し驚きながらも杏子に手を伸ばして……四人で手を繋ぎながら映画館に向かった。

 ぎゅっと陽菜に握られた柔らかい手から温もりを感じて、湊の心臓はドキッとする。意識をした途端、手汗が噴き出てきてすぐにでも手を振り払いたくなった。だけど、どうしても湊からその手を解くことはできず、結局映画館に着くまでずっと握ったままだった。

 目の前で楽しそうに笑う陽菜。その笑顔に引っ張られるように湊の口元も知らずうちに緩んでいく。

 すれ違う人が微笑ましい視線を向けてきても、何も気にならないほど、このしょうもなくて、くだらない時間が愛おしいと、湊は心の奥底で感じた。

 映画館に着くと、壁に貼られたポスターを見ながら何を見ようかと四人で話し合う。人気な映画はすぐの座席がほぼ埋まっていた。

「これとかどう? テレビでCM見たよ。今の流行りなんでしょ?」


 陽菜が指差したポスターは恋愛が主題の映画だった。たしかにテレビで広告を見た気がするが、今の流行りだったか、と首を傾ける。それよりも、今の流行りと言えば——。


 映画館のポスターを見渡して目的のものを探したが、お目当ての映画は見つからなかった。たしか、相当な人気で、全国展開もされているはずなのに、この映画館では上映されていないのだろうか。

 不思議に思って涼太たちに尋ねようとした時、陽菜が「じゃあ、この映画で決まりだね!」と親指を立ててグッドサインを作る。

「うん、私はいいよー。久しぶりに恋愛映画を見るのも悪くないし」
「俺も、こだわりないからそれでいいよ。湊は?」


 突然話を振られた湊は一瞬言葉に詰まった。それよりもあの映画は、と考えてからどの映画のことだ、と頭が真っ白になる。知ってるはずなのに、知らない映画のタイトルが出てこない。記憶の中にズレがあるような感覚に、湊は気持ち悪さを覚えて思わず手で口元を覆う。


「湊? どうしたの? 気分悪いの?」

 様子がおかしい湊を心配そうに陽菜が覗き込む。大丈夫、と言いたかったのに言葉は声にならない。

 その時、涼太が体を支えてくれて、ゆっくりとした足取りで近くの椅子へ連れて行ってくれた。

「……ごめん。なんか、おかしくて」

 小刻みに震える体を抑え込みながら、泣きそうな気持ちになる。せっかくの楽しい時間を自分なんかのせいで台無しにしてしまったのではないか。そう考えると、自分のことが嫌になった。