追い越せ!青春!

 ギラギラと光る太陽。
 もくもくと立ち昇る入道雲。
 みんみんとうるさいほど元気に鳴いている蝉。

 担任である立川雄大ことタツセンがこの夏がいかに重要か熱弁している。だが、そんなものは夏休みを前に浮かれていた朝倉湊には関係ない。

 勉強? 恋愛? 部活?

 いいや、違うね! 高校二年生の夏休みにやることといえば、そう——。


「『この夏にやりたいことリスト百選!』。一緒にやってくれるでしょ、湊!」


 幼馴染の楓原陽菜がデカデカとタイトルの書かれたノートをずいっと見せてくる。

 当然付き合ってくれるでしょ、と言わんばかりの笑顔に湊もにっこりと笑顔を返す。そして、当然湊は——。


「——いや、やらないからね!? 僕は家で新作ゲームをやるという高尚な目的があって……」

「ううん、湊もやるんだよ! 一緒にね!」


 湊『も』ってことは……。背後から忍び寄ってきた気配にハッと振り返れば、同じタイミングで思いっきり頭を抱きしめられた。

「当然! 楽しいことはみんなでやらなきゃ、だろ?」
「陽菜ちゃんはいつも楽しいことを考えてすごいなぁ」

 体育会系のくせに部活に入っていない遠坂涼太とのほほんとマイペースに喋る小鳥遊杏子が後ろにしっかりと待機していた。つまり、準備は万端ということか。

 湊は涼太の腕の中から顔を出すと、してやったりとほくそ笑む陽菜を睨みつける。しかし、陽菜は全く気にしていないようで、もう一度持っていたノートを突きつけてきた。


「私たちのこの夏は一回きりしかないんだから、楽しまなきゃ損だよね!」


 同意を求めるように顔を近づけてきた陽菜の圧力に負けないように、と考えていたはずだった。なのに、その瞳が期待に満ちてキラキラと輝いていたから。


 ——湊は思わず小さく頷いてしまった。


 勝ったというように歯を見せて笑った陽菜に、湊はガックリと肩を落とす。その肩を慰めるように涼太がポンポンと叩いた。



 さらば、ゲーム三昧な僕の夏休み。ようこそ、退屈しない夏休み。



 こうして、四人の一度きりしかない夏休みが始まった。