「おはよ」
翌朝、教室に行くとノアは窓際で囲まれていた。
「昨日バスケ部に参加したらめちゃくちゃ楽しかった」
「羨ましい。三年生ってもう部活はやらないんだぜ」
「なんで?」
「外部の大学を受験する人は勉強で忙しくなるから。このクラスは全員付属大学に行くからそこまで忙しくないけど」
「そうなんだ。じゃあオレ、先生に感謝しないといけない」
俺が周りに「おはよ」と言いながら自分の席に着くと、「涼介涼介ー!」と声が飛んできた。
「昨日のオレ、かっこよかったー!?」
ドーベルマン、朝からテンションが高い。
「はいはい、かっこよかった」
「だろー! バスケは任せて」
「三年生の残りの授業でバスケはないよ」
「ええーマジかよ」
マジの使い方、うまい。百点。
なんだか今日は俺もテンションが高い。ドーベルマンに引っ張られて散歩したせいだ。多分。
その日もノアは「うざいってなに?」「おもしろすぎて無理ってどういうこと?」と俺に質問をしてきた。でも、なんでだか面倒な気持ちにはならなかった。
放課後、掃除を終えた陽キャのひとりが「コンビニ行かねえ?」と隣に話しかけた。
「今日暑い。アイス食おうぜ」
するとノアが「オレも!」と割って入った。
「オレも行きたい」
「お、いいぜ」
どうやらバスケ部は今日はないらしい。放課後の楽しみ方を覚えたようだ。
どうせ夜はメッセージが送られてくるだろうけど、今日は静かに図書室に行けそう。俺がいそいそと鞄にノートなどをしまっていると、ノアがすぐにこちらに来た。
「涼介も行こう」
「えっ?」
「みんなコンビニ行くんだって。日本のコンビニっておいしいって聞いた」
「いや、俺は図書室に行くし……」
「図書室はいつでも行けるって言った。今日はコンビニに行こう」
ノアは勝手に行き先を決めて、クラスメイトに「涼介も行く」と報告している。メンタルどうなってんだ。俺は行くなんて一言も言ってないんだけど?
でも、陽キャ軍団に「委員長も行こうぜ」なんて言われたら断れない。本当についていっていいのか分からず、最後尾で校門を出る。
コンビニの前に来ると、ひとりが「じゃんけんしようぜ」とにやっとした。
「負けたやつが全員のアイスを奢り」
「おっ、ナイスアイディア」
「ギャンブルだねえ」
誰も反対せず、ひとりが「最初はグー」とグーを出す。
「ちょっと待って」
ノアが突然止めた。
「じゃんけんってなに?」
「えっ? あ、そうか」
俺は慌てて説明した。
「これがグーで、これがチョキ、これがパー」
するとノアが「ああ!」と声をあげた。
「それ、アメリカにもある。Rock-Paper-Scissors」
「ルールは一緒か」
俺がひとりに目配せをすると、彼がにっと笑って手を出した。
「まず『最初はグー』で必ずグーを出す。次に『じゃんけんぽん』で選んで出す」
最初はグー、じゃんけんぽん。俺ともうひとりが見本を見せると、ノアは「I see.」と手を出した。
「じゃあ、せーの。最初はグー、じゃけんぽん!」
ばっ。俺、グー。その他、全員パー。え、こんなことある?
「待って! 俺ちゃんと説明したのに負けたわけ!?」
思わず叫ぶとノアが「涼介、ひとりで負けてる」と笑いだした。他が俺の肩に手をぽんとのせてくる。
「委員長、お疲れ」
「委員長、ゴチになります」
「委員長、ファイト」
ゴチになりますってなに? むっとした俺はノアの質問に「自分で調べて」と言ってコンビニに入った。涼しいクーラーに一気に体が冷える。
全員でアイスを選んで買うと、コンビニの前でしゃりしゃりとアイスを食べた。俺はバニラのコーン。ノアはガリガリ君。
「Wow! こんなおいしいものがこの世にあるなんて信じられない!」
ノアが目を丸くさせて水色のアイスを見る。
「夏の日本に来たらこれは食べるべき」
「うまいだろ。当たりが出たらもう一個食べられるぞ」
「これがアイスの鉄板」
クラスメイトの言葉に思わず「あ」と声が出た。
「鉄板ってなに?」
案の定ノアが周りを見回す。
「俺の仕事を増やさないでよ!」
俺が文句を言うと、みんなケタケタ笑いだす。
「委員長がお世話係でぴったりじゃん」
「もう息が合ってる」
俺、いつの間にかドーベルマンの飼い主になってたのかもしれない。
むしゃくしゃして、俺はばりばりコーンを囓って食べた。……おいしい。放課後のアイスってこんな味するんだ。
「涼介、みんな、またねー!」
駅に着く前にノアと別れて、クラスメイトと駅へ向かう。
「『涼介、またねー』だって」
「委員長、好かれてんじゃん」
クラスメイトの感想にため息をつく。
「家に帰ったらノアから大量のメッセージが届くんだよ。フリック入力を練習したいんだって。俺、ただの練習台」
「そうか? 委員長としゃべりたいだけだと思うけど」
気づいたら陽キャ軍団と普通にしゃべっていた。みんなと逆方向だったので、駅のホームで手を振って別れる。
ガタンゴトン。つり革に掴まって外を眺める。薄らと窓に映る自分は、どこか楽しそうな顔をしていた。ドーベルマンに引っ張られて散歩した日の帰りは、なんか悪くない。
翌朝、教室に行くとノアは窓際で囲まれていた。
「昨日バスケ部に参加したらめちゃくちゃ楽しかった」
「羨ましい。三年生ってもう部活はやらないんだぜ」
「なんで?」
「外部の大学を受験する人は勉強で忙しくなるから。このクラスは全員付属大学に行くからそこまで忙しくないけど」
「そうなんだ。じゃあオレ、先生に感謝しないといけない」
俺が周りに「おはよ」と言いながら自分の席に着くと、「涼介涼介ー!」と声が飛んできた。
「昨日のオレ、かっこよかったー!?」
ドーベルマン、朝からテンションが高い。
「はいはい、かっこよかった」
「だろー! バスケは任せて」
「三年生の残りの授業でバスケはないよ」
「ええーマジかよ」
マジの使い方、うまい。百点。
なんだか今日は俺もテンションが高い。ドーベルマンに引っ張られて散歩したせいだ。多分。
その日もノアは「うざいってなに?」「おもしろすぎて無理ってどういうこと?」と俺に質問をしてきた。でも、なんでだか面倒な気持ちにはならなかった。
放課後、掃除を終えた陽キャのひとりが「コンビニ行かねえ?」と隣に話しかけた。
「今日暑い。アイス食おうぜ」
するとノアが「オレも!」と割って入った。
「オレも行きたい」
「お、いいぜ」
どうやらバスケ部は今日はないらしい。放課後の楽しみ方を覚えたようだ。
どうせ夜はメッセージが送られてくるだろうけど、今日は静かに図書室に行けそう。俺がいそいそと鞄にノートなどをしまっていると、ノアがすぐにこちらに来た。
「涼介も行こう」
「えっ?」
「みんなコンビニ行くんだって。日本のコンビニっておいしいって聞いた」
「いや、俺は図書室に行くし……」
「図書室はいつでも行けるって言った。今日はコンビニに行こう」
ノアは勝手に行き先を決めて、クラスメイトに「涼介も行く」と報告している。メンタルどうなってんだ。俺は行くなんて一言も言ってないんだけど?
でも、陽キャ軍団に「委員長も行こうぜ」なんて言われたら断れない。本当についていっていいのか分からず、最後尾で校門を出る。
コンビニの前に来ると、ひとりが「じゃんけんしようぜ」とにやっとした。
「負けたやつが全員のアイスを奢り」
「おっ、ナイスアイディア」
「ギャンブルだねえ」
誰も反対せず、ひとりが「最初はグー」とグーを出す。
「ちょっと待って」
ノアが突然止めた。
「じゃんけんってなに?」
「えっ? あ、そうか」
俺は慌てて説明した。
「これがグーで、これがチョキ、これがパー」
するとノアが「ああ!」と声をあげた。
「それ、アメリカにもある。Rock-Paper-Scissors」
「ルールは一緒か」
俺がひとりに目配せをすると、彼がにっと笑って手を出した。
「まず『最初はグー』で必ずグーを出す。次に『じゃんけんぽん』で選んで出す」
最初はグー、じゃんけんぽん。俺ともうひとりが見本を見せると、ノアは「I see.」と手を出した。
「じゃあ、せーの。最初はグー、じゃけんぽん!」
ばっ。俺、グー。その他、全員パー。え、こんなことある?
「待って! 俺ちゃんと説明したのに負けたわけ!?」
思わず叫ぶとノアが「涼介、ひとりで負けてる」と笑いだした。他が俺の肩に手をぽんとのせてくる。
「委員長、お疲れ」
「委員長、ゴチになります」
「委員長、ファイト」
ゴチになりますってなに? むっとした俺はノアの質問に「自分で調べて」と言ってコンビニに入った。涼しいクーラーに一気に体が冷える。
全員でアイスを選んで買うと、コンビニの前でしゃりしゃりとアイスを食べた。俺はバニラのコーン。ノアはガリガリ君。
「Wow! こんなおいしいものがこの世にあるなんて信じられない!」
ノアが目を丸くさせて水色のアイスを見る。
「夏の日本に来たらこれは食べるべき」
「うまいだろ。当たりが出たらもう一個食べられるぞ」
「これがアイスの鉄板」
クラスメイトの言葉に思わず「あ」と声が出た。
「鉄板ってなに?」
案の定ノアが周りを見回す。
「俺の仕事を増やさないでよ!」
俺が文句を言うと、みんなケタケタ笑いだす。
「委員長がお世話係でぴったりじゃん」
「もう息が合ってる」
俺、いつの間にかドーベルマンの飼い主になってたのかもしれない。
むしゃくしゃして、俺はばりばりコーンを囓って食べた。……おいしい。放課後のアイスってこんな味するんだ。
「涼介、みんな、またねー!」
駅に着く前にノアと別れて、クラスメイトと駅へ向かう。
「『涼介、またねー』だって」
「委員長、好かれてんじゃん」
クラスメイトの感想にため息をつく。
「家に帰ったらノアから大量のメッセージが届くんだよ。フリック入力を練習したいんだって。俺、ただの練習台」
「そうか? 委員長としゃべりたいだけだと思うけど」
気づいたら陽キャ軍団と普通にしゃべっていた。みんなと逆方向だったので、駅のホームで手を振って別れる。
ガタンゴトン。つり革に掴まって外を眺める。薄らと窓に映る自分は、どこか楽しそうな顔をしていた。ドーベルマンに引っ張られて散歩した日の帰りは、なんか悪くない。


