断れない委員長、アメリカンなドーベルマンに懐かれる

 いろんなゲームをやっていたら、すぐに夕方になった。外に出ると気温が下がってきている。俺が手に息を吹きかけると、ノアが「はい」とカイロを渡してきた。
「このカイロ、涼介専用」
「いいの?」
「涼介、いつも手袋しないから」
 ノア、俺の手のことまで見てたんだ。
 口がにやけそうになって、マフラーで口元を隠す。コートのポケットに手を突っ込んだら、カイロでほかほかになってきた。……なんでか顔まで熱い。
 電車に乗って二駅、イルミネーション会場に移動する。
「おお、すげー」
「委員長、こんなところまで調べたんだ」
 寒空の下で裸になった木々が、青と白の電飾をまとっている。みんなが足を止めた。ポップなクリスマスソングの中、思い思いに写真を撮る。
「涼介、ありがと。ここに来られてよかった」
 ノアが周りをぐるりと見回す。
「すごくきれい」
 ノアは感動したように呟いた。
「This is ama(めっちゃいいね)zing.」
 ノアの言葉に俺も辺りを見回した。――きれいだ。白も、青も、金色も、音楽の中でそっと光っている。ここにいる人全員を祝福するような、優しい明かり。
 街路樹を進んでいくと、大きなツリーが見えてきた。
「Wow.」
「きれい」
 噴水の中央に十メートルはあろうかというツリーがフルカラーに光っている。ところどころシルバーのオーナメントが揺れていて、水面に揺れた。頭上には電飾が渡されていて、上から光の雨が降ってくるみたいだ。音楽はシックなメロディーに変わっている。
「すごいな」
 ノアが言う。――よかった。これをノアに見せたかった。
「みんなー、写真撮ろうぜ」
 ひとりのかけ声にみんなが「いいね」と頷く。
「じゃあツリーの前に集まって」
「はい、チーズ!」
 ピコン。スマホが音を立てて画像を収める。
 そこでノアがスマホを取り出した。
「涼介、二人で撮ろう」
「えっ、でも」
 今、撮ったばっかりだし。
 俺が周りを見回すと、ノアが「いいの」と笑った。
「涼介とのツーショットがほしい」
 そう言うなり、俺のコートの腕にぎゅっと腕を回してきた。
「もっと近づいて」
 ノアの白い息が横でふーっと流れる。顔が赤くなるのが分かる。
 ノアに腕を回されると俺の体がちっちゃくなって、ノアに包まれた心地になる。近くでノアの呼吸音が聞こえて、胸がどきどきと高鳴ってくる。ノアの頬に色とりどりの光が反射した。
 近い。この近さは久しぶりだ。ノアと離れていた時間がぐるぐると巻き戻っていく。夕日の中でノアを見たことを思い出した。
 ノアが、きれい。すごく、かっこいい。ドーベルマンって、こんなイケメンだっけ。俺、今すごく間近でノアを見てる。
 寒さがどっか行った。頬だけ風の冷たさを感じる。でも、それに負けないくらい頬が熱い。
「涼介、こっち見て」
「こっちって?」
「スマホ」
 つい、ノアに見惚れていた。慌ててスマホを見て、ピースをする。ノアが画像を確認し、「もう一枚」とまたスマホを構えた。
 ぽん。頭の上に手がのる。思わず笑うと、ピコンとスマホが音を立てた。
「また俺の背を馬鹿にするような写真を撮って!」
「馬鹿にしてない。涼介がかわいいからしょうがない」
「またかわいいって言った!」
「かわいいかわいい」
 ぽんぽん。また頭をタップされた。かわいいは恥ずかしいけど、褒められていると思うと照れて顔が熱くなる。
「二回言うの、馬鹿にしてる」
「してない。被害妄想だろ」
「よくそんな言葉を覚えたね」
 俺が言うと、ノアはにやりとした。
「オレ、賢いだろ」
「普通自分で言わない」
「日本語の勉強、頑張った」
「それは偉い」
「もっと褒めていいぞ」
「そう言われると言いたくなくなる」
「涼介のケチ!」
「じゃあもう一枚、あっちを背景に撮って」
「その『じゃあ』の使い方、本当に合ってる?」
 ノアがスマホを構える。そこへ「委員長、ノアー」と呼ぶ声がした。
「あっちのほうにも行ってみようぜ」
 ……邪魔された。写真が増えるチャンスだったのに。
「もうちょっとで撮れたのに」
 ノアがそう言って、ちょっと嬉しくなる。ノアも残念だったんだ。そう思ったら、余計に呼び止めたくなった。