代休明け、教室にノアが登校してくると、クラス全員が「帰ってきた!」と沸き返った。
「ノアー! 家族、大丈夫だった?」
「大変だろうって思ったら、連絡するのもちょっとって思って」
「文化祭、残念だったな。でもホットドッグは完売したぞ」
「写真見る?」
クラスメイトの言葉にノアが順繰りにクラスメイトの顔を見回し、そして笑った。
「みんなありがとー! 今マジで時差ボケで眠い。授業中やばい」
俺はわいわいとする教室を机に頬杖をついて眺めていた。ドーベルマン、やっぱり人気者。みんなノアがいなかったのが寂しかったんだ。
「涼介、おはよ」
「おはよ」
ノアが巻いていたマフラーを外して隣の席に座る。……熱波。ノアがいる。そう思うと、自然と口端があがる。
ノアはチャイムが鳴るまでみんなに囲まれていた。文化祭の写真を見せ合ったり、誰が一番ホットドッグを売っただの、誰が片づけをサボっただので笑ったりしている。なんだろう、文化祭ひとつ挟んだだけなのに、クラスがいつもより温かく感じる。
授業が始まってもその空気は残っていた。先生が質問すればあちこちから手があがる。俺も英語の授業で手をあげていた。最近、英語の授業も楽しくなってきた。相変わらず苦手だけど、小テストも半分以上取れるようになってきている。
「みんな、聞いてくれ!」
昼休みのチャイムが鳴ると、男子がひとりガタッと椅子から立ち上がって宣言した。
「今から告ってくる! 成功するよう応援してくれ!」
神崎に告白すると言った男子だ。みんなが「おお」と拍手をする。
「応援ってなにすればいいんだよ」
「見守ってくれよ。やっぱ怖えんだよ」
「じゃあみんなで行こうよ」
誰かが言い出した。
男子が出ていって、神崎と一緒に渡り廊下へ行く。みんな目配せをし合った。俺もノアに声をかける。
「行こ」
「見に行くの?」
「見守りに行くんだよ」
クラスメイトがお弁当を放り出して廊下に集まった。しんと静まり返り、その中で男子が神崎に言うのを見守る。
声は聞こえない。神崎が驚いた顔をしてなにか言う。男子が言葉を重ねる。その中で神崎が笑顔になった。こくんと頷き、手を差し伸べる。
「やったー!」
男子が声をあげ、神崎の手を取って握手した。こちらを振り返って、満面の笑みでこぶしを突き上げる。
「おおー!」
「やった! 成功だ!」
一斉に歓声があがる。
みんなが教室に戻る中でノアが感心したように俺に言った。
「日本って付き合う前に儀式があるんだ」
思わず笑顔になった。
「儀式って。でも、ああやってきちんと伝えてお互いの気持ちを確認するんだよ」
「アメリカってああいう感じじゃないからびっくりした」
「ああやって勇気を出せるの、かっこいいよね」
そこへ笑顔の男子が戻ってきた。途端に教室に割れんばかりの拍手が起こる。
「おかえり、彼氏!」
「うるせえ!」
「おめでとー」
「みんな、サンキュ」
教室の入り口で照れる男子にみんなが口々に声をかける。教室にお昼ご飯の時間が戻ってきた。みんなが机をガタガタと動かし、いつものメンバーで並び、食べ物のにおいが立ち上がる。でも、クラスに興奮がまだ漂っている。
……なんか、終わりにしたくない。
俺は隣のノアを見て、それからいつものメンバーで机を囲み始めた陽キャ軍団を見た。
「――ねえ」
思い切って声をかける。
「今日から一緒にご飯食べない?」
「おっ、委員長、どうぞ」
「委員長から誘ってくるの珍し。どうした」
俺はわざと肩をすくめてみせた。
「ノアと食べるのに飽きた」
ノアがすかさず「オレは飽きてない」と言って、笑いが起きる。
「じゃあ今日からみんなで食べようぜ」
「ありがと」
思い切って机をそちらへ運ぶ。ノアも一緒にやって来る。
「ノア、そのおかず、なに」
「ホストマザーが作ってくれた。大学芋」
「それ、クレープで委員長からもらってたやつじゃん」
「あれ、おいしかったから。作ってもらった」
「からあげと交換しようぜ」
弁当箱の上で箸が行き交う。
「涼介、なにか交換しよ」
「うずらの卵、ほしい」
「じゃあ涼介の家のおいしい卵焼き」
「はいはい」
「はいは一回!」
たくさん机がくっついた中でノアが笑ってる。
そう言えば、転入初日にノアが言っていた。こうやって机をくっつけてお弁当を食べるのをやってみたかったと。
あのときは俺と二人だった。今は机がいくつも並んでいる。俺から「一緒に食べよう」って言っただけで、昼休みが変わった。
……なんだ。もっと早く誘えばよかった。
「ノアー! 家族、大丈夫だった?」
「大変だろうって思ったら、連絡するのもちょっとって思って」
「文化祭、残念だったな。でもホットドッグは完売したぞ」
「写真見る?」
クラスメイトの言葉にノアが順繰りにクラスメイトの顔を見回し、そして笑った。
「みんなありがとー! 今マジで時差ボケで眠い。授業中やばい」
俺はわいわいとする教室を机に頬杖をついて眺めていた。ドーベルマン、やっぱり人気者。みんなノアがいなかったのが寂しかったんだ。
「涼介、おはよ」
「おはよ」
ノアが巻いていたマフラーを外して隣の席に座る。……熱波。ノアがいる。そう思うと、自然と口端があがる。
ノアはチャイムが鳴るまでみんなに囲まれていた。文化祭の写真を見せ合ったり、誰が一番ホットドッグを売っただの、誰が片づけをサボっただので笑ったりしている。なんだろう、文化祭ひとつ挟んだだけなのに、クラスがいつもより温かく感じる。
授業が始まってもその空気は残っていた。先生が質問すればあちこちから手があがる。俺も英語の授業で手をあげていた。最近、英語の授業も楽しくなってきた。相変わらず苦手だけど、小テストも半分以上取れるようになってきている。
「みんな、聞いてくれ!」
昼休みのチャイムが鳴ると、男子がひとりガタッと椅子から立ち上がって宣言した。
「今から告ってくる! 成功するよう応援してくれ!」
神崎に告白すると言った男子だ。みんなが「おお」と拍手をする。
「応援ってなにすればいいんだよ」
「見守ってくれよ。やっぱ怖えんだよ」
「じゃあみんなで行こうよ」
誰かが言い出した。
男子が出ていって、神崎と一緒に渡り廊下へ行く。みんな目配せをし合った。俺もノアに声をかける。
「行こ」
「見に行くの?」
「見守りに行くんだよ」
クラスメイトがお弁当を放り出して廊下に集まった。しんと静まり返り、その中で男子が神崎に言うのを見守る。
声は聞こえない。神崎が驚いた顔をしてなにか言う。男子が言葉を重ねる。その中で神崎が笑顔になった。こくんと頷き、手を差し伸べる。
「やったー!」
男子が声をあげ、神崎の手を取って握手した。こちらを振り返って、満面の笑みでこぶしを突き上げる。
「おおー!」
「やった! 成功だ!」
一斉に歓声があがる。
みんなが教室に戻る中でノアが感心したように俺に言った。
「日本って付き合う前に儀式があるんだ」
思わず笑顔になった。
「儀式って。でも、ああやってきちんと伝えてお互いの気持ちを確認するんだよ」
「アメリカってああいう感じじゃないからびっくりした」
「ああやって勇気を出せるの、かっこいいよね」
そこへ笑顔の男子が戻ってきた。途端に教室に割れんばかりの拍手が起こる。
「おかえり、彼氏!」
「うるせえ!」
「おめでとー」
「みんな、サンキュ」
教室の入り口で照れる男子にみんなが口々に声をかける。教室にお昼ご飯の時間が戻ってきた。みんなが机をガタガタと動かし、いつものメンバーで並び、食べ物のにおいが立ち上がる。でも、クラスに興奮がまだ漂っている。
……なんか、終わりにしたくない。
俺は隣のノアを見て、それからいつものメンバーで机を囲み始めた陽キャ軍団を見た。
「――ねえ」
思い切って声をかける。
「今日から一緒にご飯食べない?」
「おっ、委員長、どうぞ」
「委員長から誘ってくるの珍し。どうした」
俺はわざと肩をすくめてみせた。
「ノアと食べるのに飽きた」
ノアがすかさず「オレは飽きてない」と言って、笑いが起きる。
「じゃあ今日からみんなで食べようぜ」
「ありがと」
思い切って机をそちらへ運ぶ。ノアも一緒にやって来る。
「ノア、そのおかず、なに」
「ホストマザーが作ってくれた。大学芋」
「それ、クレープで委員長からもらってたやつじゃん」
「あれ、おいしかったから。作ってもらった」
「からあげと交換しようぜ」
弁当箱の上で箸が行き交う。
「涼介、なにか交換しよ」
「うずらの卵、ほしい」
「じゃあ涼介の家のおいしい卵焼き」
「はいはい」
「はいは一回!」
たくさん机がくっついた中でノアが笑ってる。
そう言えば、転入初日にノアが言っていた。こうやって机をくっつけてお弁当を食べるのをやってみたかったと。
あのときは俺と二人だった。今は机がいくつも並んでいる。俺から「一緒に食べよう」って言っただけで、昼休みが変わった。
……なんだ。もっと早く誘えばよかった。


