クラスは最後の文化祭に向けて盛り上がっていた。クラスの出し物は、ホットドッグとジュースやお茶を出す休憩所。試作も終わり、あとは本番を待つのみだ。
「みんなでひとつのことをやるってすごい」
ノアはそんなことを言いながら机で日直日誌を書いていた。漢字、前よりずっとうまくなった。大きな右手がカリカリとシャーペンを動かす。
「文化祭も動画にアップされてるのを何回か見たけど、あんなのアメリカにない。すごく楽しみ」
「当日は他のクラスもたくさん回るといいよ。食べ物屋ばかりじゃないし」
「生徒会の取材動画も撮り終わった。スタンプラリーのどこかで流すって聞いた」
「よかったじゃん。ノアが出した案にノアの動画が使われるわけだし」
「航平、文化祭に友達と来るって言ってた」
「えっ受験生でもないのに?」
「オレの動画を見るって言ってたよ」
「……ふうん。まあ、来たっていいけど」
ぱたん。日誌を閉じたノアが頬杖をつく。
「涼介、文化祭一緒に遊ぼう」
「大勢と回れば? そのほうがお祭りっぽいよ?」
「涼介と行きたい」
ノアが当たり前のように言う。なんだかむずがゆくなった。ドーベルマン、飼い主をちょいちょい喜ばしてくる。俺、犬にチョロい。
「ノアー!」
そこへ、いつもしゃべっている陽キャ集団がノアをわっと取り囲んだ。
「今日の放課後、暇?」
「駅前に新しくクレープ屋ができたって」
「今なら秋限定の味もあるらしいぜ」
「味覚の秋って言葉を知ってるか? 秋はうまいものを食うんだよ」
ノアが「マジで?」と顔を明るくさせる。
「オレ、クレープは日本に来てから食べたことない。行きたい」
「ノア、今日は部活?」
「いや、ない」
「じゃあ終礼が終わったら集合」
「Okay.」
今日は一緒に図書室に行けないかな。こっそり立てていた予定があっさりと崩される。
ひとりがスマホを取り出して、メニューを検索する。どれがうまそうだの、どれが食べたいだのと話がひとしきり盛り上がる。笑っているノアの横顔を見た。……楽しそう。
「あの、さ」
気づいたら、そちらに声をかけていた。
「それ、俺も行っていい?」
俺の言葉にノアがちょっと目を見開く。
「お、委員長も行く?」
「委員長、おかずクレープを食ってそう」
「分かる。そういうイメージある」
なんか笑われた。偏見だ。
「じゃあ終礼後に」
「オッケー」
チャイムが鳴って集団が去る。俺が次の時間の教科書とノートを取り出すと、ノアがこちらを見ていることに気づいた。
「なに?」
「……別に」
ノアが口端をふふんとあげた。
「涼介、ノアナイズドされてる」
「自分で言うな。どこがだよ」
「自分から『行きたい』って言った」
「クレープが食べたかったの」
「自分からちゃんと言えるようになったの、偉い」
ノアはこういうところを褒める。俺にはよく分からない。
「涼介、クレープ持って一緒に写真撮ろ」
「ノアってカメラ好き」
「制服でたくさん撮りたい」
写真を撮ったら部屋のあのボードにまた飾るのかな。そんなことを思ったら、自分がクレープを食べながらピースするところまで想像してしまった。
放課後、男子六人でクレープ屋に行ってみると、行列ができていた。オープンしたてはどこも並ぶ。列になりながら、ノアとスマホでメニュー表を見る。季節限定メニューはモンブランと大学芋だ。
「涼介、大学芋ってなに」
「食べたことない? 甘いさつまいも。外がカリカリで中はほくほくしてる」
「ほくほく……? 難しい日本語だ」
「俺がそれを注文するから一口あげる。体験しないと分かんないでしょ」
「Thanks! 涼介、他になに食べたい? オレの分もあげる」
「なんでもいいよ。でも甘い系がいい」
「Okay.」
ノアがスマホを見始める。すると、ひとりが「委員長」と話しかけてきた。
「委員長にも言おうと思ってたからちょうどよかった。俺の恋路を応援してくれ」
「恋路?」
彼が照れくさそうに頬を掻いた。
「C組の神崎。ポニーテールがかわいくね? 文化祭、一緒に回る約束したんだ」
「え、いい感じじゃん」
「だろ? だから当日、告白しようと思ってる」
彼の言葉に周りが笑顔で「頑張れよ」とぽんと肩を叩く。
「告白って、なにを告白するの?」
ノアが割って入ってきた。彼が照れながら言う。
「好きだってこと。好きです、だから付き合ってくださいって言うわけ」
「それで返事がイエスだったら付き合う?」
「そう」
ノアが一瞬スマホをスクロールしていた手を止めた。
「日本ってみんなそうやって付き合うの?」
「だいたいそうなんじゃね? なあ?」
周りがそうそうと頷く。
「好きです、付き合ってください、って相手に言うんだ?」
「言うだろ」
「二人で遊ぶようになっただけじゃ、付き合ってない?」
「ちゃんと言わないと付き合ってんのか分かんなくね」
「へえ……」
ノアが妙に感心している。
「なに?」
「日本人、そこはちゃんと言うんだ」
「そこはってなんだよ」
「だって普段ははっきり言わない。『まあいい』とか言う」
ちらっと俺を見る。
「なんで俺を見るんだよ!」
ノアのスピーチを思い出したのか周りがどっと笑う。
「まあ、告白のお手本はこいつがやるから、ノアはそれを見ろ」
「見世物じゃねえっての」
「マジで応援してるって」
「みんなでひとつのことをやるってすごい」
ノアはそんなことを言いながら机で日直日誌を書いていた。漢字、前よりずっとうまくなった。大きな右手がカリカリとシャーペンを動かす。
「文化祭も動画にアップされてるのを何回か見たけど、あんなのアメリカにない。すごく楽しみ」
「当日は他のクラスもたくさん回るといいよ。食べ物屋ばかりじゃないし」
「生徒会の取材動画も撮り終わった。スタンプラリーのどこかで流すって聞いた」
「よかったじゃん。ノアが出した案にノアの動画が使われるわけだし」
「航平、文化祭に友達と来るって言ってた」
「えっ受験生でもないのに?」
「オレの動画を見るって言ってたよ」
「……ふうん。まあ、来たっていいけど」
ぱたん。日誌を閉じたノアが頬杖をつく。
「涼介、文化祭一緒に遊ぼう」
「大勢と回れば? そのほうがお祭りっぽいよ?」
「涼介と行きたい」
ノアが当たり前のように言う。なんだかむずがゆくなった。ドーベルマン、飼い主をちょいちょい喜ばしてくる。俺、犬にチョロい。
「ノアー!」
そこへ、いつもしゃべっている陽キャ集団がノアをわっと取り囲んだ。
「今日の放課後、暇?」
「駅前に新しくクレープ屋ができたって」
「今なら秋限定の味もあるらしいぜ」
「味覚の秋って言葉を知ってるか? 秋はうまいものを食うんだよ」
ノアが「マジで?」と顔を明るくさせる。
「オレ、クレープは日本に来てから食べたことない。行きたい」
「ノア、今日は部活?」
「いや、ない」
「じゃあ終礼が終わったら集合」
「Okay.」
今日は一緒に図書室に行けないかな。こっそり立てていた予定があっさりと崩される。
ひとりがスマホを取り出して、メニューを検索する。どれがうまそうだの、どれが食べたいだのと話がひとしきり盛り上がる。笑っているノアの横顔を見た。……楽しそう。
「あの、さ」
気づいたら、そちらに声をかけていた。
「それ、俺も行っていい?」
俺の言葉にノアがちょっと目を見開く。
「お、委員長も行く?」
「委員長、おかずクレープを食ってそう」
「分かる。そういうイメージある」
なんか笑われた。偏見だ。
「じゃあ終礼後に」
「オッケー」
チャイムが鳴って集団が去る。俺が次の時間の教科書とノートを取り出すと、ノアがこちらを見ていることに気づいた。
「なに?」
「……別に」
ノアが口端をふふんとあげた。
「涼介、ノアナイズドされてる」
「自分で言うな。どこがだよ」
「自分から『行きたい』って言った」
「クレープが食べたかったの」
「自分からちゃんと言えるようになったの、偉い」
ノアはこういうところを褒める。俺にはよく分からない。
「涼介、クレープ持って一緒に写真撮ろ」
「ノアってカメラ好き」
「制服でたくさん撮りたい」
写真を撮ったら部屋のあのボードにまた飾るのかな。そんなことを思ったら、自分がクレープを食べながらピースするところまで想像してしまった。
放課後、男子六人でクレープ屋に行ってみると、行列ができていた。オープンしたてはどこも並ぶ。列になりながら、ノアとスマホでメニュー表を見る。季節限定メニューはモンブランと大学芋だ。
「涼介、大学芋ってなに」
「食べたことない? 甘いさつまいも。外がカリカリで中はほくほくしてる」
「ほくほく……? 難しい日本語だ」
「俺がそれを注文するから一口あげる。体験しないと分かんないでしょ」
「Thanks! 涼介、他になに食べたい? オレの分もあげる」
「なんでもいいよ。でも甘い系がいい」
「Okay.」
ノアがスマホを見始める。すると、ひとりが「委員長」と話しかけてきた。
「委員長にも言おうと思ってたからちょうどよかった。俺の恋路を応援してくれ」
「恋路?」
彼が照れくさそうに頬を掻いた。
「C組の神崎。ポニーテールがかわいくね? 文化祭、一緒に回る約束したんだ」
「え、いい感じじゃん」
「だろ? だから当日、告白しようと思ってる」
彼の言葉に周りが笑顔で「頑張れよ」とぽんと肩を叩く。
「告白って、なにを告白するの?」
ノアが割って入ってきた。彼が照れながら言う。
「好きだってこと。好きです、だから付き合ってくださいって言うわけ」
「それで返事がイエスだったら付き合う?」
「そう」
ノアが一瞬スマホをスクロールしていた手を止めた。
「日本ってみんなそうやって付き合うの?」
「だいたいそうなんじゃね? なあ?」
周りがそうそうと頷く。
「好きです、付き合ってください、って相手に言うんだ?」
「言うだろ」
「二人で遊ぶようになっただけじゃ、付き合ってない?」
「ちゃんと言わないと付き合ってんのか分かんなくね」
「へえ……」
ノアが妙に感心している。
「なに?」
「日本人、そこはちゃんと言うんだ」
「そこはってなんだよ」
「だって普段ははっきり言わない。『まあいい』とか言う」
ちらっと俺を見る。
「なんで俺を見るんだよ!」
ノアのスピーチを思い出したのか周りがどっと笑う。
「まあ、告白のお手本はこいつがやるから、ノアはそれを見ろ」
「見世物じゃねえっての」
「マジで応援してるって」


