あっさりとクラスの案はまとまった。スタンプラリーと動画の組み合わせ。余ったロングホームルームは自習となり、俺は生徒会へ提出する紙に案を書き始めた。
「涼介、なに書いてんの」
「今みんなで決めたことを提出するから、まとめてんの」
「委員長って忙しい」
「そういうもんだから」
「Oh, really? 委員長って大変だな。みんなのためにこんなことまでやるんだ。すごいよ」
……すごい。そんなふうに褒められたの、初めてかも。
まとめるのはチャイムが鳴っても終わらなくて、休み時間に入っても俺はまだ紙に書いていた。ノアが立ち上がって廊下に出る。するとクラスメイトの声が聞こえてきた。
「一瞬ひやっとしたよな」
「分かる。おもしろくないって、ズバッ」
「悪気がないのは分かるんだけどさ」
「アメリカ人ってああいう感じなのかな」
なんでか手が止まった。ノアの言葉を思い返す。
――オレはおもしろくない。
……オレは、って言った。アメリカ人だからじゃなくて、ノア本人の意見なんじゃない?
「……それはちょっと違わない?」
気づいたら、そう話しかけていた。
「ノアは誰かを否定したかったわけじゃなくて、自分の意見を言っただけっていうか」
「……委員長、ノアの肩持つじゃん」
言われてはっとする。しまった、口出しすぎたかも。
「いや、そっちの気持ちも分かるけど! なんか、アメリカ人ってくくるの変じゃないかなって。ノアはノアの考えを単純に口にしただけで、えっと、だから」
ダメだ、うまく説明できない。俺が言葉に詰まったのを察したのか、慌ててフォローが入る。
「いやいや、ノアを責めてるんじゃないって」
「ムカついたとかそういう話じゃねえから」
顔の前でひらひらと手を振る。
「いやいや、俺もごめん」
でも、なぜかもやもやした。黙って聞いてれば平穏にスルーできたのに、なんか納得できなかった。
「涼介涼介ー!」
ノアが元気に廊下から戻ってきた。
「書き終わった? それ、いつ提出するの」
「放課後。図書室行く前に出しに行く予定だけど」
「今日も涼介は図書室か。オレは部活に行く。一緒に帰ろう」
「今日も駅まで行くの?」
「いや、オレは行かない」
「……一緒に帰るって、五分程度じゃない?」
「オレは涼介と一緒に帰りたい。オレ、部活終わったら連絡する。涼介も終わったら連絡して」
「勝手に決定事項にしないでよ」
「これは決定事項。涼介、連絡して」
ノアはそう言い切ると、座席について次の時間の用意を始めた。なんか鼻歌でも歌いだしそうにご機嫌だ。
ちょっともやもやが減った。元気なドーベルマンを見てると、こっちも元気が出る。
放課後、図書室を出るとスマホに「昇降口で待ってるから」とノアからメッセージが届いていた。急いで行くと、「あ、涼介来た」とノアが笑顔で出迎えた。シトラスみたいな制汗剤のにおいがする。
「今日は点数決めた?」
「一回だけ。あとは弾かれた」
「一回でも決めればすごいよ」
「涼介、それは甘い」
靴を履き替えると、すのこがカタカタと鳴る。
十月に入ってちょっと寒い。明日からネクタイを締めて、ブレザーを着てこようかな。
そう思ったとき、隣を歩くノアから切り出してきた。
「……休み時間、涼介、オレのことかばってた」
あ、やばい。陰口聞かれちゃってる。気まずくなって、ちょっと口がとんがった。
「ごめん。ああいうこと言われて気分悪かったでしょ」
するとノアが怪訝そうな顔をした。
「なんで涼介が謝る? 涼介はオレのことフォローしてくれた」
「まあ、そうなんだけど……止められなかったっていうか」
「涼介は気にしすぎ。オレは嬉しかったよ。かばってくれてありがとう」
俺は頭を掻いた。
「だって、アメリカ人ってああいう感じとか言うから……なんか、嫌で」
「オレ、あんまり気にしてなかった」
ノアがいつもとは一転、真剣な顔でこちらを見下ろしてくる。
「だってノアが自分で考えて言ったんじゃん。みんなの意見聞いて、最後に案をまとめたのもノアだし。アメリカ人だからってくくられたら、ノアじゃなくても全部できたみたいじゃん」
「……」
「だから、なんか嫌だった」
しん。帰り道が一瞬静かになる。
「涼介、なに書いてんの」
「今みんなで決めたことを提出するから、まとめてんの」
「委員長って忙しい」
「そういうもんだから」
「Oh, really? 委員長って大変だな。みんなのためにこんなことまでやるんだ。すごいよ」
……すごい。そんなふうに褒められたの、初めてかも。
まとめるのはチャイムが鳴っても終わらなくて、休み時間に入っても俺はまだ紙に書いていた。ノアが立ち上がって廊下に出る。するとクラスメイトの声が聞こえてきた。
「一瞬ひやっとしたよな」
「分かる。おもしろくないって、ズバッ」
「悪気がないのは分かるんだけどさ」
「アメリカ人ってああいう感じなのかな」
なんでか手が止まった。ノアの言葉を思い返す。
――オレはおもしろくない。
……オレは、って言った。アメリカ人だからじゃなくて、ノア本人の意見なんじゃない?
「……それはちょっと違わない?」
気づいたら、そう話しかけていた。
「ノアは誰かを否定したかったわけじゃなくて、自分の意見を言っただけっていうか」
「……委員長、ノアの肩持つじゃん」
言われてはっとする。しまった、口出しすぎたかも。
「いや、そっちの気持ちも分かるけど! なんか、アメリカ人ってくくるの変じゃないかなって。ノアはノアの考えを単純に口にしただけで、えっと、だから」
ダメだ、うまく説明できない。俺が言葉に詰まったのを察したのか、慌ててフォローが入る。
「いやいや、ノアを責めてるんじゃないって」
「ムカついたとかそういう話じゃねえから」
顔の前でひらひらと手を振る。
「いやいや、俺もごめん」
でも、なぜかもやもやした。黙って聞いてれば平穏にスルーできたのに、なんか納得できなかった。
「涼介涼介ー!」
ノアが元気に廊下から戻ってきた。
「書き終わった? それ、いつ提出するの」
「放課後。図書室行く前に出しに行く予定だけど」
「今日も涼介は図書室か。オレは部活に行く。一緒に帰ろう」
「今日も駅まで行くの?」
「いや、オレは行かない」
「……一緒に帰るって、五分程度じゃない?」
「オレは涼介と一緒に帰りたい。オレ、部活終わったら連絡する。涼介も終わったら連絡して」
「勝手に決定事項にしないでよ」
「これは決定事項。涼介、連絡して」
ノアはそう言い切ると、座席について次の時間の用意を始めた。なんか鼻歌でも歌いだしそうにご機嫌だ。
ちょっともやもやが減った。元気なドーベルマンを見てると、こっちも元気が出る。
放課後、図書室を出るとスマホに「昇降口で待ってるから」とノアからメッセージが届いていた。急いで行くと、「あ、涼介来た」とノアが笑顔で出迎えた。シトラスみたいな制汗剤のにおいがする。
「今日は点数決めた?」
「一回だけ。あとは弾かれた」
「一回でも決めればすごいよ」
「涼介、それは甘い」
靴を履き替えると、すのこがカタカタと鳴る。
十月に入ってちょっと寒い。明日からネクタイを締めて、ブレザーを着てこようかな。
そう思ったとき、隣を歩くノアから切り出してきた。
「……休み時間、涼介、オレのことかばってた」
あ、やばい。陰口聞かれちゃってる。気まずくなって、ちょっと口がとんがった。
「ごめん。ああいうこと言われて気分悪かったでしょ」
するとノアが怪訝そうな顔をした。
「なんで涼介が謝る? 涼介はオレのことフォローしてくれた」
「まあ、そうなんだけど……止められなかったっていうか」
「涼介は気にしすぎ。オレは嬉しかったよ。かばってくれてありがとう」
俺は頭を掻いた。
「だって、アメリカ人ってああいう感じとか言うから……なんか、嫌で」
「オレ、あんまり気にしてなかった」
ノアがいつもとは一転、真剣な顔でこちらを見下ろしてくる。
「だってノアが自分で考えて言ったんじゃん。みんなの意見聞いて、最後に案をまとめたのもノアだし。アメリカ人だからってくくられたら、ノアじゃなくても全部できたみたいじゃん」
「……」
「だから、なんか嫌だった」
しん。帰り道が一瞬静かになる。


