ライちゃんじゃなくて、この声で君とお話ができたら

扉前のコンクリート状の段差にブレザーを脱ぎ、それを枕替わりにして寝そべっている青年。
 上級生?いや、同級生かもしれない。でも、クラスでは見たことはないので同級生だとしたら別のクラスの人だろう。

 ふと彼が頭の下に置いているものに目がいき、志優は凝視した。見覚えのある毛色。
 青年が枕替わりに敷いていたのはブレザーと、志優が忘れたライ太であった。
 
 青年の頭に潰されてぺしゃんこになっている顔が『助けて』と訴えている。
 
 助けなきゃ……‼

 志優は青年にゆっくり近づいて、ライ太が居ることを確認するが声を掛けるのに躊躇していた。
 瞼を閉じて気持ちよさそうに眠っている。片耳にピアス開けてるし、怖い人だったらどうしょう。

 それでも一刻も早く救出してあげたい。
 起こすのは怖いから寝ている間に、ライ太を救出できないだろうか。

 志優は深く深呼吸をすると、青年に近づき、彼の頭部近くに膝をつく。はみ出しているライ太の耳を掴んで引っ張ろうとするが、頭の重みでなかなか引っこ抜くことが出来ない。

 それでも志優は諦めずにライ太を引っ張る。ライ太は痛いかもしれないけど、これもライ太を助ける為。
 歯を食いしばりながら何度も挑戦していると急に頭の重みがなくなり、ライ太を救出することができたが、志優は反動で尻餅をついた。

 何とか救出できたライ太の姿を見て安堵の息が漏れる。
 少しだけ重みで潰れてしまった頭の部分の形を整えてると前方からの視線に気づいて顔を上げた。

眠っていた筈の青年が起き上がり、首を傾げて此方を見てきていた。
 鋭く切れ長の瞳に右目には2つの泣き黒子。志優のことをじっと見ている。
 
 気に障ったことをしてしまっただろうか。
 普通であれば一言声を掛けて返してもらうのが、双方が良好に和解できる手段だと分かっていても志優には言葉が発せられない。
 返してもらうには強行突破するしかなかった。