「すみません、ガスエビをください」
「はいよ」
運ばれてきたガスエビは、甘エビよりも少し無骨な姿をしていた。けれど、殻を剥いて口に運ぶと印象が一変する。ねっとりと濃厚で、舌にまとわりつくような甘みが口の中に広がる。
「……!」
思わず目を閉じる。
甘エビよりも力強い旨味。
これは日本酒だ。絶対に日本酒が合う。
「すみません」
「はい」
「加賀鳶を半合、冷やでいただけますか?」
「はい、加賀鳶ね」
女将さんが嬉しそうに笑った。
「お客さん、いいところ分かってるねぇ」
「エビを食べたら、日本酒が飲みたくなってしまって」
「それは正しいね」
しばらくして、ガラスの徳利と小さなお猪口が運ばれてきた。
透明な酒を注ぐ。香りを楽しんでから、一口。すっと入って、きゅっと切れる。
口の中に残っていたガスエビの甘みを、きれいに流していく。それでいて、あと味に嫌味がない。
「これだ」
思わず笑ってしまった。
でも、ひとりだからこそ、こんな顔もできる。
私は日本酒を少しずつ飲みながら、店内を眺めた。
隣の席には仕事帰りらしい男性が2人。
奥には夫婦らしき男女。
みんな、それぞれの時間を過ごしている。
誰も私を気にしていない。
私も誰も気にしない。
それが妙に心地よかった。



