花火大会の翌週。相楽、しおみー、ヤマモ、浅野、楠木の6人でキャンプ場でバーベキューをすることになっていた。
しおみーたち4人は、俺と相楽がお試しで暮らしていることは知らない。
俺は相楽に誕生日プレゼントに貰ったサングラスをかけ、若干緊張しながら待ち合わせの駅のロータリーへ向かう。もちろん、隣にはサングラス姿の相楽がいる。
ロータリーには浅野と楠木が着いていた。
「お待たせー!」
「やっほー!2人ともサングラスじゃーん!」
「どお?似合ってる!?」
内心ドキドキしながら勇気を出して自ら聞いてみる。
「超似合ってる!」
「うんうん、思いの外佐野が似合っててびっくりしてる」
「おいおい、褒めても何も出ねーから!」
きっと俺以上に相楽が喜んでいる。
レンタカーで迎えに来てくれたしおみーとヤマモ。
「みんなお待たせーっ!」
運転席のヤマモも助手席のしおみーもサングラスをかけていた。
「え、男子サングラス合わせてきたの?」
「ちげーよ。まじで偶然」
「夏の男の正装ってやつだな」
「初耳なんだけど」
「私らもかけてくればよかったねー」
「だねー」
「とりあえず後ろ乗って!」
✳︎
肉や野菜を焼くのは俺と相楽が担っている。焼く係の方が会話をしなくて済むことを理解している相楽が俺を誘う形でフォローをしてくれた。
「今夜はさっぱりしたものにしよっか」
他の奴らに聞こえない声のボリュームで相楽が言う。
「賛成。…正直、素麺でいいかも」
「それ大正解。家にあったっけ?」
「いや、この前の昼に食べたのがラストだったはず」
「帰り買ってくか」
まるで1年以上同棲しているカップルみたいな会話をする俺たち。
ていうか、俺は相楽を恋愛として意識し始めているんだろうか。すぐ意識してドギマギするくせに、まともに人を好きになったことがなくて付き合う為の好きの基準が分からない。
焼き終わり、みんなと食べていたらしおみーが女子に話題を振った。
「2人はひと夏の恋ありそ?」
しおみーは意外と恋バナが好きだ。
「勝手にひと夏で終わらせないでよ」
「そうよそうよ!夏の燃え上がる気持ちをイベント尽くしの冬まで持続させて、春を乗り越えるのが恋の大事な道のりなんだから」
なるほど、そういうものなのか…。
「え、その持続させる恋がついに始まった感じ?」
浅野と楠木は知らん顔で黙った。
「始まってもないんかーい!」
「いや、しおみーもだろ」
「ヤマモ、お前1人だけ相手いるからって調子乗んなよーっ」
「てゆうかさ、4人ともモテそうなのにフリーばっかなのびっくりだよね」
「分かる。全員いてもおかしくないよ」
浅野と楠木の目には、ちゃんと俺が一軍グループの一員に見えているんだと分かり安心した。
「俺は大募集なんだけど、佐野っちと相楽は今は彼女いらないんだってさ」
「しおみーの紹介断ってたしな」
「えー、もったいなーい!相楽なんてその気になれば秒で出来るのに」
「秒は言い過ぎ」
「ま、秒で落としたい相手がいないならどうしようもないよね」
楠木がそう言った時、相楽から視線を感じた。
「…。」
✳︎
夕方にヤマモたちと解散し、家で素麺を茹でる俺は考え事をしていた。
今日みんなに会うの久々だったけど、前より楽しめた気がする。多分、相楽が陽キャとして頑張る俺をバレない程度にフォローしてくれたからだ。…みんなの前で俺への態度が特別にならないのすごいよなぁ。付き合っても周りには隠すだろうけど、俺うまく隠せるかな…って、俺は何で付き合う前提で…
「吹きこぼれてるよ」
相楽に後ろから言われ、ぼーっとしていて鍋を見ていなかったことに気付く。
「うわ、やべっ……あっち!」
焦って触ったため、熱湯が指先にかかってしまった。
「早く…!」
相楽に引っ張られ、すぐ横のシンクの水道水を指先に流し当て始めた。後ろからぴったり寄り添う相楽は俺の腕を固定するように持っている。
「跡にならないといいけど…」
心配するように呟かれ、胸の奥が熱くなった。
何でこんな俺をここまで……
◇
数日後、俺は朝早くから昼過ぎまでバイトで、相楽は昼過ぎから夜遅くまでバイトの日だった。
帰っても相楽がいないから、バイト終わりにわざわざ連絡をしなくてもいいのに、今終わったとメッセージを送った。
「佐野君!」
駐輪場から出たタイミングで、スーツ姿の鎌田さんに声をかけられた。
「わ、え…お疲れ様です…」
初めて見たサラリーマンの鎌田さんは、いつも以上に落ち着いて見える。
「今日早上がりでね。佐野君も早かったんだねぇ」
「…はい」
「佐野君、このあと暇かな?」
「え…」
「良かったらすぐそこのカフェでお茶しないかい?」
「あっ…はい」
✳︎
鎌田さんと入店したカフェは、前から気になっていた店。ファミレスから近いため、バイト先の人に見られたら気まずいと思って諦めていたから来られて嬉しい。
「僕の奢りだから好きなもの頼んで」
「えっ、自分で払いますよ」
「いいのいいの。学生にお金出させるつもりはないよ」
「…ありがとうございます」
目の前に置かれたプリンアラモードに目を輝かせる俺。
「いただきます!」
「召し上がれ」
ワッフルとアイスコーヒーを頼んだ鎌田さんは優しく微笑んでいる。
「いつもと違う時間帯や長めの勤務時間になって大丈夫?しんどくないかい?」
「最初はあれでしたけど…慣れました」
「さすが若い人だねぇ。僕も若い頃は連日短い睡眠時間でも元気いっぱい動けたもんだよ。学生って忙しいよね。勉強して、バイトして、遊んで、恋して…その全部に全力で向き合えるのが若さの特権であり才能だよねぇ」
「特権と才能…」
「大人になるほどね、不器用になるんだよ。目の前の仕事や夢に集中し過ぎて大切な人を傷付けたり、色々経験したが故に人を好きになることすらしなくなったり」
「…。」
「若い頃は仕事も恋も失敗していいんだよ。いくらでもやり直せるし、無駄にはならないから。むしろ怖がって何もしない方が後悔するよ。…って、こんなことを語り出すなんてほんとおじさんになってしまったよ僕も」
鎌田さんの言葉が痛いほど突き刺さる。
✳︎
23時。夜ご飯とシャワーを済ませた俺は、ぼんやりとスマホ画面を見ている。
「……。」
この時間に家に1人なのは久しぶりだ。少し前まではこの静けさが当たり前で、自分を癒すための大切な時間だった。なのに今、寂しさを感じている俺は、どうかしているんだろうか。
「佐野……さーの」
「……ん?」
薄っすら目を開けると、しゃがんで声をかける相楽がいた。どうやら俺はクッションに寄りかかって寝てしまったらしい。
「ごめん、遅くなって。起こすか迷ったんだけど、ベッドで寝た方がいいと思っ…」
ぐいっ…
寝ぼけていたのか、夢だと思ったのか、俺は相楽の腕を引き、そっと抱き寄せた。
「……佐野?」
「…帰らないで……ずっと…ここにいて…」
「……。」
今は失敗していいんだってさ。
自分から初めて行動した時、この気持ちが恋だと気付いた。これが好きってことだと分かった。
しおみーたち4人は、俺と相楽がお試しで暮らしていることは知らない。
俺は相楽に誕生日プレゼントに貰ったサングラスをかけ、若干緊張しながら待ち合わせの駅のロータリーへ向かう。もちろん、隣にはサングラス姿の相楽がいる。
ロータリーには浅野と楠木が着いていた。
「お待たせー!」
「やっほー!2人ともサングラスじゃーん!」
「どお?似合ってる!?」
内心ドキドキしながら勇気を出して自ら聞いてみる。
「超似合ってる!」
「うんうん、思いの外佐野が似合っててびっくりしてる」
「おいおい、褒めても何も出ねーから!」
きっと俺以上に相楽が喜んでいる。
レンタカーで迎えに来てくれたしおみーとヤマモ。
「みんなお待たせーっ!」
運転席のヤマモも助手席のしおみーもサングラスをかけていた。
「え、男子サングラス合わせてきたの?」
「ちげーよ。まじで偶然」
「夏の男の正装ってやつだな」
「初耳なんだけど」
「私らもかけてくればよかったねー」
「だねー」
「とりあえず後ろ乗って!」
✳︎
肉や野菜を焼くのは俺と相楽が担っている。焼く係の方が会話をしなくて済むことを理解している相楽が俺を誘う形でフォローをしてくれた。
「今夜はさっぱりしたものにしよっか」
他の奴らに聞こえない声のボリュームで相楽が言う。
「賛成。…正直、素麺でいいかも」
「それ大正解。家にあったっけ?」
「いや、この前の昼に食べたのがラストだったはず」
「帰り買ってくか」
まるで1年以上同棲しているカップルみたいな会話をする俺たち。
ていうか、俺は相楽を恋愛として意識し始めているんだろうか。すぐ意識してドギマギするくせに、まともに人を好きになったことがなくて付き合う為の好きの基準が分からない。
焼き終わり、みんなと食べていたらしおみーが女子に話題を振った。
「2人はひと夏の恋ありそ?」
しおみーは意外と恋バナが好きだ。
「勝手にひと夏で終わらせないでよ」
「そうよそうよ!夏の燃え上がる気持ちをイベント尽くしの冬まで持続させて、春を乗り越えるのが恋の大事な道のりなんだから」
なるほど、そういうものなのか…。
「え、その持続させる恋がついに始まった感じ?」
浅野と楠木は知らん顔で黙った。
「始まってもないんかーい!」
「いや、しおみーもだろ」
「ヤマモ、お前1人だけ相手いるからって調子乗んなよーっ」
「てゆうかさ、4人ともモテそうなのにフリーばっかなのびっくりだよね」
「分かる。全員いてもおかしくないよ」
浅野と楠木の目には、ちゃんと俺が一軍グループの一員に見えているんだと分かり安心した。
「俺は大募集なんだけど、佐野っちと相楽は今は彼女いらないんだってさ」
「しおみーの紹介断ってたしな」
「えー、もったいなーい!相楽なんてその気になれば秒で出来るのに」
「秒は言い過ぎ」
「ま、秒で落としたい相手がいないならどうしようもないよね」
楠木がそう言った時、相楽から視線を感じた。
「…。」
✳︎
夕方にヤマモたちと解散し、家で素麺を茹でる俺は考え事をしていた。
今日みんなに会うの久々だったけど、前より楽しめた気がする。多分、相楽が陽キャとして頑張る俺をバレない程度にフォローしてくれたからだ。…みんなの前で俺への態度が特別にならないのすごいよなぁ。付き合っても周りには隠すだろうけど、俺うまく隠せるかな…って、俺は何で付き合う前提で…
「吹きこぼれてるよ」
相楽に後ろから言われ、ぼーっとしていて鍋を見ていなかったことに気付く。
「うわ、やべっ……あっち!」
焦って触ったため、熱湯が指先にかかってしまった。
「早く…!」
相楽に引っ張られ、すぐ横のシンクの水道水を指先に流し当て始めた。後ろからぴったり寄り添う相楽は俺の腕を固定するように持っている。
「跡にならないといいけど…」
心配するように呟かれ、胸の奥が熱くなった。
何でこんな俺をここまで……
◇
数日後、俺は朝早くから昼過ぎまでバイトで、相楽は昼過ぎから夜遅くまでバイトの日だった。
帰っても相楽がいないから、バイト終わりにわざわざ連絡をしなくてもいいのに、今終わったとメッセージを送った。
「佐野君!」
駐輪場から出たタイミングで、スーツ姿の鎌田さんに声をかけられた。
「わ、え…お疲れ様です…」
初めて見たサラリーマンの鎌田さんは、いつも以上に落ち着いて見える。
「今日早上がりでね。佐野君も早かったんだねぇ」
「…はい」
「佐野君、このあと暇かな?」
「え…」
「良かったらすぐそこのカフェでお茶しないかい?」
「あっ…はい」
✳︎
鎌田さんと入店したカフェは、前から気になっていた店。ファミレスから近いため、バイト先の人に見られたら気まずいと思って諦めていたから来られて嬉しい。
「僕の奢りだから好きなもの頼んで」
「えっ、自分で払いますよ」
「いいのいいの。学生にお金出させるつもりはないよ」
「…ありがとうございます」
目の前に置かれたプリンアラモードに目を輝かせる俺。
「いただきます!」
「召し上がれ」
ワッフルとアイスコーヒーを頼んだ鎌田さんは優しく微笑んでいる。
「いつもと違う時間帯や長めの勤務時間になって大丈夫?しんどくないかい?」
「最初はあれでしたけど…慣れました」
「さすが若い人だねぇ。僕も若い頃は連日短い睡眠時間でも元気いっぱい動けたもんだよ。学生って忙しいよね。勉強して、バイトして、遊んで、恋して…その全部に全力で向き合えるのが若さの特権であり才能だよねぇ」
「特権と才能…」
「大人になるほどね、不器用になるんだよ。目の前の仕事や夢に集中し過ぎて大切な人を傷付けたり、色々経験したが故に人を好きになることすらしなくなったり」
「…。」
「若い頃は仕事も恋も失敗していいんだよ。いくらでもやり直せるし、無駄にはならないから。むしろ怖がって何もしない方が後悔するよ。…って、こんなことを語り出すなんてほんとおじさんになってしまったよ僕も」
鎌田さんの言葉が痛いほど突き刺さる。
✳︎
23時。夜ご飯とシャワーを済ませた俺は、ぼんやりとスマホ画面を見ている。
「……。」
この時間に家に1人なのは久しぶりだ。少し前まではこの静けさが当たり前で、自分を癒すための大切な時間だった。なのに今、寂しさを感じている俺は、どうかしているんだろうか。
「佐野……さーの」
「……ん?」
薄っすら目を開けると、しゃがんで声をかける相楽がいた。どうやら俺はクッションに寄りかかって寝てしまったらしい。
「ごめん、遅くなって。起こすか迷ったんだけど、ベッドで寝た方がいいと思っ…」
ぐいっ…
寝ぼけていたのか、夢だと思ったのか、俺は相楽の腕を引き、そっと抱き寄せた。
「……佐野?」
「…帰らないで……ずっと…ここにいて…」
「……。」
今は失敗していいんだってさ。
自分から初めて行動した時、この気持ちが恋だと気付いた。これが好きってことだと分かった。



