今日も相楽がほっといてくれない

 翌週の土曜日。プリンフラッペを飲みに行くという相楽との約束を果たすため、お互いの家の中間地点にある駅で落ち合うことになっていた。

 先週、相楽に抱き締められたのは夢じゃない。しかし次の日も、その次の日も大学で会った相楽の態度は通常運転だった。フラッペの日程を決める連絡は取り合ったが、それ以外に深い連絡が来たわけでもない。だから余計に2人きりで会う休日の今日は死ぬほど緊張している。

 いまいち読めないんだよなぁ、相楽の心って。

 待ち合わせの駅から出てすぐの場所で相楽を待っていた。
「…佐野?」
「…?」
 俺は顔を上げことをすぐに後悔した。
「あ、やっぱ佐野じゃん。最初誰だか分かんなかったわ。すげーイメチェンしてんじゃん」
 目の前に立っているのは、高1の時に同じクラスだった男。スクールカーストで上の下グループに属し、人を馬鹿にすることで笑いを取ったり、悪ノリの度を越したりする奴だったため、正直嫌いだった。

 うわ、最悪だ…。高校までの知り合いに今の姿を見られるのは避けたかったのに。特に、こういう奴には…。

「……。」
「佐野、こっちに進学してたんだ。俺、こっちの専門に行ってんだよ」
「そう…なんだ…」
「どこの大学行ってんの?」
「…え…」

 …わざわざ言いたくない。

「相変わらず無口だなぁ。…つうか、友達出来てんの?見た目変わってもその性格じゃ…」
「俺の佐野になんか用?」
「…っ!」
 言葉を遮るように相楽が現れて、俺の肩に手を回した。
「えっ…と…」
元同級生は、相楽のカッコ良さと牽制するような態度に怯んでいる。
「佐野、こいつに用あるの?」
相楽からの問いかけに首を横に振った。
「じゃあ、行こ」
指数本を絡ませて、引っ張るように歩き出した相楽。

 …ドキッ…

 元同級生の姿が見えなくなり立ち止まった相楽は、自然と指を離した。
「ごめん、勝手なことして」
「…いや、すげぇ助かった。ありがと」

 ✳︎

 コーヒー店の店内は、土曜の午後なのに空いていた。
 お目当てのプリンフラッペを持つ俺たちは、周りに誰もいない1番奥の席に座ることにした。
 向かい合って座り、早速一口飲んでみた。
「…!!めっちゃくちゃ美味い!!」
「これやば。めっちゃ好みの味だわ」

 甘さと幸せを噛み締めるている俺に相楽は唐突に話し始めた。
「俺さ、佐野のこと入学前から知ってるんだよね」
「え…!?」
「最初に会ったのは2年前の学園祭の時で、その次が去年のオープンキャンパスの時だったかな」
 確かに俺は学園祭とオープンキャンパスに参加した。
「…えっ、でも、その、絡んでない…え、話したっけ?」
動揺がもろ表に出てしまう。
「学園祭の日、俺珍しく人酔いしてさ。一緒に来てたヤツらにトイレ行くって離れたんだけど、たどり着く前にしゃがみ込んじゃって…その時に声かけてくれたのが佐野」
「…俺?」
「やっぱ覚えてなかったか。多分、たまたま俺がふらついてるの見かけたんだろうね。大丈夫ですか?って、ペットボトルの水を渡してくれたんだよ。目も合わなかったし、受け取ったらすぐにどっか行っちゃったけど」

 そう言われればそんな事あったような…。知らない人に話しかけるなんて基本、絶対にしないけど、体調不良者を放っておけるほどの人間でもない。

「いつかどこかで会ったらお礼言いたいなぁって思ってたら、オープンキャンパスで見かけて声かけようとしたんだけど、見学のグループ別だったし、終わったら速攻で帰っていったから言えなくて」

 知らなかった。あのオープンキャンパスで一方的に俺のことを知っている人がいたなんて。学園祭やオープンキャンパスの時の俺はまだ外面も服装も……

「え、もしかして…入学当初から俺がイメチェンしたの気付いてた…?」
「うん。最初は別人かなとか、こっちのテンションが本来の姿なのかなとか思ったんだけど、一緒に過ごしてて、やっぱ最初に会った時が素だよなって思った。ただ、何となくそれを周りに知られたくないのが伝わってきたから、追求しなかったけどね」

 だからドラッグストアで会った時もすんなり俺に気付いたんだ。……ていうか、恥ずかし過ぎるんだけど。必死に陽キャに合わせてるの知られてたとか。相楽なりの優しさで気付いていないフリをしてくれたのは有難いけど、その裏で大学デビューすら上手く出来ない俺のことを嘲笑っていたんじゃないかと被害妄想が膨らんでしまう。

 黙っている俺の心の声を聞いたかのように相楽が言葉を続けた。
「誤解してほしくないんだけど、必死で変わろうとする佐野のことをダサいと思ったり、馬鹿にしたりしたこと一回もないから。その変わりたい気持ちを勝手に応援してたし…」

 抱き締められた時の佐野の言葉が頭をよぎった。

「頑張ってる姿が可愛いな、愛おしいなって思ってた」

 …ん!?!?

 フリーズする俺にさらにとんでもない事を言い出す。
「それと同時に俺だけが知ってる本来の佐野の深い部分を知りたくなった。だからさ…俺と付き合ってよ」

 付き合ってって……

「…え、何に?」
 何とか絞り出した俺の言葉に相楽は軽く笑った。
「あはっ。俺と恋人になってくれない?ってこと」
「え、こ、恋人?…はい!?何で!?」
「何でって、佐野のこと好きだもん、俺」
「いや、好きって…友達としてじゃないの?だって、俺も相楽も男だよ!?」
「恋愛に性別関係ある?」
「…それは…よく分からないけど…。あの、せめて本当の俺を知ってから判断した方がいいとゆーか…相楽の恋愛対象になれるような人間じゃないのは俺が1番分かってて…」
「佐野は、俺のこと嫌い?」
「え、それは絶対ない」
「今、好きな人いるの?」
「…いねーけど」
「じゃあさ、夏休み中一緒に住んでお互いに判断しよーよ。俺は佐野の素を知って好きかの再確認、佐野は俺と付き合えるかを見定める。どう?」

 どうって言われても…。冷静に考えておかしすぎる。誰もが羨む色男の相楽が俺のことを好きで、お試しで同居するなんて…。

 断るのが1番だと頭では理解している。なのに、奥底にある淡い期待?嬉しさ?が口を勝手に動かした。

「…わかった」

 夏休みまで約1ヶ月。とんでもない約束を交わしてしまった。

 ◇

 あっという間に8月突入。
「じゃ、また連絡するなー!」
「おぉ。良い夏休みを!」
 大学の正門でしおみー、ヤマモと別れた俺と相楽は駅へ向かう。

 佐野 颯という男の恐ろしいところは、あんな大胆な告白をしておきながら、今日までの1ヶ月間これまでと変わらない態度を維持しているところだ。

 ま、そのおかけで俺も前期テストに向けて日々勉強に集中できたけども……って、そんなわけないじゃん!?佐野が視界に入るたびに脈早くなるし、会ってない時も告白された日の光景がリピートされるし、佐野が暮らしやすいように家の中整えてちゃっかり準備してるし。

「また後で」
「あ、うん」
 改札口で別れた相楽はあっさりしていて、あの話はこのまま無かったことになるんじゃないかと疑ってしまう。

 ✳︎

 夕方、アパートの玄関を開けた俺の前には、大きなキャリーケースを持った相楽がいる。どうやらお試し同居の話は実行されるようだ。

 部屋に入り、一緒に生活する上でのルール決めの話をしようとしたら
「あのさ…っ!」
突然後ろから相楽に軽く抱き締められた。
「今日からよろしく」
「…こちらこそ…よろしく」

 え…スキンシップありな感じですかー!?