友達とカラオケに行くという難関を乗り越えた翌日、開放感からか昼頃までぐっすり寝ていた。
「…ん〜、こんなに寝たの久々だな」
ボサボサ頭のまま、朝食兼昼食を食べながら昨日のことを思い返す。
結局あの後、相楽が俺の選曲を一緒に歌ってくれたり、食べるのに時間がかかりそうなメニューを勧めてくれたり、スマートにフォローをしてくれた。100%楽しかったかと聞かれるとそうではないが、相楽のおかげで苦痛だと思うことはなかった。
「モテる男は気遣いも出来るんだよなぁ…」
✳︎
夕方、自転車に乗りバイト先へ向かった。
着いたのはファミレス。もちろん、ホール担当ではなく、裏方のキッチンでバイトをしている。仕事中は従業員と最低限の会話だけで済むし、食事補助で安くメニューが食べられるため、自分に合っているなと思う。
仕事終わりに自分で作った従食を隅の客席で食べていた。
「佐野君、ご一緒していい?」
従食を持ち声を掛けてきたのは、ホール担当の鎌田さん。平日はサラリーマンをしていて、週末に副業として働いている43歳男性。
「あ…はい」
外の世界とはいえ、バイト中の俺は8割人見知りモード。
「今日は夜のお客様少なかったねぇ」
「そうっすね…」
「そろそろかき氷が出始めるね。かき氷屋さんよりうちの方が出すの早いから、最初のうちはかき氷目当てのお客様増えるんだよ」
「へぇ、そうなんですね」
「夜より昼過ぎの方が忙しかったりするからねぇ。僕のおすすめは宇治金時だけど、苺尽くしが若い子には人気なんだよね」
俺は人見知りでコミュ力は無いけど、人と話すのが嫌いなわけじゃない。苦手なだけ。だから、鎌田さんみたいにこっちの相槌やリアクションが薄くても勝手に話を広げて進めてくれる人は楽だ。
◇
数日後の講義終わり、浅野と楠木が俺たち4人に声を掛けてきた。
「ねーねー、来月ライブすることになったんだけど、見に来てよ!」
「メインは先輩達だけどね」
浅野と楠木は軽音サークルに所属している。
「すげぇじゃん。何日ー?」
「11日の夜!」
人混みが苦手だし、その場のハイテンションなノリに合わせられる気がしなくて、ライブなんか行ったことがない。
「木曜かぁ、俺サークルあるわ」
ヤマモはフットサルサークルで活動中だ。
「うわ、俺もその日バイトで無理だわ。行きたかったぁ」
スマホで予定を確認したしおみーが残念そうに言った。同じくスマホでスケジュールアプリを見た俺は、夜の予定が空白なことに絶望する。
まじか…断る理由がない…。いや、まだ望みはある。もし相楽が無理なら流石に1人は嫌って言えばいいだけで…
「俺は行けるかな」
相楽の言葉によって、俺の望みは一瞬で消え去った。
「ほんと!?ぜひ来て来てー」
「1人なら行かないけど」
「あ、そうだよね」
みんなが一斉に俺を見た。
やばいやばい。相楽が行くかどうかが俺の返事に委ねられてしまっている!えー…行きたくないー。けど、この空気を壊さないような嘘の断りが思いつかない…。
「…今んとこ行けそう、かな」
「よかったぁ!じゃあ、佐野と相楽のチケット用意しておくね」
「…うん、さんきゅー」
やっとカラオケの難関を乗り越えたのに、また意志の弱さで自らを苦しめることに…。俺のバカ〜っ!
✳︎
大学の正門でバス組のしおみー、ヤマモと別れ、俺と相楽で駅へ向かう。
俺と相楽は路線が違う。そのため、改札を抜けるとそれぞれ別の乗り場にいく。
…ん?あれ?
改札を通り抜けても相楽は俺の横から離れない。
「…えっ、相楽って2番線じゃね…?」
「今日は用があって、佐野と同じ線だから」
「あ、そうなんだ」
電車に乗って数分。相楽は全く降りる気配がない。
どの駅で降りるんだろう…、と思いながら聞くタイミングを逃している俺は、必死に会話を広げていく。
「あとちょっとで6月とか早いよなぁ!」
「だね」
「6月に祝日ねぇのどうにかなんねーのかな」
「分かる。…佐野が総理大臣になって作ればいいんじゃない?」
「あー、それありだな。とりあえず次の選挙立候補するか」
「演説できんの?」
「任せろって」
「へぇ」
「あ、疑ってるだろー?」
「別に」
駅に電車が停まり、次々に人が降りていく。この駅を過ぎると、車内の人数が一気に減る。同じ大学の学生もいなくなるため、いつもなら半分オフモードになるのだが…。
相楽、いつ降りるんだっ!?
それから20分後。スカスカになった車内で、隣に座る相楽に伝える。
「俺、次の駅で降りるけど…」
「うん。俺も次で降りる」
「え!?」
「驚き過ぎ。つうか、佐野って今日バイト?」
「えっ、いや、休みだけど」
「じゃあ、今日の夜は家に居るんだ」
「そうだけど…」
なんとなく嫌な予感がする。
「俺、用事20時過ぎに終わるんだけど、一緒に夜ご飯食べない?」
「……へ?」
「イヤ?」
ちょっと甘えたような声色で首を傾げた相楽。
「嫌じゃないけど…外でだよな?」
問いかけるんじゃなくて、外で食べようって言わなかったことを秒で後悔した。
「佐野の家行きたい」
「ん…?」
今、俺の家に来たいって言った…?
「やっぱ…迷惑?」
いつものクールさが嘘みたいに不安そうに聞いてくる。
いやいや、そんな子犬みたいな目で見てくるなって!
「あの…すげぇ散らかってるし、もてなすもん何もないし…来てもつまんないっていうか…」
精一杯の言い訳をごにょごにょ言ってみるが無意味だった。
「男同士だし何も気にしないって。んじゃ、デリバリー頼んで一緒に食べよ」
「…りょーかい」
✳︎
部屋の片付けをする俺は、帰宅してからずっと落ち着かない。
友達が家に来るシチュエーションなんてしてなかったんだけど!だって、友達の溜まり場になるのは大学から近いとこ住んでる奴の家って聞いたから、こんな遠くにわざわざ遊びに来るとか想像してないじゃん?……あ、やばい!
返却するために用意していた服が目に入り、急いでクローゼットの中に隠した。
ぐるっと部屋を見渡し、あまりの殺風景に焦るが、今から洒落た置き物や芳香剤を買いに行く余裕はない。
『今から向かう』と相楽から連絡があり、心を落ち着かせるため、冷蔵庫にあったプリンを口にした。
「初対面の人が来るわけじゃないし…うん、大丈夫」
10分程でインターホンが鳴った。
本日2度目の笑顔の練習をして、ひと呼吸した俺はドアを開ける。
「お疲れー!いらっしゃい。迷わなかった?」
「うん。お邪魔します」
靴を脱いだ相楽の顔がぐっと目の前にきた。
「…甘い匂いする」
「…っ!」
…ドキッ…
あまりの近さに、キスされるかと思ったことが恥ずかしくて、小声になってしまう。
「…小腹空いてプリン食べた…ごめん」
「あはっ、なんで謝るの。でも、プリンで良かった」
「?」
「はい、食後のデザート。ケーキにした」
相楽から取っ手付きの箱を渡された。
「え、ありがとう」
相楽が到着してすぐにデリバリーでピザが届けられた。
「何でもない日にいきなりピザ食べられるとか、めっちゃテンション上がるな!」
テーブルの上にコップを2つ置いた俺は、本当にテンションが上がっている。
「だな。冷めないうちに食べよ」
「うん。…いただきまーす!」
「いただきます」
「…んー、うまーっ!」
「出来立てやばいな」
「2枚すぐ無くなりそう」
あっという間にピザを食べ切り、休む暇もなくケーキをテーブルの上で取り出した。
「うわ、美味そう!」
「どっちがいい?」
目の前には、苺ショートケーキとフルーツタルトが並んでいる。
「いいよ、先に相楽選べよ」
「何でだよ。佐野が先でしょ」
「迷い過ぎて選んでもらった方が助かるんだけど」
「んー、なら半分ずつ食べる?」
「え、いいの?」
「うん。俺もどっちも食べたいし」
俺の前にフルーツタルト、相楽の前に苺ショート。フォークをタルト生地に刺した時、相楽に「佐野…」と呼ばれ顔だけ横に向けた。
「ん?なっ…!?」
フォークに刺さった苺が口に当てられた。
「1番おっきいのあげる」
そう言った相楽の表情がかっこよくて、ちょっぴり意地悪で、謎のドキドキに襲われてしまう。
何だこの感覚……。
「…ん〜、こんなに寝たの久々だな」
ボサボサ頭のまま、朝食兼昼食を食べながら昨日のことを思い返す。
結局あの後、相楽が俺の選曲を一緒に歌ってくれたり、食べるのに時間がかかりそうなメニューを勧めてくれたり、スマートにフォローをしてくれた。100%楽しかったかと聞かれるとそうではないが、相楽のおかげで苦痛だと思うことはなかった。
「モテる男は気遣いも出来るんだよなぁ…」
✳︎
夕方、自転車に乗りバイト先へ向かった。
着いたのはファミレス。もちろん、ホール担当ではなく、裏方のキッチンでバイトをしている。仕事中は従業員と最低限の会話だけで済むし、食事補助で安くメニューが食べられるため、自分に合っているなと思う。
仕事終わりに自分で作った従食を隅の客席で食べていた。
「佐野君、ご一緒していい?」
従食を持ち声を掛けてきたのは、ホール担当の鎌田さん。平日はサラリーマンをしていて、週末に副業として働いている43歳男性。
「あ…はい」
外の世界とはいえ、バイト中の俺は8割人見知りモード。
「今日は夜のお客様少なかったねぇ」
「そうっすね…」
「そろそろかき氷が出始めるね。かき氷屋さんよりうちの方が出すの早いから、最初のうちはかき氷目当てのお客様増えるんだよ」
「へぇ、そうなんですね」
「夜より昼過ぎの方が忙しかったりするからねぇ。僕のおすすめは宇治金時だけど、苺尽くしが若い子には人気なんだよね」
俺は人見知りでコミュ力は無いけど、人と話すのが嫌いなわけじゃない。苦手なだけ。だから、鎌田さんみたいにこっちの相槌やリアクションが薄くても勝手に話を広げて進めてくれる人は楽だ。
◇
数日後の講義終わり、浅野と楠木が俺たち4人に声を掛けてきた。
「ねーねー、来月ライブすることになったんだけど、見に来てよ!」
「メインは先輩達だけどね」
浅野と楠木は軽音サークルに所属している。
「すげぇじゃん。何日ー?」
「11日の夜!」
人混みが苦手だし、その場のハイテンションなノリに合わせられる気がしなくて、ライブなんか行ったことがない。
「木曜かぁ、俺サークルあるわ」
ヤマモはフットサルサークルで活動中だ。
「うわ、俺もその日バイトで無理だわ。行きたかったぁ」
スマホで予定を確認したしおみーが残念そうに言った。同じくスマホでスケジュールアプリを見た俺は、夜の予定が空白なことに絶望する。
まじか…断る理由がない…。いや、まだ望みはある。もし相楽が無理なら流石に1人は嫌って言えばいいだけで…
「俺は行けるかな」
相楽の言葉によって、俺の望みは一瞬で消え去った。
「ほんと!?ぜひ来て来てー」
「1人なら行かないけど」
「あ、そうだよね」
みんなが一斉に俺を見た。
やばいやばい。相楽が行くかどうかが俺の返事に委ねられてしまっている!えー…行きたくないー。けど、この空気を壊さないような嘘の断りが思いつかない…。
「…今んとこ行けそう、かな」
「よかったぁ!じゃあ、佐野と相楽のチケット用意しておくね」
「…うん、さんきゅー」
やっとカラオケの難関を乗り越えたのに、また意志の弱さで自らを苦しめることに…。俺のバカ〜っ!
✳︎
大学の正門でバス組のしおみー、ヤマモと別れ、俺と相楽で駅へ向かう。
俺と相楽は路線が違う。そのため、改札を抜けるとそれぞれ別の乗り場にいく。
…ん?あれ?
改札を通り抜けても相楽は俺の横から離れない。
「…えっ、相楽って2番線じゃね…?」
「今日は用があって、佐野と同じ線だから」
「あ、そうなんだ」
電車に乗って数分。相楽は全く降りる気配がない。
どの駅で降りるんだろう…、と思いながら聞くタイミングを逃している俺は、必死に会話を広げていく。
「あとちょっとで6月とか早いよなぁ!」
「だね」
「6月に祝日ねぇのどうにかなんねーのかな」
「分かる。…佐野が総理大臣になって作ればいいんじゃない?」
「あー、それありだな。とりあえず次の選挙立候補するか」
「演説できんの?」
「任せろって」
「へぇ」
「あ、疑ってるだろー?」
「別に」
駅に電車が停まり、次々に人が降りていく。この駅を過ぎると、車内の人数が一気に減る。同じ大学の学生もいなくなるため、いつもなら半分オフモードになるのだが…。
相楽、いつ降りるんだっ!?
それから20分後。スカスカになった車内で、隣に座る相楽に伝える。
「俺、次の駅で降りるけど…」
「うん。俺も次で降りる」
「え!?」
「驚き過ぎ。つうか、佐野って今日バイト?」
「えっ、いや、休みだけど」
「じゃあ、今日の夜は家に居るんだ」
「そうだけど…」
なんとなく嫌な予感がする。
「俺、用事20時過ぎに終わるんだけど、一緒に夜ご飯食べない?」
「……へ?」
「イヤ?」
ちょっと甘えたような声色で首を傾げた相楽。
「嫌じゃないけど…外でだよな?」
問いかけるんじゃなくて、外で食べようって言わなかったことを秒で後悔した。
「佐野の家行きたい」
「ん…?」
今、俺の家に来たいって言った…?
「やっぱ…迷惑?」
いつものクールさが嘘みたいに不安そうに聞いてくる。
いやいや、そんな子犬みたいな目で見てくるなって!
「あの…すげぇ散らかってるし、もてなすもん何もないし…来てもつまんないっていうか…」
精一杯の言い訳をごにょごにょ言ってみるが無意味だった。
「男同士だし何も気にしないって。んじゃ、デリバリー頼んで一緒に食べよ」
「…りょーかい」
✳︎
部屋の片付けをする俺は、帰宅してからずっと落ち着かない。
友達が家に来るシチュエーションなんてしてなかったんだけど!だって、友達の溜まり場になるのは大学から近いとこ住んでる奴の家って聞いたから、こんな遠くにわざわざ遊びに来るとか想像してないじゃん?……あ、やばい!
返却するために用意していた服が目に入り、急いでクローゼットの中に隠した。
ぐるっと部屋を見渡し、あまりの殺風景に焦るが、今から洒落た置き物や芳香剤を買いに行く余裕はない。
『今から向かう』と相楽から連絡があり、心を落ち着かせるため、冷蔵庫にあったプリンを口にした。
「初対面の人が来るわけじゃないし…うん、大丈夫」
10分程でインターホンが鳴った。
本日2度目の笑顔の練習をして、ひと呼吸した俺はドアを開ける。
「お疲れー!いらっしゃい。迷わなかった?」
「うん。お邪魔します」
靴を脱いだ相楽の顔がぐっと目の前にきた。
「…甘い匂いする」
「…っ!」
…ドキッ…
あまりの近さに、キスされるかと思ったことが恥ずかしくて、小声になってしまう。
「…小腹空いてプリン食べた…ごめん」
「あはっ、なんで謝るの。でも、プリンで良かった」
「?」
「はい、食後のデザート。ケーキにした」
相楽から取っ手付きの箱を渡された。
「え、ありがとう」
相楽が到着してすぐにデリバリーでピザが届けられた。
「何でもない日にいきなりピザ食べられるとか、めっちゃテンション上がるな!」
テーブルの上にコップを2つ置いた俺は、本当にテンションが上がっている。
「だな。冷めないうちに食べよ」
「うん。…いただきまーす!」
「いただきます」
「…んー、うまーっ!」
「出来立てやばいな」
「2枚すぐ無くなりそう」
あっという間にピザを食べ切り、休む暇もなくケーキをテーブルの上で取り出した。
「うわ、美味そう!」
「どっちがいい?」
目の前には、苺ショートケーキとフルーツタルトが並んでいる。
「いいよ、先に相楽選べよ」
「何でだよ。佐野が先でしょ」
「迷い過ぎて選んでもらった方が助かるんだけど」
「んー、なら半分ずつ食べる?」
「え、いいの?」
「うん。俺もどっちも食べたいし」
俺の前にフルーツタルト、相楽の前に苺ショート。フォークをタルト生地に刺した時、相楽に「佐野…」と呼ばれ顔だけ横に向けた。
「ん?なっ…!?」
フォークに刺さった苺が口に当てられた。
「1番おっきいのあげる」
そう言った相楽の表情がかっこよくて、ちょっぴり意地悪で、謎のドキドキに襲われてしまう。
何だこの感覚……。



