相楽に素のダサい姿を見られたピンチから1週間。相楽から特に何か言われることはなく、陽キャとして溶け込む日々を送っていた。
「ここ座っていい?」
食堂でいつもの4人で昼ご飯を食べていると、同じ学科の浅野と楠木の女子2人がトレーを持って来た。
「もちろん!」
「ありがとー!あ、しおみー豚丼じゃん!」
浅野がしおみーの隣に座りながら話しかける。
「限定20食に間に合ったんだよ」
「へぇ、良かったね!」
「お邪魔しまーす」
ゆる丁寧に俺の隣に座ってきたのは楠木。
「どーぞどーぞ。なんなら俺の席半分譲るけど」
「いや、逆に狭くなるわ」
「あはは」
女子とこんな会話をするなんて高校までの俺なら絶対にありえない。陽キャの仮面を被った今の俺だからこそ出来たこと。もちろん内心は、今のノリ大丈夫だったか?ウザいとかキモいとか思われてないよな?とヒヤヒヤしている。
「え、金曜カラオケ?私も行きたーい」
「いいね、金曜暇だし」
しおみーからカラオケの話を聞いた浅野と楠木は参加する気満々。ちなみに俺は断るタイミングを逃し行く予定。
え、君ら来るの!?いやいや、無理無理!4人で行くことさえ無理難題なのに、そこに女子が加わるとか無理!…うわぁ、でもしおみーやヤマモなら絶対いいよって言うよなぁ。断る理由ないし。
「暇なら全然来なよ!」
「人数多い方が盛り上がるしな」
案の定しおみーとヤマモは快く受け入れる。
まじかぁ…やっぱ俺、断ろうかな…。
「ごめんけど、今回は男だけの親睦会だから2人はまた別日で」
相楽がクールな口調で断った。
えっ…。
「えー、2人ぐらいいいじゃん」
浅野の粘りに相楽は「だめ」と一言返す。
「相楽、俺らとそんなに仲を深めたいんだな。嬉しいぞ!」
「うんうん。そだな、今回は4人で行こうー!」
相楽の思いに喜ぶしおみーとヤマモは、あっさりと女子の参加を却下した。
ふぅー、とりあえず危機回避。相楽、ありがとう!
6人で講義室に戻る途中、1番後ろを歩いていた俺の横に相楽が近づいてきて、俺にしか聞こえない声で言ってきた。
「佐野が来るのが最優先だから」
「…え」
それは…どういう意味?
◇
ついにやってきた金曜日。朝の電車に揺られる俺は、今日歌う予定の曲をワイヤレスイヤホンで聴き続けている。
歌が上手いとか下手とかそんなことは二の次で、肝心なのは他の人が歌ってる時の合いの手とか、知らない曲を一緒に歌おうって誘われた時に合わせられるノリなわけで…。
「はぁ…胃が痛い」
ここ1週間、流行ってる曲やカラオケで盛り上がる曲をSNSで調べて聴きまくったが、一緒に行くメンバーによって選曲やノリも大きく変わるため、本番一発勝負感は避けられない。
「おはよーっ」
講義室のいつもの定位置に座る3人に挨拶をする。
「佐野っち、おはよー」
机に鞄を置く俺にヤマモが聞いてくる。
「佐野、寝不足?」
「えっ」
「なんか薄ーくクマあるぞ」
「あっ、まじ?昨日深夜までサブスク観ちゃっててさ」
今日のことが不安過ぎて、なかなか眠れなかったなんて口が裂けても言えないっ!
✳︎
18時過ぎ。カラオケボックスに着いた俺はゴクリと唾を飲む。
もう後戻りはできない…。…頑張れ、俺!いけるぞ、俺!
「何歌おっかなー!」
部屋に入ったしおみーは、すぐさまデンモクを手に取った。予想通りトップバッターはしおみーだろう。
「佐野とドリンク入れてくるわ。何がいい?」
「コーラで!」
「メロンソーダよろしく」
「了解」
「佐野、行こ」
「あ、うん」
相楽とドリンクバーに移動し、コップにジュースを注いでいく。しおみーとヤマモ分が終わり、自分のコップをマシーンに置こうとすると、
「あっ…」
俺と相楽のコップがぶつかった。
「あ、ごめん」
「ううん。佐野、何するの?」
「えっと…アイスココア」
「すご…」
やばい。一杯目から甘いの飲むの引かれた!?
「俺もココア」
相楽は微笑んだ。
「え!?」
「コップかして」
言われるがままコップを渡すと相楽はコップをセットして「濃いめ?」と聞いてくる。
「うん」
「薄いココアほど残念な飲み物はないよな」
「分かるっ!!」
思わず前のめりになってしまった。
「…はい」
「ありがと…」
部屋に戻るとマイクを持ったしおみーが前方に立ち、スタンバイしている。もうイントロが流れ始めていた。
「2人ともナイスタイミング!」
コップをテーブルに置いたと同時にしおみーは歌い始める。
あ、これはカラオケで盛り上がる曲ベスト5に入ってたやつだ!
「待ちきれないって、どんだけだよ」
少し呆れている相楽にヤマモが説明をした。
「毎日家で、早くカラオケ行きたいって言ってたからな。あと、カラオケで健がトップバッターを人に譲ったのを見たことがねぇ」
「あはは、しおみーらしいな!」
ハイテンションなしおみーの声量と歌い方は、自然と周りを盛り上げる。
「俺もう入れたから、相楽と佐野も…はい」
ヤマモにデンモクを渡され、緊張が増す。
うわ、何歌お…。盛り上がるのはしおみーが歌ってるし、好きな曲にしようかな。あ、でも最初だしバラードよりはノリのいい方がいいよな?でもアップテンポの曲を1人で歌いきる自信ないし…。
「はい、佐野」
俺が悩んでいる間に相楽は予約を終わらせていた。
悩みに悩んで曲を選んだ俺は、ヤマモを見習いながら大サビに突入したしおみーを盛り上げることに集中する。隣に座る相楽は軽く相槌と手拍子をするだけの安定の落ち着き。
その後、ヤマモは人気アニメの曲を完璧に歌いこなした。
「ひゅーっ!!ヤマモ、サイコー!!」
しおみーのテンションには、どう頑張っても追いつかない。
相楽は同世代のロックバンドの曲を歌い始めた。相楽の雰囲気によく合っているし、艶のある歌声がすごく心地良い。
かっこいい。イケメンで、歌も上手いとか…ほんと羨ましい限りです。
相楽が歌い終わり、ついに俺の番がきた。相楽からマイクを受け取った俺は、今だに曲のチョイスが正しかったかどうか不安になっている。マイクを握る手はほんのり汗をかいていて、喉を潤そうにもココアは飲み切ってしまった状態。
曲名が画面に映し出された時、相良が小さな声で「あ、これ好き」と呟き、少しだけ気持ちが楽になった。
アップテンポ過ぎず、バラードでもない曲調を選んでみたけどどうかな…
いざ歌い始めると、しおみーとヤマモが楽しそうに合いの手を入れてくれ、ここまで盛り上がり続けていた空気を壊さなくてよかったと安心する。チラッと隣を見たら、相楽が所々口ずさんでいてなんだか嬉しくなった。
やっと歌い終えた俺は、しおみーの歌い出しを聞き、空のコップを持ち部屋を出た。
「ふぅー…」
ドリンクバーコーナーの前で大きく息を吐いた。
やばい、まだ一巡しかしてないのにこの疲労感…。夜ご飯もここで済ませるって言ってたから、ずっと歌いっぱなしなわけじゃないと思うけど…。
友達との楽しい時間のはずなのに、合わせることに必死で心から楽しめていない自分に嫌気が差すし、いくら繕っても本来の俺は真の一軍にはなれないんだと思い知らされる。
「悩んでんの?」
「…っ!?」
空のコップを持った相楽に声を掛けられ、ビクッとなった。
「あー、うん」
悩んでるのはドリンクじゃなくて、次の曲だけど…。
コップをゆすいだ相楽は、乳酸菌飲料のボタンを押した。
「佐野も同じのにする?」
「あ、うん、そうするわ」
結局2杯目も相楽に注いでもらい、コップを受け取る俺に相楽が言ってくる。
「1人で歌うのしんどかったら俺一緒に歌うし、聴き専になってもいいから」
「え…」
「あんま気負わないで」
そう優しく言った相楽は、俺の頭をくしゃくしゃっとした。
「……。」
戻って行く相楽の後ろ姿を見ながら心臓が忙しくなるのが分かった。
もしかして、無理してるの気付かれてる?…ていうか、さっきの相楽の表情何だ…?
「ここ座っていい?」
食堂でいつもの4人で昼ご飯を食べていると、同じ学科の浅野と楠木の女子2人がトレーを持って来た。
「もちろん!」
「ありがとー!あ、しおみー豚丼じゃん!」
浅野がしおみーの隣に座りながら話しかける。
「限定20食に間に合ったんだよ」
「へぇ、良かったね!」
「お邪魔しまーす」
ゆる丁寧に俺の隣に座ってきたのは楠木。
「どーぞどーぞ。なんなら俺の席半分譲るけど」
「いや、逆に狭くなるわ」
「あはは」
女子とこんな会話をするなんて高校までの俺なら絶対にありえない。陽キャの仮面を被った今の俺だからこそ出来たこと。もちろん内心は、今のノリ大丈夫だったか?ウザいとかキモいとか思われてないよな?とヒヤヒヤしている。
「え、金曜カラオケ?私も行きたーい」
「いいね、金曜暇だし」
しおみーからカラオケの話を聞いた浅野と楠木は参加する気満々。ちなみに俺は断るタイミングを逃し行く予定。
え、君ら来るの!?いやいや、無理無理!4人で行くことさえ無理難題なのに、そこに女子が加わるとか無理!…うわぁ、でもしおみーやヤマモなら絶対いいよって言うよなぁ。断る理由ないし。
「暇なら全然来なよ!」
「人数多い方が盛り上がるしな」
案の定しおみーとヤマモは快く受け入れる。
まじかぁ…やっぱ俺、断ろうかな…。
「ごめんけど、今回は男だけの親睦会だから2人はまた別日で」
相楽がクールな口調で断った。
えっ…。
「えー、2人ぐらいいいじゃん」
浅野の粘りに相楽は「だめ」と一言返す。
「相楽、俺らとそんなに仲を深めたいんだな。嬉しいぞ!」
「うんうん。そだな、今回は4人で行こうー!」
相楽の思いに喜ぶしおみーとヤマモは、あっさりと女子の参加を却下した。
ふぅー、とりあえず危機回避。相楽、ありがとう!
6人で講義室に戻る途中、1番後ろを歩いていた俺の横に相楽が近づいてきて、俺にしか聞こえない声で言ってきた。
「佐野が来るのが最優先だから」
「…え」
それは…どういう意味?
◇
ついにやってきた金曜日。朝の電車に揺られる俺は、今日歌う予定の曲をワイヤレスイヤホンで聴き続けている。
歌が上手いとか下手とかそんなことは二の次で、肝心なのは他の人が歌ってる時の合いの手とか、知らない曲を一緒に歌おうって誘われた時に合わせられるノリなわけで…。
「はぁ…胃が痛い」
ここ1週間、流行ってる曲やカラオケで盛り上がる曲をSNSで調べて聴きまくったが、一緒に行くメンバーによって選曲やノリも大きく変わるため、本番一発勝負感は避けられない。
「おはよーっ」
講義室のいつもの定位置に座る3人に挨拶をする。
「佐野っち、おはよー」
机に鞄を置く俺にヤマモが聞いてくる。
「佐野、寝不足?」
「えっ」
「なんか薄ーくクマあるぞ」
「あっ、まじ?昨日深夜までサブスク観ちゃっててさ」
今日のことが不安過ぎて、なかなか眠れなかったなんて口が裂けても言えないっ!
✳︎
18時過ぎ。カラオケボックスに着いた俺はゴクリと唾を飲む。
もう後戻りはできない…。…頑張れ、俺!いけるぞ、俺!
「何歌おっかなー!」
部屋に入ったしおみーは、すぐさまデンモクを手に取った。予想通りトップバッターはしおみーだろう。
「佐野とドリンク入れてくるわ。何がいい?」
「コーラで!」
「メロンソーダよろしく」
「了解」
「佐野、行こ」
「あ、うん」
相楽とドリンクバーに移動し、コップにジュースを注いでいく。しおみーとヤマモ分が終わり、自分のコップをマシーンに置こうとすると、
「あっ…」
俺と相楽のコップがぶつかった。
「あ、ごめん」
「ううん。佐野、何するの?」
「えっと…アイスココア」
「すご…」
やばい。一杯目から甘いの飲むの引かれた!?
「俺もココア」
相楽は微笑んだ。
「え!?」
「コップかして」
言われるがままコップを渡すと相楽はコップをセットして「濃いめ?」と聞いてくる。
「うん」
「薄いココアほど残念な飲み物はないよな」
「分かるっ!!」
思わず前のめりになってしまった。
「…はい」
「ありがと…」
部屋に戻るとマイクを持ったしおみーが前方に立ち、スタンバイしている。もうイントロが流れ始めていた。
「2人ともナイスタイミング!」
コップをテーブルに置いたと同時にしおみーは歌い始める。
あ、これはカラオケで盛り上がる曲ベスト5に入ってたやつだ!
「待ちきれないって、どんだけだよ」
少し呆れている相楽にヤマモが説明をした。
「毎日家で、早くカラオケ行きたいって言ってたからな。あと、カラオケで健がトップバッターを人に譲ったのを見たことがねぇ」
「あはは、しおみーらしいな!」
ハイテンションなしおみーの声量と歌い方は、自然と周りを盛り上げる。
「俺もう入れたから、相楽と佐野も…はい」
ヤマモにデンモクを渡され、緊張が増す。
うわ、何歌お…。盛り上がるのはしおみーが歌ってるし、好きな曲にしようかな。あ、でも最初だしバラードよりはノリのいい方がいいよな?でもアップテンポの曲を1人で歌いきる自信ないし…。
「はい、佐野」
俺が悩んでいる間に相楽は予約を終わらせていた。
悩みに悩んで曲を選んだ俺は、ヤマモを見習いながら大サビに突入したしおみーを盛り上げることに集中する。隣に座る相楽は軽く相槌と手拍子をするだけの安定の落ち着き。
その後、ヤマモは人気アニメの曲を完璧に歌いこなした。
「ひゅーっ!!ヤマモ、サイコー!!」
しおみーのテンションには、どう頑張っても追いつかない。
相楽は同世代のロックバンドの曲を歌い始めた。相楽の雰囲気によく合っているし、艶のある歌声がすごく心地良い。
かっこいい。イケメンで、歌も上手いとか…ほんと羨ましい限りです。
相楽が歌い終わり、ついに俺の番がきた。相楽からマイクを受け取った俺は、今だに曲のチョイスが正しかったかどうか不安になっている。マイクを握る手はほんのり汗をかいていて、喉を潤そうにもココアは飲み切ってしまった状態。
曲名が画面に映し出された時、相良が小さな声で「あ、これ好き」と呟き、少しだけ気持ちが楽になった。
アップテンポ過ぎず、バラードでもない曲調を選んでみたけどどうかな…
いざ歌い始めると、しおみーとヤマモが楽しそうに合いの手を入れてくれ、ここまで盛り上がり続けていた空気を壊さなくてよかったと安心する。チラッと隣を見たら、相楽が所々口ずさんでいてなんだか嬉しくなった。
やっと歌い終えた俺は、しおみーの歌い出しを聞き、空のコップを持ち部屋を出た。
「ふぅー…」
ドリンクバーコーナーの前で大きく息を吐いた。
やばい、まだ一巡しかしてないのにこの疲労感…。夜ご飯もここで済ませるって言ってたから、ずっと歌いっぱなしなわけじゃないと思うけど…。
友達との楽しい時間のはずなのに、合わせることに必死で心から楽しめていない自分に嫌気が差すし、いくら繕っても本来の俺は真の一軍にはなれないんだと思い知らされる。
「悩んでんの?」
「…っ!?」
空のコップを持った相楽に声を掛けられ、ビクッとなった。
「あー、うん」
悩んでるのはドリンクじゃなくて、次の曲だけど…。
コップをゆすいだ相楽は、乳酸菌飲料のボタンを押した。
「佐野も同じのにする?」
「あ、うん、そうするわ」
結局2杯目も相楽に注いでもらい、コップを受け取る俺に相楽が言ってくる。
「1人で歌うのしんどかったら俺一緒に歌うし、聴き専になってもいいから」
「え…」
「あんま気負わないで」
そう優しく言った相楽は、俺の頭をくしゃくしゃっとした。
「……。」
戻って行く相楽の後ろ姿を見ながら心臓が忙しくなるのが分かった。
もしかして、無理してるの気付かれてる?…ていうか、さっきの相楽の表情何だ…?



