俺が俺に惚れてる

でも、タイミング的に考えて、この人があの『つる(・・)』さんだよな?

水流って書いて、つる(・・)と読むとか?
え?そんなことある?そんなはずないだろ?

水流(すいりゅう)って書いてなんて読む?」

……ホンマや。
え~、AI検索したらマジで水流って書いてつる(・・)って読むって出てきた!
めちゃくちゃカッコいい~。

しかも、結構この苗字の人って多いんだ。
細い川の流れや、折れ曲がった川の流れの周辺の地形をつる(・・)と呼んでいた。
なるほど、弓の(つる)からつる(・・)って呼んでたってことかな。
へぇ~、なるほどなぁ~。

って、感心している場合じゃなかった。
とにかく、このお誘いに何とかしてNO(ごめんなさい)と返さなくては。
……いや、別に受けてもいいのか?

いや、でも、前世の俺(和樹)的には、現世の俺()に合いそうにないし。
毎日、何かを食べに行くとか絶対無理。
外でなんか食べたりしたら、母さんの晩飯が完全(ベスト)な腹具合で美味しく食えなくなってしまう。
それは由々しき事態(ゆゆしきじたい)だ。
一日のうちで最も大切な『至福の晩飯タイム』を失うわけにはいかない。

強い決意(けつい)と共に、俺は再びスマホに向き直った。

【ごめん、帰りは一緒に帰れない】

――いや、これじゃいくら何でも冷たすぎるか?

【申し訳ないけど、帰りは和樹と一緒なんだ】

――うーん、和樹のせいにするのは、また何か違う気がするな。

【母さんのご飯食べたいから、寄り道はできない】

――いや、マザコンかよ。事実だけども。

くそ。なんて書けば、俺も相手も傷つくことなく綺麗に断れるんだ?!

あ~、なんてこった。
書いては消し、書いては消しを繰り返していたら、いつの間にか彼女のメッセージが届いてから一時間も経っているではないか。
ダメだ。どんなに考えてもいい言葉なんて出て来ない。

【ごめん、部活終わりは疲れてるし、一緒に帰るのはまだ緊張する】

あ~、絶対、こんなんじゃないよな。
正しい返信なんて無いんだろうけど、これじゃないのは知ってる。
でも、もう無理だ。これ以上は考えられん。
そろそろ眠気もピークだ。

――もう、これで送っちゃえ。

えいや、と送信ボタンを押した途端、眠気が一気に襲ってきた。
俺、今日も一日本当によく頑張りました。おやすみなさい。ぐぅ。


その夜。
俺は、前世(和樹)の夢を見た。

悲しい。寂しい。そんな夢。