俺が俺に惚れてる

和樹との関係に若干の戸惑いを覚えつつも、親友としての関係には変わりないか、と思っていた。
そんな高校一年生。

俺と和樹は当然、同じ地元の高校に上がった。
地元と言っても、高校からは別の中学とも一緒になるので、クラスの半分ほどは見知らぬ顔ぶれだ。

「可愛い子いるかな~」

俺と和樹の横で、堤谷(つつたに)がウキウキソワソワしている。
堤谷は何事にも熱い男だが、いかんせん熱すぎるのであまりモテない。
外見は割とかっこいいし、全力で部活に打ち込む姿はマジでカッコいいと思うのだが、自分に厳しいだけじゃなく他人にも厳しい。……モテる日は来ないだろう。

「可愛い子がいたとして、お前には関係ないけどな」

和樹の鋭いツッコミが堤谷を撃ち抜く。
『グハッ』とか言いながら、堤谷も撃ち抜かれる。お決まりの漫才(まんざい)だ。

「いうても、和樹もモテないよな~。何で?」
「さあな」

確かに、和樹は父親譲りでガワ(外見)はめちゃくちゃ整ってる。
とっかえひっかえできる父親(ゆず)りなのだから、とっかえひっかえできる可能性は高いだろう。っていうか、告白はされてると思う。俺の知らないところで。
そして、冷たくあしらっているのだ。
和樹は昔から、女の子を嫌っている(ふし)がある。

「結論、俺が一番モテるな」

俺のどうでもいいセリフは華麗にスルーされ、先生の挨拶が始まった。

入学式は何事もなく終わり、常に和樹と堤谷と三人で行動するようになった。
席は自由だったので、三人で固まる。
俺の後ろに和樹、和樹の横に堤谷だ。

授業中、たまに振り返って和樹の顔を覗き込んだりしてみるが、特に気になる反応は返ってこない。プリントを回すとき、わざと指先に触れてみたりしても、まったくの凪。
本当に、こいつは俺に惚れているのだろうか。

昼飯時は、堤谷は部活仲間と食堂で食べると言うので、和樹と二人だ。
和樹も俺も、弁当持参(じさん)
俺は振り返って和樹の机に弁当を広げる。

俺の弁当は母さんの手作りで、なぜかキャラ(べん)である。
一時期は恥ずかしいと思ったこともあるのだが、母さんの趣味なのでもう諦めた。
栄養バランスは完璧らしい。なんせ、母さんは管理栄養士(かんりえいようし)だ。病院でご飯を作っている。
まぁ、職場ではミリ単位で神経をとがらせている反動か『家では適当に目分量よ~』とか言って、いつも味が変わったりするんだけど。美味しいのは美味しいし、楽しそうで何よりだ。

一方、和樹の弁当は、和樹の父親……の、世話をしてくれる人が作っている。
なんだそれはって感じだけど、ヤバい人たちにとって和樹は「可愛い孫」みたいな存在らしく、父親が疲れて動けないときとかに和樹の世話をする人を用意してくれている。
最初は和樹の世話係だったのだが、和樹の父親が何一つ家事をできないことが判明してからは、父親の世話を主にしている。オカン気質の、ヤバい人だ。

ただ、その人の作る弁当が、結構旨い。
俺は小学生の頃から、和樹の弁当からメインのおかずを強奪(ごうだつ)するのを日課としている。
代わりと言っては何だが、今日は俺の母親特製(とくせい)の、ヒヨコ姿の玉子焼きをくれてやろう。
ひょいひょいと勝手に弁当を(いじ)るが、和樹は特に何も言わない。
何も言わないが、気付いたら俺の弁当のメイン、クマのハンバーグが盗まれていた。
確かに、メインと玉子焼きでは釣り合わなかったか。と思った次の瞬間、ペンギンおにぎりまで(かす)め取られた。

「あ~!それは取り過ぎだろ!」

思わず、奪われたペンギンに食らいついた。
……ら、勢い余って、ペンギンを掴んでいた和樹の手までガブッといってしまった。

「あ、わりぃわりぃ」

そのままペンギンを(かじ)って座り直すと、和樹がちょっと赤くなって、自分の手と残ったペンギンを見つめていた。

う~む。
やっぱり、和樹は俺を好きかもしれない。