俺が俺に惚れてる

「じゃあ、キーホルダーも買えたし。帰りますか」

全員の手にキーホルダーが行き渡ったところで、堤谷が提案した。
空はまだ青々としてはいるが、四時半を過ぎているので、帰るには丁度いい時間だ。
遊び足りなければ、駅付近で遊んでもいいし。

「あ、駅の近くで、プリクラだけ撮らない?」

菖蒲が水流さんの服を握り締めながら提案する。
多分、ちょっと勇気出したんだろうな。

「おぉ、良いな。やっぱ何かしら形に残したいよな~」

堤谷が食い気味に賛成する。水流さんと木谷さんも『いいねいいね』とキャッキャして。
思いやりが溢れていて、何か良い光景だ。
でも、六人が入るとギュウギュウなのでは?

「じゃあ、ここにする?何か、大人数でも入れるらしいよ。八人まで撮れるって書いてある」

水流さんも同じ事を考えていたようで、大人数用の機械を探してくれたようだ。
話しながらゆっくり歩いていたからか、自転車を返す場所に着くころには五時を回っていた。
駅に着くころには、五時半頃かもしれない。もう夕方だな。

――凄く楽しかったね。
――ネモフィラ綺麗だったね。
――ポピーも綺麗だった。
――シャボン玉見られてラッキーだったね。

皆が、キャッキャしながら振り返る楽しそうな声が、風のように聞こえてくる。

――キーホルダー買えてうれしい。
――ゲームも堪能できた。
――久しぶりの自転車も気持ち良かった。
――お昼のアレが美味しかった。
――アレも美味しかった。

なんて、今日一日の楽しかった事を色々と振り返りながら、ゆっくり駅に向かって歩く。
平和だ。まぎれもなく平和だ。
キャッキャする女の子に、相槌を打つ男の子。
他の場所ではまだ帰りたくないと駄々を捏ねる子供に、どうにか帰らせようと色んな提案をして苦心する親。
ちょっと大人のカップルも居たり、孫を眩しそうに見るおじいちゃんの姿があったり。

前世ではこういう事を意識した事が無かった。
稔の事ばっかり見ていて、他の事を見ようとしてなかった。意識すらしてなかったと思う。
空の色とか、木々の騒めきとか、見知らぬ人達の声とか。
なんでだろう。何も見えてなかったし聞こえてなかった。
こんなに、世界は色んなもので溢れているのに。

「どうした?稔」

ボケーッと周りを見ていたら、和樹が心配そうに話しかけてきた。

「いや、何でもない。ちょっと、ボーっとしてただけ」

いや待てよ。
確かに、前世で俺(和樹)は、稔しか見えてなかった。
でも、今の和樹はどうだ?
今の和樹は、俺(稔)の事しか見えてないか?
いや、そんなこと無いだろ。

だって、木谷さんが遅れたらすぐに気付いていた。
朝は声をかけていたし、さっきは並走していた。
水流さんとだって、物凄い仲良くなっていた。

そもそもだ。
前世の俺(和樹)は堤谷とこれほど仲良くはなかった。
今の和樹ほど話をしていた記憶もない。
稔以外の人間に興味なんて無かったから。

稔にしか興味ないけど、稔を俺(和樹)の側に縛り付ける権利は無い。
そう思っていたから、堤谷が一緒に居るのを我慢していただけで、談笑なんてしなかった。
和樹は、俺のはずなのに。
俺は、和樹だったはずなのに。

なんで、今の和樹は昔(前世)の俺と違うんだ?