息を切らしながら階段を上り、屋上のドアの前で深く深呼吸をしてから、ドアを開ける。
ドアの向こうには、青く澄んだ空が広がっていて、でも、どこか冬を感じさせる光景が広がっていた。
そして、その真ん中には、私服でかなり厚着をした彼女がポツンと立っていた。
「来てくれると思ったよ」
「……なんで?なんで、辞めるの」
息切れしながらも口から出た言葉は、自分でも驚く程に弱々しかった。
彼女は僕に背を向けたまま、空を見上げた。
「……私ね、病気なんだ。余命半年。文化祭のあとね、病状が悪化して、学校生活は無理だろうって。笑っちゃうよね」
いつも明るい彼女の声も、無理をしてるということが分かるぐらいには酷く弱っていた。
「今は?大丈夫なの?」
「うん。裏門には、看護師と担当医が待機してくれてる。お母さんも。……君にどうしても伝えたいことがあって、無理を言って連れてきてもらったの」
「僕に、伝えたいこと?」
彼女はゆっくりと、僕の方を向いた。その顔に僕は、息を飲まざるを得なかった。
なぜなら、彼女は泣きながら優しく微笑んでいるのだ。
泣くのを見るのはこれが初めてじゃない。けれど、久々に会った彼女の顔は、見てわかるぐらいに痩せていたから。
「本が好きな木目君に、私との物語を書いて欲しい。残したいの。私の青春を。そして、私が死ぬまでに完成させて、読ませて欲しい」
「どうして……」
どうしてそんなことを頼むのかと言い終わる前に、彼女は「木目君、文字綴るの上手そうだから!」と、涙を拭いていつもの笑顔でそう続けた。
文字を綴るのが本職だ。
でもそれは、彼女がもうすぐいなくなると言われてるみたいで、僕にとってそれはなんだか───。
強く拳を握りしめたあと、まっすぐ彼女を見て、こう言った。
「分かった。君が生きた証を、僕に残させて欲しい」
「………うん!」
これ以上体調が悪くなっては、心配で執筆どころじゃないと踏んだ僕は、彼女をおんぶして裏門まで連れて行った。
僕に背負われた彼女は、驚く程に軽かった。
彼女は帰り際、窓から顔を覗かせて僕に、「木目君の冬休み、全部ちょうだい」と言ってきたから、僕はすぐに了承した。
これも、本に残すためだと。


