余命半年の君と、一冊分の恋をした


「……面白かった?」
「うん?」
「……それ」
「ああ、うん!すっっごく面白かった!」


彼女は万遍の笑みでそう言ったあと、「何周したか分からないくらい読んでる」と付け足した。

デビュー作ではないけれど、『秋君』の売れ行きが良いと鳴宮さんからも報告が来ている。現に、今まで貰ったことがなかったファンレターも、『秋君』が発売されてから届くようになり、一人一人大切に目を通させてもらっている。

返事は書ける時に書いて、郵便ポストに投函してる。

本当に、ありがたいことだ。


「木目君も本読むの?」
「……まあ、それなりには」


スマホで時間を確認して、教室に戻ろうという彼女の提案で一緒に教室に向かう。

当然、僕みたいな根暗男子が彼女といていいわけがなく、歩く度に刺さる視線がすごく痛い。

階段を降りる時から距離を取って歩いていたけど、更にスピードを落として距離を取る。


「どうしてそんなに距離取ってるの?」


すると、彼女もスピードを落として僕の横に並んで歩き始めた。


「……君は、人気者だから」
「えっ?それを言うなら……いや、なんでもない!」


最初から分かっていたことだけど、やはり会話は続かない。

こんな僕と話したくないからか、彼女からの言葉も短く、言いかけてやめたりしている。

まあ、女子で僕と話す子の方が珍しすぎるまであるんだけど。


「……着いちゃった」
「え?」
「……ううん!また話そ!あっ、連絡先聞いてもいい?」


トントン拍子で進めていく彼女に呆気を取られながらも、初めて同級生の女子と連絡先を交換した。

教室より少し手前だから、クラスの奴らには見られてない……はず。まあ、見られたところで冷やかされるだけだし、慣れてるから問題ないけど。

そんなことより、昼休みが終わるのがそんなに寂しいかのように彼女が呟いた言葉は、しっかりと耳に届いていた。

なんて言ったのかと問う形になったかもしれないが、僕からしたら、なぜそんなことを言うのかということに対しての、聞き返しだ。

教室に入って席に座ると、唯一話すクラスメイトの元井が前の席に座った。

彼女は即座に男女に囲まれ、僕は女子に汚物を見るような目を向けられた。が、痛くも痒くもない。


「お前、白石と何してたん?」
「別に。たまたま会っただけだよ」
「たまたま会って、一緒に歩いてくるかー?」
「同じ教室なんだ。時間ギリギリなら被ることだってある」
「じゃあ、そういう事にしといてやるよ!」


元井とは中学から一緒で、僕が作家になったことを唯一バカにしなかった奴だ。寧ろ、守ってくれた。

両親は忙しく、海外出張に行っていて一人暮らししている僕を気にかけてくれる優しい奴でもある。

締切間近になると食べることを忘れるから、その度に家から僕の分のご飯を持ってきてくれる。わざわざ自転車に乗ってまで。

そんな奴が、なぜモテないのかが分からない。できることなら、元井を題材に書きたいぐらいなのに。

まあ、このクラスには彼女がいるから。男女ともに人気のある彼女の前では、失礼だけど元井は脇役なんだろう。

もちろん、僕も。