余命半年の君と、一冊分の恋をした


二学期が始まり、葉の色が少しずつ褪せてきた九月中旬。

僕は、電話の履歴が映し出されたスマホを握りながら、人気のないところに向かっていた。

屋上の扉の前まで来て、不在着信となっていた人物に電話をかける。


「───はい……はい。分かりました。後で確認します」
「熱心なのはいいが、無理はするなよ?学校もあるんだから」
「分かってます。あっ、人が来るのでそろそろ切りますね」


耳からスマホを離し、通話終了と書かれた下には、担当編集の名前が表示されている。

この時間帯は基本かかってこないんだけど、締切が近かったり新作の案を中々出さなかったりすると、こうやってかかってくる。今回の場合は後者だ。

他にも作家を抱えている担当編集の鳴宮さんは、僕が作家としてデビューした時からの担当さんだ。

本来なら担当さんが代わっていくんだけど、鳴宮さんの強い意志のおかげで担当が代わらず、打ち合わせもやりやすい。


「わっ……!」


スマホをポケットにしまって振り向いた瞬間、女子の声と共に何かが落ちる音がした。


「ごめん」
「いや、こっちこそ!」


僕がぶつかってしまった女子は、クラス……というか学年で人気が高い白石栞。

誰に対しても優しく、分け隔てなく接することから"女神"と呼ばれている。らしい。

同じクラスの元井から聞いただけで、僕は彼女のことを女神とは呼んだことがない。というか、名前すら呼んだことがない。

それに、向こうが僕のことを認知している可能性だって───。


「木目煌君、だよね?同じクラスの!」
「えっ。……あ、はい」


緩く巻かれた柔らかそうな髪が、彼女が立った瞬間に優しく揺れる。

まさか、フルネームで呼ばれるなんて。予想外のことに軽く動揺する。


「木目君は、昼休みいつもここにいるの?」
「いや……。いつもは教室で、元井と」
「あー確かに!休み時間とか、よく二人でいるの見るかも!……あれ?じゃあ何でここに?」
「ちょっと電話があって。静かな場所を探してたら、ここに……みたいな」
「そっかそっか!」


大丈夫だろうか。上手く会話になっていただろうか。

昔から女子とはあまり話したことがなく、高校に入ってからは一度も話してないに等しいくらいだ。

そんな中、会話をしたのが彼女とは。

僕は周りの男子に比べたら髪の毛は長めで、眼鏡をしている。メガネは伊達だけれど、所謂根暗男子というやつだ。

大騒ぎするよりかは静かな方が好きなだから、周りがあまり話しかけてこないことに心から安堵している。


「………その本」
「えっ?」


背表紙に書かれている題名が見えて、思わず声を漏らすと、スマホを見ていた彼女は本に目線を移した。

『秋の夕暮れに、君を映す』

それは、高校二年生の男子と余命一年の後輩女子の恋物語。残された時間がない中、最後に学校に行きたいという彼女の頼みに付き添って、屋上で夕日を背景に涙を流しながら笑っている彼女を主人公の男の子が撮るという、なんとも切ない話だ。

そして、それを書いたのは紛れもない僕。木瓜 粂(もこう くめ)。それが僕の活動名だ。

図書室の奥にある準備室を、学校で執筆する時はいつも使わせてもらっている。

彼女が持っている本は去年の秋に発売されたもの。今は、新しいのが思いつかずに、鳴宮さんがいろいろ案を出してくれる。

発売されてから一、二週間後に図書の先生が『秋の夕暮れに、君を映す』、略して『秋君』を入庫したと教えてくれた。

教えてもらったからと言って、自分で書いたやつはもう見飽きている。書いては修正の繰り返しをしてできるのだから、通しで読まなくたって内容は大体頭にある。

彼女は、図書室で借りたのか。それとも、書店で買ったのか。どちらにせよ、作者として嬉しい。