「おー、おかえり。何だったん?」
昨日の夜から泊まりに来ている元井を無視して、僕は自分の部屋へと直行した。
カバンから手紙を取りだし、ベッドに座り込む。
目を閉じながら深呼吸を三回繰り返し、そっと封を開ける。
何枚も重ねてふたつ折りにされた手紙をゆっくり開くと、彼女の綺麗な文字が綴られていた。
【木目煌君へ】
この手紙を読んでいるということは、お母さんから木目君の手に渡ったんだね。良かった、ちゃんと渡って。
まずは、私と仲良くなってくれてありがとう。
あの時、屋上のドアの前でぶつかったのが木目君で良かった。
そして、謝らなければいけないことがあります。
私は、木目君があの木瓜粂先生だと言うことを知っていました。言わなくてごめんなさい。
言ったら、仲良くしてくれないと思って。
木目君は知らないと思うけど、私、デビュー作のサイン会に行ってたんだ。中学生のときだから、無理もないけど。
サイン会に聞いた時の声が、高一の時に廊下ですれ違った木目君の口から聞こえたから、それはもうびっくりしたよ(笑)
あと、もう一個謝らなければいけないことがあります。
木目君に『私の事好きになっちゃダメだからね』って言ったこと、覚えてる?
あれね、あの時には既に私が木目君に惚れていたからなんだ。好きだったからこそ、好きになって欲しくなかった。
私を好きになっても、それはそれで嬉しいけど、木目君がつらい思いをするだけだから。
それが嫌だから、あんな事を言った。ごめん。
あー、楽しかったな。この半年間。
できることなら、もっと。もっと生きたかった。
生きて、高校生としての青春を謳歌したかった。木目君と一緒に進路の話とか、卒業式とか迎えたかった。
本当はね、文化祭前から体調悪かったの。でも、木目煌としての木目君と、木瓜粂先生としての木目君と一緒に過ごしたくて。無理して行ってたんだ。
お母さんにも担当医にもすっごく止められたんだけどね(笑)
それでも、木目君との日々を思い出として残したかったから。私の我儘に付き合わせちゃってごめんね?
それから、約束のことだけどね?
私は、木瓜先生の小説に出てくる女の子になりたかったんじゃない。木瓜先生自身の物語に残りたかった。残して欲しかった。だから、無茶なお願いをしたの。
元井君やクラスの子がお見舞いに来てくれた時に、なんで言わなかったんだよって怒られたけど、そこに木目君はいなかった。元井君に聞いたら、今月いっぱい休むって言ってたって聞いて。あぁ、無理させてるんだなぁって、後悔もした。
これを書いてる時はまだ物語を読んでないけど、でも言える。すっごく面白かったって。
全部も読めなくてごめん。ちゃんと書籍になったら、お墓の前に見せに来てね?ちゃんと見るから。
最後に。
木目君のことだから泣かないと思うけど、私が死んだらいっぱい泣いて欲しい。君が惚れるほどのいい女がいたんだって、自覚して欲しい。
泣いて、いっぱい泣いて、その後は笑っていて欲しい。そして、これは最後のお願いです。
木目煌君。本を読む時は、私とのツーショット写真を栞にしてください。ちゃんと、私たちの名前も書いて。そうしてくれたら、私は何の悔いもありません。
煌君、私は君のことが大好きでした。半年間、本当にありがとう。
【白石栞より】
読み終えるときには、僕の涙腺は大崩壊を起こしていた。
「……あぁああぁあっ……!!」
「煌!?どした!?おい、煌!」
声を上げて泣いたから、元井が勢いよくドアを開けて僕に駆け寄ってきた。
でも、ごめん。今は君の顔が見れないし、話せないや。
僕は、白石さん……栞のことが大好きになっていたんだ。好きなっている自覚はあった。
できることなら最後まで友人として。そういう思いがあったから、一歩を踏み出すことができなかった。
こんな時、恋愛と友情、どっちを優先させればよかったのだろう。
栞。君は、どっちを優先させたのかな?
問いかけても、返ってくるはずのない答え。それでも、君に聞かざるを得なかった。


