そして迎えた、一月三十一日。朝起きて長めにシャワーを浴びてから、体重を図る。すると、軽食ばかりだったからか、体重が少し減っていた。
使える時間全てを執筆に注ぎ込んだから、思いのほか早く仕上がったんだけど、修正などが繰り返されて、結局一月末になってしまった。
朝、鳴宮さんからの電話で「これで行こう」と承諾を貰って、急いですべてを印刷する。
彼女の体力にもよるけど、読めるところまで読んでもらえれば、それで満足だ。
僕は身だしなみを整え、病院に向かう。
「確か、病室は……」
部屋番号の下に"白石 栞"という名前を見つけ、三回ノックをした後にゆっくりとドアを開ける。
そこには、ニット帽を被ってブランケットを羽織った入院服姿の彼女がいた。
ベッドごと上半身を起こしている。
もう、自分じゃ起き上がること自体難しいのだろうか。
「おはよう」
「おはよ〜木目君」
「書籍にはなってないけど、約束のもの完成したから持ってきたよ」
「ほんと!?」
「うん。はい」
「タイトル、「笑うために生まれたキミ(仮)」か。うん。面白そう」
そう笑う彼女の顔や手は、また一段と痩せた気がする。
無数に繋がれた点滴や機械の管。
本来なら今すぐ目を背けたいところだけど、彼女も頑張っているんだ。闘っているんだ。自分の病気と。
僕が尻込みするのは、お門違いだ。
彼女が読んでいる間、僕はほとんど寝ていなかったというのもあり、椅子に座りながらうたた寝をはじめてしまった。
それから目が覚めたのは、彼女が半分以上読み終えた時だった。
「けほっ……げほっ……!」
「白石さん!?大丈夫!?」
彼女は震える声で、「初めて読んでくれた」などと嬉しそうに微笑んでいた。
けれど、僕は内心焦っていてそれどころではなく、咳が止まらない彼女を助けたくて、ナースコールを押した。
検査のために、僕は病室前の席に移動し、ただ手を握りながら祈っていた。
「栞!?」
廊下に声が響いて顔を上げると、女性が息を切らしながら彼女の病室の前まで走ってきた。
「もしかして、親御さんですか?」
「え、ええ。あなたは……?」
「僕は、栞さんと同じクラスの木目煌と言います。栞さん、今検査中で」
「木目、煌……。そう。あなたが」
僕の名前を繰り返したあと、彼女の母親は嬉しそうに、でも悲しそうに僕を見つめた。
検査は思ったより時間がかかっていて、その間に彼女の母親といろんな話をした。
彼女が余命半年と診断されたのは、夏休みの終わりだったらしい。急に、胸を抑えて苦しみ出したのが始まりだったそうだ。
彼女から僕の話を聞いていたらしく、あんな表情をしたらしい。
診断が下ってすぐ、入院を勧められたらしいが、彼女の体が悲鳴をあげるまではという願いで、通わせていたんだとか。
「本当は、病気が分かってすぐにでも入院して欲しかったんだけどね。やっぱり、青春させてあげたいじゃない?親としては」
そう言う母親の目からは、涙が一滴ずつ溢れ始めていた。
長話していると、ようやく病室の扉が開き、看護師と医師が出てきた。
「じゃあ、僕はこれで失礼します。また、来ますね」
「ありがとう、煌君」
彼女の母親と医師たちに会釈をして、僕は病院を後にした。
そして、日付が変わると同時に彼女は、僕の原稿を抱きしめながら、静かにこの世に別れを告げた。


