EP 幼馴染は永遠に
ひらひらと、夜の公園に桜の花びらが舞い散っている。
街灯で照らされた園内は薄暗く、やっと花が開いてきた桜の木の下に、五人の男が集まっていた。
制服を着るのは昼間の卒業式が最後となり、今は、それぞれ私服姿だ。
「よーし、ちゃっちゃと掘ろうぜ!」
スコップを片手に意気込んでいるのが、日本代表チームのサッカーユニフォームTシャツを着た爽太。
「うっ、ううっ、いやでござる……いやでござる~~」
上下共に黒い作務衣を着ている若菜が泣いている。ちなみにこの男、登校時に四人の姿を見ただけで泣いていたし、式の最中も、式が終わって「さわやか」に集まったときもずっと泣いていてもう目が腫れている。
「また何か入れるんだっけ? 何も持って来てないけど」
爽太に手渡されたスコップを持って、白いシャツとスラックス姿の文弥が言った。
「つか、文弥それ掘る服じゃなくね? 汚れるよ?」
スコップを持ち、派手な色の迷彩柄のパーカーを着た廉が指摘する。
「入れるもん、これでいいんじゃねえか」
黒いハイネックセーターにジーンズを履いた塁が、一枚の写真を見せた。野球部を引退してから髪を伸ばし、すっかり短髪のツーブロックになっている。
塁が見せた写真をみんなが覗き込む。
それは今日の昼、卒業式で撮った写真だ。
校門を背景に、五人で卒業証書の筒を持ち、制服の胸には花がついている。
爽太は満面の笑み、若菜は泣いていて、廉もはにかみ、塁は無愛想に、文弥は穏やかに笑っている。
それぞれの個性が出ている写真を見て、五人は頷いた。
爽太が一番最初に土を掘り始め、廉と文弥がそれに続く。若菜も力なくスコップで掘り、塁も参加した。
「ふはっ、これをさあ、素手で掘るとか無理あったよね」
「それな」
一年半前にも、この桜の木の下で、タイムカプセルを掘ろうとしたことがあった。
敢え無く失敗したのだが、その様子を思い出して廉が笑い、爽太が同意する。
深くまで掘って埋めたのだ。
黒歴史が、掘り起こされないように。
あっという間にタイムカプセルではない経由で掘り起こされた挙句に拡散されてしまったのだけれど。
「あ。僕の元データも消したからね」
「今!?」「今更でござるか!?」「いつ消したの!?」
文弥が思い出したように言うのに、爽太、若菜、廉が一斉に突っ込む。
文弥は笑って、「黒川さんを見つけた日に」と伝えるので、三人はほっと胸を撫で下ろした。
実際、あれから学校側の本気の対策が入り、学校裏サイトは潰されて、SNSの使い方も改めて全校で指導された。
黒川の処遇については明らかになっていないが、新聞部にも、あれから姿を見せなかった。
これにより、写真の無断使用や、AI加工の被害は、なくなったと言える。
「でもまあ、いい機会だったよなー」
土を掘り起こしながら、爽太がのんびり言った。
「そうでござるな。あれがなければ、進路についても話せなかったし」
「おまえらも付き合ってなかったろ?」
「は?」「ぶは、」
爽太が廉と塁を見て言うと、廉は瞬いて、塁は吹き出した。若菜も「えっ」と驚愕していて、文弥は肩を震わせて笑いを堪えている。
「爽太……」
「え、なに、言っちゃダメだった?」
「いやっ、えっ、え!?」
「おまえら、いつから気付いてたんだ……」
廉が慌てふためく中、塁は低い声で文弥と爽太を問い詰めた。
文弥と爽太は、「どどどどういうことでござるか~!?」と廉と同じぐらいに動揺している若菜を背景に、目を合わせた。
「僕は小学生から」
「は?」
「塁が廉好きだなって気付いてたけど」
「俺はちょうどあの件が落ち着いた後辺りから、二人の雰囲気変わったなって、あ、あった」
話しながらもスコップを動かしていた爽太が、ついにタイムカプセルの缶を見つけて、手で取り出す。
お菓子の缶は泥だらけになっていたけれど、ぐるぐるにしたガムテープも、当時の形のままだ。
泥を払った爽太が、箱を開けようとする。
「ままま待つでござる! たんま! どういうことか説明を求む!」
若菜のストップが入り、次は、廉と塁が顔を見合わせた。
「え、えーとー」
「二年の夏頃からか」
「そ、そーですねー」
「ああああああその頃から確かに廉氏はモテたいって言わなくなったでござる……でもそれはモデルのバイト始めたからだと思っていたでござる……不覚……一生の不覚ぅう」
若菜が地団駄を踏んで悔しがっている中、爽太がお菓子の箱に巻き付けられたガムテープを剥がすのに苦戦していた。
二年生の冬頃に、廉は芸能事務所にスカウトされて、モデルとしてのアルバイトを始めていた。
「なあ、開かねーんだけど!」
「こんな頑丈だった?!」
「っふ、ふふ」
爽太に代わって廉も引っ張ってみるが、粘着力が強くて剥がせない。
これではタイムカプセルに新しい思い出を埋めるどころか、古い思い出を見ることさえ叶わなかった。
文弥がそれを見て、肩を震わせて笑っている。
「いいんじゃない、黒歴史なんだし」
笑い混じりに言われた言葉に、廉がピンと閃いた。
「確かにィ! なんか俺ヤバいノートとか入れた気がするからこのままでいいや」
「なんだっけ、技名いっぱい書いてたやつな」
「やめてもうわすれて」
すかさず爽太が言ってくるのに、廉は聞かない振りで耳を塞いでいた。
「る、塁氏は……俺が廉氏にひっつく度に剥がしてたのはそういうことだったんでござるね……」
「さあなあ」
「言ってくれたら! 応援したのにいい」
「うるせーうるせー、おい爽太、その箱、若菜が持ってんのがいいんじゃねえか」
「えっ」
若菜に絡まれていた塁が、箱を持ったままの爽太に声を掛けた。
爽太は首を傾げつつも、素直に泥だらけの箱を若菜に渡した。
「いんじゃね、ワカが一番寂しがってるし」
「写真もあげたら」
「ああ。大事にしろよ」
「うっ、うう、なんなんでござるか~! もう~! 大好き~~!」
泥だらけの箱を抱き締めて、若菜が大声で言うのを、四人が笑って見守っている。
五人揃った写真も、若菜は大切そうに受け取った。
「ワカだけ関西だもんな~」
そう。
それぞれ大学への進学が決まった。
爽太は体育大学へ、文弥は私立の文系へ、塁は野球強豪校へ、廉もギリギリで私立大学に決まった。
四人は東京の大学だが、若菜は、第一希望の関西の歴史に強い大学への進学が決まったのだ。
爽太が言うと、若菜はまた、ぽろりと涙を流した。
「うっ、ううっ、俺、俺、立派な忍者になって帰って来るでござる」
「はは、忍者はそもそもござる言わねーから」
若菜は高校三年生になってからやっと一人称を俺に変えられたが、ござるはまだ根強く残っている。
爽太が笑って突っ込み、若菜の背中を軽く叩いた。
「夏とか帰って来るんでしょ? 会えるじゃん」
「それな」
「塁と廉はまた近所なの?」
廉が慰めて爽太が同意をする中、文弥が廉と塁を見て尋ねる。
ふたりは顔を見合わせて、小さく頷いた。
「近所っていうか……」
「一緒に住む」
「ええええなにそれええええ」
「あ、やっぱし? 遊びに行くわ」
「なんていうか、お幸せに」
塁の端的な宣言に若菜が叫び、爽太が笑い、文弥が締める。
廉は恥ずかしそうに視線をあちこちへと向けている。
掘った穴を五人分のスコップが、土を戻してしっかりと埋めていく。
はらはらと上から舞い散る桜と、穴を埋めていく土が、五人の道が離れても、いつかまた、こうして交差していくのを示唆しているようだった。
ひらひらと、夜の公園に桜の花びらが舞い散っている。
街灯で照らされた園内は薄暗く、やっと花が開いてきた桜の木の下に、五人の男が集まっていた。
制服を着るのは昼間の卒業式が最後となり、今は、それぞれ私服姿だ。
「よーし、ちゃっちゃと掘ろうぜ!」
スコップを片手に意気込んでいるのが、日本代表チームのサッカーユニフォームTシャツを着た爽太。
「うっ、ううっ、いやでござる……いやでござる~~」
上下共に黒い作務衣を着ている若菜が泣いている。ちなみにこの男、登校時に四人の姿を見ただけで泣いていたし、式の最中も、式が終わって「さわやか」に集まったときもずっと泣いていてもう目が腫れている。
「また何か入れるんだっけ? 何も持って来てないけど」
爽太に手渡されたスコップを持って、白いシャツとスラックス姿の文弥が言った。
「つか、文弥それ掘る服じゃなくね? 汚れるよ?」
スコップを持ち、派手な色の迷彩柄のパーカーを着た廉が指摘する。
「入れるもん、これでいいんじゃねえか」
黒いハイネックセーターにジーンズを履いた塁が、一枚の写真を見せた。野球部を引退してから髪を伸ばし、すっかり短髪のツーブロックになっている。
塁が見せた写真をみんなが覗き込む。
それは今日の昼、卒業式で撮った写真だ。
校門を背景に、五人で卒業証書の筒を持ち、制服の胸には花がついている。
爽太は満面の笑み、若菜は泣いていて、廉もはにかみ、塁は無愛想に、文弥は穏やかに笑っている。
それぞれの個性が出ている写真を見て、五人は頷いた。
爽太が一番最初に土を掘り始め、廉と文弥がそれに続く。若菜も力なくスコップで掘り、塁も参加した。
「ふはっ、これをさあ、素手で掘るとか無理あったよね」
「それな」
一年半前にも、この桜の木の下で、タイムカプセルを掘ろうとしたことがあった。
敢え無く失敗したのだが、その様子を思い出して廉が笑い、爽太が同意する。
深くまで掘って埋めたのだ。
黒歴史が、掘り起こされないように。
あっという間にタイムカプセルではない経由で掘り起こされた挙句に拡散されてしまったのだけれど。
「あ。僕の元データも消したからね」
「今!?」「今更でござるか!?」「いつ消したの!?」
文弥が思い出したように言うのに、爽太、若菜、廉が一斉に突っ込む。
文弥は笑って、「黒川さんを見つけた日に」と伝えるので、三人はほっと胸を撫で下ろした。
実際、あれから学校側の本気の対策が入り、学校裏サイトは潰されて、SNSの使い方も改めて全校で指導された。
黒川の処遇については明らかになっていないが、新聞部にも、あれから姿を見せなかった。
これにより、写真の無断使用や、AI加工の被害は、なくなったと言える。
「でもまあ、いい機会だったよなー」
土を掘り起こしながら、爽太がのんびり言った。
「そうでござるな。あれがなければ、進路についても話せなかったし」
「おまえらも付き合ってなかったろ?」
「は?」「ぶは、」
爽太が廉と塁を見て言うと、廉は瞬いて、塁は吹き出した。若菜も「えっ」と驚愕していて、文弥は肩を震わせて笑いを堪えている。
「爽太……」
「え、なに、言っちゃダメだった?」
「いやっ、えっ、え!?」
「おまえら、いつから気付いてたんだ……」
廉が慌てふためく中、塁は低い声で文弥と爽太を問い詰めた。
文弥と爽太は、「どどどどういうことでござるか~!?」と廉と同じぐらいに動揺している若菜を背景に、目を合わせた。
「僕は小学生から」
「は?」
「塁が廉好きだなって気付いてたけど」
「俺はちょうどあの件が落ち着いた後辺りから、二人の雰囲気変わったなって、あ、あった」
話しながらもスコップを動かしていた爽太が、ついにタイムカプセルの缶を見つけて、手で取り出す。
お菓子の缶は泥だらけになっていたけれど、ぐるぐるにしたガムテープも、当時の形のままだ。
泥を払った爽太が、箱を開けようとする。
「ままま待つでござる! たんま! どういうことか説明を求む!」
若菜のストップが入り、次は、廉と塁が顔を見合わせた。
「え、えーとー」
「二年の夏頃からか」
「そ、そーですねー」
「ああああああその頃から確かに廉氏はモテたいって言わなくなったでござる……でもそれはモデルのバイト始めたからだと思っていたでござる……不覚……一生の不覚ぅう」
若菜が地団駄を踏んで悔しがっている中、爽太がお菓子の箱に巻き付けられたガムテープを剥がすのに苦戦していた。
二年生の冬頃に、廉は芸能事務所にスカウトされて、モデルとしてのアルバイトを始めていた。
「なあ、開かねーんだけど!」
「こんな頑丈だった?!」
「っふ、ふふ」
爽太に代わって廉も引っ張ってみるが、粘着力が強くて剥がせない。
これではタイムカプセルに新しい思い出を埋めるどころか、古い思い出を見ることさえ叶わなかった。
文弥がそれを見て、肩を震わせて笑っている。
「いいんじゃない、黒歴史なんだし」
笑い混じりに言われた言葉に、廉がピンと閃いた。
「確かにィ! なんか俺ヤバいノートとか入れた気がするからこのままでいいや」
「なんだっけ、技名いっぱい書いてたやつな」
「やめてもうわすれて」
すかさず爽太が言ってくるのに、廉は聞かない振りで耳を塞いでいた。
「る、塁氏は……俺が廉氏にひっつく度に剥がしてたのはそういうことだったんでござるね……」
「さあなあ」
「言ってくれたら! 応援したのにいい」
「うるせーうるせー、おい爽太、その箱、若菜が持ってんのがいいんじゃねえか」
「えっ」
若菜に絡まれていた塁が、箱を持ったままの爽太に声を掛けた。
爽太は首を傾げつつも、素直に泥だらけの箱を若菜に渡した。
「いんじゃね、ワカが一番寂しがってるし」
「写真もあげたら」
「ああ。大事にしろよ」
「うっ、うう、なんなんでござるか~! もう~! 大好き~~!」
泥だらけの箱を抱き締めて、若菜が大声で言うのを、四人が笑って見守っている。
五人揃った写真も、若菜は大切そうに受け取った。
「ワカだけ関西だもんな~」
そう。
それぞれ大学への進学が決まった。
爽太は体育大学へ、文弥は私立の文系へ、塁は野球強豪校へ、廉もギリギリで私立大学に決まった。
四人は東京の大学だが、若菜は、第一希望の関西の歴史に強い大学への進学が決まったのだ。
爽太が言うと、若菜はまた、ぽろりと涙を流した。
「うっ、ううっ、俺、俺、立派な忍者になって帰って来るでござる」
「はは、忍者はそもそもござる言わねーから」
若菜は高校三年生になってからやっと一人称を俺に変えられたが、ござるはまだ根強く残っている。
爽太が笑って突っ込み、若菜の背中を軽く叩いた。
「夏とか帰って来るんでしょ? 会えるじゃん」
「それな」
「塁と廉はまた近所なの?」
廉が慰めて爽太が同意をする中、文弥が廉と塁を見て尋ねる。
ふたりは顔を見合わせて、小さく頷いた。
「近所っていうか……」
「一緒に住む」
「ええええなにそれええええ」
「あ、やっぱし? 遊びに行くわ」
「なんていうか、お幸せに」
塁の端的な宣言に若菜が叫び、爽太が笑い、文弥が締める。
廉は恥ずかしそうに視線をあちこちへと向けている。
掘った穴を五人分のスコップが、土を戻してしっかりと埋めていく。
はらはらと上から舞い散る桜と、穴を埋めていく土が、五人の道が離れても、いつかまた、こうして交差していくのを示唆しているようだった。



