1、二葉廉は泣いている
高校デビューを決めた俺は、高校に入る前に髪を染めた。オレンジ掛かったウルフカットは、美容師のお姉さんからも評判で、自分でもいい感じだと思っている。家に帰って母ちゃんにひっくり返られて父ちゃんに泣かれたのは、まあ、苦い思い出の一つと割り切ろう。次の日に会った幼馴染四人にも、爆笑された。いいじゃんか、オレンジ。オリジナリティがあるし、カッコイイ。制服も腰パンにしようとしたら、塁に「ダサいからやめろ」と止められた。ちぇー。まあまあ、そんな感じで、まずは見た目から、ガラッとイメチェンしたんだ。眉毛だって整えた。
西高は家から一番近い高校で、だからそこにしたんだけど、中学時代の知り合いともすれ違うことが多いからちょっと後悔した。
もっと遠いところに行って、誰も知らないところで誰も知らないカッコイイ俺になれる可能性だってあったんだよな、と。
まあでも、そんな『もしも』はどうでもいい。
だって、ついに、俺にも、彼女が出来たんだ!!
中学からやってて、一番格好つけられるから、って理由で部活はテニス部を選んだ。
もちろん、今回は技名を叫んだり、効果音をつけたりしない。
ただ黙々と、髪をなびかせて、クールにテニスをするんだ。
高校のテニス部は中学よりも落ち着いていて、女子テニス部とも距離が近かった。(中学の頃はお互い変に意識して、会話すらなかった)
三年の先輩たちはすごく大人に見えたし、二年の先輩たちは気さくに接してくれた。
高校ってすげえ、と思いながら、一年間を過ごした。
その間、なんとかボロを出さずに、クールなテニス部員として、それなりに頑張っていたはずだ。
そして高二になったばかりの春、俺は、念願の、『女の子に呼び出しをされる』というイベントを経験した。
中学の頃は、塁がその常習で、呼び出されるくせに面倒そうに行って『告られたけど断ったわ』と帰ってくる姿に無性に腹がたったし羨ましかった。
その日も、解放されている教室で、クラスも違うのにいつもの五人で弁当を食べているときだった。
同じクラスの女子が、「二葉いる?」なんて声を掛けてきて、「なにー」と言ったら、「ちょっと来て」なんて手招きされたんだ。
それに俺は心の中で、というかもうその場でガッツポーズをして、勝ち誇った顔を四人に向けた。四人は顔を見合わせている。
「どう思う?」とブンヤ。
「ただの用事だろ」と塁。
「伝言頼まれんじゃね?」と爽太。
「拙者、見てくるでござる」と若菜。いや来んな!
こそこそ囁いている四人を振り返りもせずに、俺は女子の元へ行った。
そこには、その女子の隣にもう一人、見覚えのない女の子がいた。
黒髪ふわふわのロングヘアで、恥ずかしそうに頬を染めているその子は、もじもじとしている。
「ほら、早く言いなよ」と促され、女の子は、「あの」と声を出す。
「わたしと、付き合ってくれませんか」
その日が、俺の人生のピークだった。
「かわいかったんだ……すげーかわいかったんだよ……」
二週間後、俺は、家が隣の塁の部屋に転がりこんでいた。慣れたもんで、自分の部屋より広い塁の部屋のカーペットの上に寝転んで丸まる。
部活終わりの塁は面倒そうに眉を寄せ、ベッドに腰掛けて俺を見下ろした。
中学の時はショートだった髪を、高校に入ってバッサリ坊主にした塁は、野球少年って感じが増した。
本人は、今の方が女子からキャーキャー言われないので、気に入っているらしい。贅沢な!
「毎日DMくれたしさー、今度デート行こうって約束もしてたのにさー」
「で、なんで振られたんだ」
「うっ、直球すぎ」
言ってなかったのに。
丸まってじめじめしていただけで、投手志望の幼馴染は、超剛速球のストレートを投げてくる。
「――、……だって」
「あ?」
「中学時代の! 俺を! 見たんだって!」
「ああ?」
「動画拡散!! なんで!? 怖い!! それを見て即振る女の子も怖い!!」
ゲーセンで俺が取って、すっかり塁の部屋に置いたままになっていた人気キャラクターのでっかい猫のぬいぐるみを思い切り抱きしめて嘆く。
『ごめん、こういう人ちょっと無理』
時間が合うときには一緒に帰る約束をしていたから、久々に部活がなくて早く帰れる今日、彼女のことを待っていたら、出会い頭にスマホを見せられてハッキリそう言われた。『行こ』と、告白のときもついていた女子と一緒に歩き始める背中は非情なものだった。女の子、こわい……。
「それ、どっから流出したんだ」
「わかんない……」
「招集、掛けた方がよくねえか」
塁が冷静にそう言うのに、ピンと来た。
そうだ。
俺の黒歴史は、タイムカプセルの中。
どうしてそれが、今更、SNSで拡散されているのか。
確かに、全員に確認する必要がある。
早速、次の日、食堂「さわやか」に全員が集まった。土曜日で授業はなかったが、俺と塁と爽太は部活があったから、それが終わって午後イチの時間帯だ。昼のピークは過ぎたが、まだお客で賑わう中、いつもの座敷席に集まって、顔を見合わせた。
「久しぶりじゃね? どしたん」
お盆の上に全員のお冷やを載せて運んで来た爽太が、そのままグラスを一人ずつの前に置いて、自分も空いている席に胡座をかいて座った。
休みの日はバイトがてら食堂の手伝いをしていて、部活が終わってすぐだというのに今も紺色の腰エプロンをつけている。
「実は……」
「廉が振られた」
「そこじゃねえ!!」
俺が黒歴史拡散について触れる前に、塁がいつもの冷静な表情でそう断言するから、思わずすぐ突っ込んだ。
「おめでとう」「よかったな」「乾杯でござる」
同時にグラスを掲げる三人に、「どういうこと!?」と動揺するが、三人とも普通の顔をして水を飲んでいる。なんだよ。
「ラブラブ自慢すごかったじゃん、なんで急に?」
爽太、おまえがいてくれてよかった……。
よかったなと言った口で聞いてくれる爽やかサッカー少年に感謝して、俺は目許を拭った。泣いてないけどね。
「俺の黒歴史が、拡散されてる」
至極真面目な顔で言うと、塁以外の三人が顔を見合わせた。
ブンヤはすぐにスマホを取り出し、何かを調べ始める。
「あー、本当だ」
ブンヤは新聞部だけに、情報通だ。あっという間にその動画に行き着いたようで、スマホの画面を見せてくれる。
『行くぞ! スクリュードライブ・ゼット!! どこーん!』
緑のヘアバンドをして黒髪の俺が決めゼリフを言いながら技を放つ動画が、食堂「さわやか」の座敷に大音量で再生された。
「やめて!!!」
「ぶはっ」「ふっ、ふふ」
爽太が吹き出して笑って、若菜が肩を震わせている。くそ。
「おい、これ……」
「裏サイトの匿名アカウントだね。うちの学校の」
塁が何か気付いたようにブンヤに言うと、ブンヤはまたスマホを見て冷静に分析した。
「裏サイトって! みんな見れちゃうってこと!?」
「うちの学校で、そういうコミュニティに入ってたら、まあ」
「暈しもなしじゃん! やだ! 削除できねえの!?」
「こういうのは消すと増えるから、スルーが一番かな」
「消すと増えるってなにこわい!」
「つーか、レンのだけなら別によくね?」
裏サイトの事情に震えていると、爽太が首を傾げた。あ、まずい。これは流されるパターンだ。
「いやっ、いやいやいや、俺のだけじゃなく、みんなのも拡散される可能性あるからね!?」
「あー。それは困るな」
坊主頭の塁が真面目に言う。中学時代の頃の写真が拡散されたら、今以上にモテるから困るって言ってるんですコイツは。
「ほらな!! 塁も言ってんじゃん!!」
「だからどうするって話だが……ブンヤ、なんか知らねえのか」
「知らないねえ」
「ブンヤ、こないだ俺とワカのこと捏造してたじゃん?」
塁に振られたブンヤが、スマホを見ながら答えていると、水を飲んだ爽太が言った。
「なんのこと?」
「拙者が、爽太氏に稽古に付き合ってもらったときのことでござる……」
「ワカその喋り方やめね?」
「文弥氏は、あたかもそれが事実であるように、学校新聞に触れ回ったのでござる!!!」
爽太の冷静なツッコミを無視し、若菜は拳を握ってブンヤを見た。
そういえば、校内新聞で、若菜が爽太をお姫様抱っこしようとしてプルプルしている写真を見かけた気がする。あれが事実ってどんなシチュエーションを生み出したんだ。写真だけ見て、文字は見なかった。
「あれなあ、あのあと女子からチヤホヤされて悪くなかったよな」
「人気コーナーなんだよ、<学校の壁の目>」
「こわっ」
壁に耳あり障子に目あり、的な……?
あんまり興味がなくて読んでないけど、クラスの女子の反応を見ると、学校の一画で見かけるワンシーンを特集したコーナーみたいだ。
「爽太氏はもう少し気にして! 拙者、部活のみんなにからかわれたでござる!」
「つーか、黒歴史晒されても気にしなかったらよくね? 俺気になんねーし」
「保育園からミリも変わってねえヤツに言われたくねー!!」
そう、爽太は保育園から全く変わってない。良くも悪くも!
茶色めいた髪も染めたことがないし、天然素材ですくすく育ったって感じだ。中身も外見も。
中学時代の爽太は、今よりも少し背が低いぐらいで、今と同じくサッカーを楽しんでいた。
「えー」
「はい、唐揚げ定食だよー」
「あ、ばあちゃんありがとー」「あざっす!」「あざす」「感謝」「ありがとうございます」
爽太のばあちゃんが、テーブルの上に次々と唐揚げ定食を置いてくれるのに、頭を下げた。
ばあちゃんが座敷から降りて行くのを見守ってから、割り箸を割って、改めて四人を見る。
「とにかく! 拡散元の情報、なんか掴んだらすぐに共有するよーに! 秘密はナシ! 捏造もダメ! いーい!?」
割り箸の先端を向けてビシッと告げるが、四人のリアクションは薄い。
「つーか、拡散して得するヤツいるか……?」
塁が首を捻って呟き、唐揚げを頬張り始める。
「得するかはわかんないけど、現に損してるヤツならいます!」
挙手すると、「確かに……」と同情の視線が送られる。やめて、レンのMPはゼロよ。
「レンに告ったの自体罠だったりして?」
「えっ」
「そ、爽太氏、それ禁句……」
「あやべっ、ごめん」
「えっ」
「大丈夫だよ廉、僕たちは何も君が罰ゲームで告白されたんじゃとか思ってないから」
「えっ!?」
「あー、まあ、食え」
「もがっ」
爽太が口を滑らせ、若菜が焦り、ブンヤが慈悲に満ちた表情で言って、塁が俺の皿の唐揚げを無理矢理口に突っ込んできた。
出来立て熱々の唐揚げをもぐもぐ噛み締めながら、黒髪ウェーブの元彼女を思い浮かべる。
いや、いやいやいや。確かに、一緒に下校をしたぐらいしかしてないけど。手も繋いでないけど。でも、確かに、デートの約束はしてたんだってば!
心の中の言い訳は虚しくも届かず、俺は、肉汁たっぷりの唐揚げを味わうことしか出来ないのであった……。
高校デビューを決めた俺は、高校に入る前に髪を染めた。オレンジ掛かったウルフカットは、美容師のお姉さんからも評判で、自分でもいい感じだと思っている。家に帰って母ちゃんにひっくり返られて父ちゃんに泣かれたのは、まあ、苦い思い出の一つと割り切ろう。次の日に会った幼馴染四人にも、爆笑された。いいじゃんか、オレンジ。オリジナリティがあるし、カッコイイ。制服も腰パンにしようとしたら、塁に「ダサいからやめろ」と止められた。ちぇー。まあまあ、そんな感じで、まずは見た目から、ガラッとイメチェンしたんだ。眉毛だって整えた。
西高は家から一番近い高校で、だからそこにしたんだけど、中学時代の知り合いともすれ違うことが多いからちょっと後悔した。
もっと遠いところに行って、誰も知らないところで誰も知らないカッコイイ俺になれる可能性だってあったんだよな、と。
まあでも、そんな『もしも』はどうでもいい。
だって、ついに、俺にも、彼女が出来たんだ!!
中学からやってて、一番格好つけられるから、って理由で部活はテニス部を選んだ。
もちろん、今回は技名を叫んだり、効果音をつけたりしない。
ただ黙々と、髪をなびかせて、クールにテニスをするんだ。
高校のテニス部は中学よりも落ち着いていて、女子テニス部とも距離が近かった。(中学の頃はお互い変に意識して、会話すらなかった)
三年の先輩たちはすごく大人に見えたし、二年の先輩たちは気さくに接してくれた。
高校ってすげえ、と思いながら、一年間を過ごした。
その間、なんとかボロを出さずに、クールなテニス部員として、それなりに頑張っていたはずだ。
そして高二になったばかりの春、俺は、念願の、『女の子に呼び出しをされる』というイベントを経験した。
中学の頃は、塁がその常習で、呼び出されるくせに面倒そうに行って『告られたけど断ったわ』と帰ってくる姿に無性に腹がたったし羨ましかった。
その日も、解放されている教室で、クラスも違うのにいつもの五人で弁当を食べているときだった。
同じクラスの女子が、「二葉いる?」なんて声を掛けてきて、「なにー」と言ったら、「ちょっと来て」なんて手招きされたんだ。
それに俺は心の中で、というかもうその場でガッツポーズをして、勝ち誇った顔を四人に向けた。四人は顔を見合わせている。
「どう思う?」とブンヤ。
「ただの用事だろ」と塁。
「伝言頼まれんじゃね?」と爽太。
「拙者、見てくるでござる」と若菜。いや来んな!
こそこそ囁いている四人を振り返りもせずに、俺は女子の元へ行った。
そこには、その女子の隣にもう一人、見覚えのない女の子がいた。
黒髪ふわふわのロングヘアで、恥ずかしそうに頬を染めているその子は、もじもじとしている。
「ほら、早く言いなよ」と促され、女の子は、「あの」と声を出す。
「わたしと、付き合ってくれませんか」
その日が、俺の人生のピークだった。
「かわいかったんだ……すげーかわいかったんだよ……」
二週間後、俺は、家が隣の塁の部屋に転がりこんでいた。慣れたもんで、自分の部屋より広い塁の部屋のカーペットの上に寝転んで丸まる。
部活終わりの塁は面倒そうに眉を寄せ、ベッドに腰掛けて俺を見下ろした。
中学の時はショートだった髪を、高校に入ってバッサリ坊主にした塁は、野球少年って感じが増した。
本人は、今の方が女子からキャーキャー言われないので、気に入っているらしい。贅沢な!
「毎日DMくれたしさー、今度デート行こうって約束もしてたのにさー」
「で、なんで振られたんだ」
「うっ、直球すぎ」
言ってなかったのに。
丸まってじめじめしていただけで、投手志望の幼馴染は、超剛速球のストレートを投げてくる。
「――、……だって」
「あ?」
「中学時代の! 俺を! 見たんだって!」
「ああ?」
「動画拡散!! なんで!? 怖い!! それを見て即振る女の子も怖い!!」
ゲーセンで俺が取って、すっかり塁の部屋に置いたままになっていた人気キャラクターのでっかい猫のぬいぐるみを思い切り抱きしめて嘆く。
『ごめん、こういう人ちょっと無理』
時間が合うときには一緒に帰る約束をしていたから、久々に部活がなくて早く帰れる今日、彼女のことを待っていたら、出会い頭にスマホを見せられてハッキリそう言われた。『行こ』と、告白のときもついていた女子と一緒に歩き始める背中は非情なものだった。女の子、こわい……。
「それ、どっから流出したんだ」
「わかんない……」
「招集、掛けた方がよくねえか」
塁が冷静にそう言うのに、ピンと来た。
そうだ。
俺の黒歴史は、タイムカプセルの中。
どうしてそれが、今更、SNSで拡散されているのか。
確かに、全員に確認する必要がある。
早速、次の日、食堂「さわやか」に全員が集まった。土曜日で授業はなかったが、俺と塁と爽太は部活があったから、それが終わって午後イチの時間帯だ。昼のピークは過ぎたが、まだお客で賑わう中、いつもの座敷席に集まって、顔を見合わせた。
「久しぶりじゃね? どしたん」
お盆の上に全員のお冷やを載せて運んで来た爽太が、そのままグラスを一人ずつの前に置いて、自分も空いている席に胡座をかいて座った。
休みの日はバイトがてら食堂の手伝いをしていて、部活が終わってすぐだというのに今も紺色の腰エプロンをつけている。
「実は……」
「廉が振られた」
「そこじゃねえ!!」
俺が黒歴史拡散について触れる前に、塁がいつもの冷静な表情でそう断言するから、思わずすぐ突っ込んだ。
「おめでとう」「よかったな」「乾杯でござる」
同時にグラスを掲げる三人に、「どういうこと!?」と動揺するが、三人とも普通の顔をして水を飲んでいる。なんだよ。
「ラブラブ自慢すごかったじゃん、なんで急に?」
爽太、おまえがいてくれてよかった……。
よかったなと言った口で聞いてくれる爽やかサッカー少年に感謝して、俺は目許を拭った。泣いてないけどね。
「俺の黒歴史が、拡散されてる」
至極真面目な顔で言うと、塁以外の三人が顔を見合わせた。
ブンヤはすぐにスマホを取り出し、何かを調べ始める。
「あー、本当だ」
ブンヤは新聞部だけに、情報通だ。あっという間にその動画に行き着いたようで、スマホの画面を見せてくれる。
『行くぞ! スクリュードライブ・ゼット!! どこーん!』
緑のヘアバンドをして黒髪の俺が決めゼリフを言いながら技を放つ動画が、食堂「さわやか」の座敷に大音量で再生された。
「やめて!!!」
「ぶはっ」「ふっ、ふふ」
爽太が吹き出して笑って、若菜が肩を震わせている。くそ。
「おい、これ……」
「裏サイトの匿名アカウントだね。うちの学校の」
塁が何か気付いたようにブンヤに言うと、ブンヤはまたスマホを見て冷静に分析した。
「裏サイトって! みんな見れちゃうってこと!?」
「うちの学校で、そういうコミュニティに入ってたら、まあ」
「暈しもなしじゃん! やだ! 削除できねえの!?」
「こういうのは消すと増えるから、スルーが一番かな」
「消すと増えるってなにこわい!」
「つーか、レンのだけなら別によくね?」
裏サイトの事情に震えていると、爽太が首を傾げた。あ、まずい。これは流されるパターンだ。
「いやっ、いやいやいや、俺のだけじゃなく、みんなのも拡散される可能性あるからね!?」
「あー。それは困るな」
坊主頭の塁が真面目に言う。中学時代の頃の写真が拡散されたら、今以上にモテるから困るって言ってるんですコイツは。
「ほらな!! 塁も言ってんじゃん!!」
「だからどうするって話だが……ブンヤ、なんか知らねえのか」
「知らないねえ」
「ブンヤ、こないだ俺とワカのこと捏造してたじゃん?」
塁に振られたブンヤが、スマホを見ながら答えていると、水を飲んだ爽太が言った。
「なんのこと?」
「拙者が、爽太氏に稽古に付き合ってもらったときのことでござる……」
「ワカその喋り方やめね?」
「文弥氏は、あたかもそれが事実であるように、学校新聞に触れ回ったのでござる!!!」
爽太の冷静なツッコミを無視し、若菜は拳を握ってブンヤを見た。
そういえば、校内新聞で、若菜が爽太をお姫様抱っこしようとしてプルプルしている写真を見かけた気がする。あれが事実ってどんなシチュエーションを生み出したんだ。写真だけ見て、文字は見なかった。
「あれなあ、あのあと女子からチヤホヤされて悪くなかったよな」
「人気コーナーなんだよ、<学校の壁の目>」
「こわっ」
壁に耳あり障子に目あり、的な……?
あんまり興味がなくて読んでないけど、クラスの女子の反応を見ると、学校の一画で見かけるワンシーンを特集したコーナーみたいだ。
「爽太氏はもう少し気にして! 拙者、部活のみんなにからかわれたでござる!」
「つーか、黒歴史晒されても気にしなかったらよくね? 俺気になんねーし」
「保育園からミリも変わってねえヤツに言われたくねー!!」
そう、爽太は保育園から全く変わってない。良くも悪くも!
茶色めいた髪も染めたことがないし、天然素材ですくすく育ったって感じだ。中身も外見も。
中学時代の爽太は、今よりも少し背が低いぐらいで、今と同じくサッカーを楽しんでいた。
「えー」
「はい、唐揚げ定食だよー」
「あ、ばあちゃんありがとー」「あざっす!」「あざす」「感謝」「ありがとうございます」
爽太のばあちゃんが、テーブルの上に次々と唐揚げ定食を置いてくれるのに、頭を下げた。
ばあちゃんが座敷から降りて行くのを見守ってから、割り箸を割って、改めて四人を見る。
「とにかく! 拡散元の情報、なんか掴んだらすぐに共有するよーに! 秘密はナシ! 捏造もダメ! いーい!?」
割り箸の先端を向けてビシッと告げるが、四人のリアクションは薄い。
「つーか、拡散して得するヤツいるか……?」
塁が首を捻って呟き、唐揚げを頬張り始める。
「得するかはわかんないけど、現に損してるヤツならいます!」
挙手すると、「確かに……」と同情の視線が送られる。やめて、レンのMPはゼロよ。
「レンに告ったの自体罠だったりして?」
「えっ」
「そ、爽太氏、それ禁句……」
「あやべっ、ごめん」
「えっ」
「大丈夫だよ廉、僕たちは何も君が罰ゲームで告白されたんじゃとか思ってないから」
「えっ!?」
「あー、まあ、食え」
「もがっ」
爽太が口を滑らせ、若菜が焦り、ブンヤが慈悲に満ちた表情で言って、塁が俺の皿の唐揚げを無理矢理口に突っ込んできた。
出来立て熱々の唐揚げをもぐもぐ噛み締めながら、黒髪ウェーブの元彼女を思い浮かべる。
いや、いやいやいや。確かに、一緒に下校をしたぐらいしかしてないけど。手も繋いでないけど。でも、確かに、デートの約束はしてたんだってば!
心の中の言い訳は虚しくも届かず、俺は、肉汁たっぷりの唐揚げを味わうことしか出来ないのであった……。



