幼馴染最強伝説~ツンデレスパダリ坊主が、俺を好きなの!?~

0、俺たち最強幼馴染!




 水色のスモッグを着た小さな子どもたちが、保育園の園庭を駆け回っている。
 女の子同士で花を摘んでいる子、担任の先生に手を引かれている子、砂場で山を作っては壊している子。
 自由遊びは、子どもたちが一番生き生きとしている時間だ。

「今日はおれがレッドな!」
「れんはいつもレッド……」
「わかはどうする?!」
「わかはにんじゃ」
「忍者はヒーローじゃないよ」
「でもわかはにんじゃになりたい。そーたは?」
「オレはサッカー選手! レンは?」
「おれはもてもてきんぐ! るいは!?」
「野球……ぶんやは」
「ぼくは図書館」
「としょかん!?」
「図書館になれば、本がいっぱいよめるから」
「ブンヤ頭いー!」「てんさい!」「じゃあおれテレビになる!」

 ヒーローごっこの予定が、いつの間にか将来の夢を語ることになるのも日常茶飯事だ。
 黒髪で色白の男の子を、周りにいた子たちが褒め称え、黒髪の子も満更でもなさそうに笑っている。
 若い女の担任の先生が、微笑ましそうな眼差しを向けていた。
 
 ――平和な思い出である。







 小学校に上がっても、五人は一緒にいることが多かった。
 単純に、家が近所なのである。
 近くに住んでいて年が同じとなれば、自然と、行動も共にすることが多い。
 そしていつの間にか、それが当たり前になってしまっていた。
 この日も、ランドセルを背負って、五人で小学校から一緒に帰っていた。
「中学になったら部活どーする!?」
「野球部」
「そりゃ塁はなあ!」
「サッカー部!」
「そりゃあ爽太もなあ」
「わ、わかは、忍者部……」
「ないね」「ねーな!」「ない」「ないなあ」
 若菜のぼそっとした希望に一斉にツッコミが入り、あからさまにショックを受ける若菜の長い前髪に隠れた眉がハの字に下がった。
 しかしいつものことに動じない四人の会話は続いていく。
「ブンヤは?」
「新聞部」
「なにそれ! 新聞読むの?」
 爽太が身体ごと傾けて尋ねると、文弥が首を振る。
「書くんだよ」
「新聞を?!」
「すっげー頭よさそう!」
 爽太が驚き、廉が目を輝かせた。文弥は、五年生になってから掛け始めた黒縁メガネをくいっと持ち上げる。
「まあね」
「廉はどうするんだ」
 塁が廉に問いかけると、廉は、腕を組んで「うーん」と悩み始める。
「なあ」
 足を止めて、四人を見渡す。四人も、幼さの残るまあるい瞳で廉を見返した。
「一番モテる部活って、なんだと思う?」








 時は経ち、五人は、中学校も同じだった。クラスこそ違ったが、相変わらず、登下校は重なることが多い。
 寝坊が多い廉を塁が起こしに行き、その流れで爽太や若菜を拾って、途中で文弥と合流する。
 運動部の朝練がないときは、それが決まったルーティーンだった。
 朝練がある日は、若菜と文弥は別行動となる。
 宣言通り、塁は野球部、爽太はサッカー部、文弥は新聞部に入部した。
 最後まで忍者部が良いと駄々を捏ねていた若菜は、妥協して演劇部に入部した。
 そして廉は、一番女の子が見学していた気がする、という理由で、テニス部に入った。

「そう、俺は西中の柱になるし、テニスの王子様にもなる……!」

 テニス部に入った廉は、何かのスイッチが入った。
 部活の時には緑のヘアバンドを額につけ、有名少年テニスマンガの技名をもじった技を編み出しては、サーブの度に叫んでいた。
 ちなみに、テニス部の先輩も後輩も同じようなノリだったため、試合の最中には技名が飛び交い、怪我なんてあろうものなら大袈裟なドラマが繰り広げられていた。
 女子テニス部から、冷ややかな目を向けられている現実は、男子テニス部の誰もが見ない振りをしていた。

「何撮ってんだ」
 男子テニスコートのフェンスの前に立っている文弥が、学校の備品であるビデオカメラを手にしているのを、グラウンドに行く途中だった塁が気付いて声を掛ける。
「黒歴史になるかなあと思って」
「あー」
 フェンスの向こうでは、廉が楽しそうに「行くぞ! スクリュードライブ・ゼット!! どこーん!」と技名と効果音を叫んでサーブをしている。
 塁は納得の声を出す。ツリ眉垂れ目、身長も高くなり、野球のおかげで体格も良い塁は、五人の中では一番モテた。
 本人は女子の視線を迷惑そうにしているのだが、それがまた良いと評判を上げている。
 短い黒髪を掻き上げる仕草を、ビデオカメラではなく、デジタルカメラを構えてパシャリと文弥が撮った。
「二刀流か」
「塁の写真、よく売れるから」
「売るなよ」
 ぽん、と文弥の黒髪に大きな手のひらを置いてそう言い残し、塁は歩き出した。
 文弥は気にした様子もなく、録画を続けた。
「爽太と若菜も、一応撮っておくか……」
 その後、サッカー部と演劇部も同様に記録しに行ったのだが、爽太はただただ楽しそうにサッカーをしていて、若菜も意外に真面目に稽古に取り組んでいたので、撮れ高はなさそうだと判断したのだという。








 「相談がある」

 無事に高校が決まり、中学卒業を間近に控えたある日、廉が四人を呼び出した。
 こういうときには、決まって、爽太の実家の食堂「さわやか」が待ち合わせ場所となる。
 放課後の夕方は、一番空いている時間だ。
 決まった座敷席で、正座をして真面目な顔をしている廉を前に、四人は顔を見合わせた。
「なんだよ」
 塁が促すと、廉が顔を上げた。
 真剣な顔で口を開く。

「俺は……高校デビューがしたい」
「は?」「え?」「なんて?」「なにそれ」

 これ以上なく真剣に言い放った廉に、同時に反応が返った。
「はい、唐揚げ定食だよー」
「わあ、ありがとーばあちゃん!」
 そのタイミングで、爽太の祖母が、大盛りの唐揚げ定食を持ってきて、それぞれの前にドンと置いてくれる。
 食堂では、唐揚げ定食が定番だ。食の細い若菜も、この唐揚げ定食だけは、ペロリと食べる。
 箸を持って「いただきます」と挨拶をし、それぞれが唐揚げと白いご飯を頬張り始めた。
「で、なんだっけ? デビュー?」
 爽太が話を戻す。
「そう! 俺は! 高校デビューがしたい!」
「何度も言わなくていい」
「ていうか別に宣言しなくてよくない?」
「拙者も高校では忍者になりたいでござる」
「若菜はその喋り方なんとかしたほうがいいな」
 大口を開けて塁が唐揚げを頬張りながらツッコミ、文弥が唐揚げを箸で小さく切り分けながら首を傾げる。
 すっかり前髪も後ろも髪が長くなり、ひょろひょろと背も伸びた若菜だが、夢は変わっていない。
 若菜が夢見がちに呟くと、爽太が悪気なくズバッと言った。
「いやいやいや、お前らにも協力してもらわなきゃダメなんだって」
「は?」「なんで?」
 塁と文弥が、廉の言葉に眉を上げた。
「だってさ、西小組で、そのまま中学上がって西高行くの俺らだけじゃん? 俺の昔の写真とか、中学の話とか、してほしくないんだって」
「なんでだ」
「そりゃあ、」
 廉が初めて、言い難そうにした。
 ぱく、と唐揚げを一つ頬張る。
 もぐもぐとしてから、口を開く。
「モテねえじゃん……?」
「ぶはっ」
 控えめな呟きに、爽太が口に含んでいた水を吐き出した。文弥も肩を震わせ、若菜はぽかんとしている。
「おまえ……」
 塁が真面目な顔で廉を見た。
「気付いたのか、やっと」
「うっ、やめて憐れんだ目で俺を見ないで!」
「なんだっけ、スクリューどら」「やめてええええ」
「西中の柱に俺は」「いやああああああ」
 爽太の技名に廉は耳を塞ぎ、若菜のクオリティの高いモノマネにのたうち回った。精神力を削られている。
「なるほどね。いいんじゃない、協力してあげたら」
「いいけどさー、何をどうすんの?」
 廉の様子に肩を揺らして面白がっている爽太が、文弥の言葉に反応する。
 文弥は、黒縁メガネをくいっと押し上げて、ニヤリと口角を上げた。
「タイムカプセルでも、作る?」
「賛成賛成超賛成お願いします俺の写真や動画全部そこにしまおう」
「廉のだけじゃなくて、僕らの全部ね」
「賛成!!!」
 ――そんなわけで、五人は、黒歴史を詰め込んだタイムカプセルを埋めることになった。
 五人の家から一番近い公園に夜集まり、桜の木の下に、埋めた。
 文弥の家にあった四角いクッキー缶に、それぞれが持っている写真や、廉が自作した技名研究ノートをしまって、ガムテープでぐるぐる巻きにして、シャベルで穴を掘って埋めたのだ。
 これが、この五人(主に廉)が、高校デビューをすると決めた日の出来事だ。