ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

「本当に、どうお詫び申し上げたらいいか……」

 休み時間に勇助が左隣に座る初に謝ると、ふう、と息を吐いた初が頬杖をついた。

 初との交際の噂が広まったその日のうちに、『じゃない方』こと勇助は、あの(・・)孤高の『姫』を射止めた男として話題になり、一部で『姫彼』なる呼び名まで爆誕した。
 今日も初とともに一歩教室の外に出た瞬間、

「あっ、『姫』だ」
「ほんとだ」
「じゃあその隣が?」
「「「『姫彼』だ」」」

 と取り沙汰される始末。
 あれからまだ一週間も経っていないが、恥ずかしいやら申し訳ないやらで、消えてしまいたい気持ちでいっぱいだった。

「広まっちまったもんはどうしようもねーだろ。
 ムキになって否定するほうが余計怪しまれるしな。
 ひとまず、インハイが終わるくらい……? ほとぼりが冷めるまでは恋人同士のフリしとこうぜ」
「はい……」

 肩を落とす勇助の前に、スマートフォンが差し出される。どういうこっちゃと首を傾げる勇助に、初がぶっきらぼうに言った。

「何かあったら連絡すっから、LIMEのID教えろ。
 期間限定とはいえ、恋人同士なのに連絡先を知らないのは不自然だろ」

 こうして、勇助と初は互いの連絡先を交換することになった。


「——登録できたか?」
「はい」
「じゃあ勇助、お前の番号も登録するから教えろ。
 色んな番号からしつこく掛けてくる奴がいて、オレのスマホ、登録してる番号以外から掛けると通話中になって切れる設定にしてあるから」
「そうなんですね……」

 初も『姫』と呼ばれるだけあって、勝ち気な美人風の整った顔立ちをしている。桜慈と同じようにストーカー的な存在に悩まされての策なのだろうと、納得するとともに同情した。

「これでよし、と。
 まあ通話よりSMS使うだろうけどな」
「あっ! SMSといえば。
 文字数が膨らむと通信料が高くなるので、ご用の際はなるべく用件を簡潔に、短く送って下さると助かります」
「通信料とか気にしたことなかったわ……了解。
 っと、次は数IIだから移動しないとな。勇助、お前数Ⅱのクラスどこ?」
古林(ふるばやし)先生のクラスです」
(フル)チンの!? 一番上のクラスじゃんか。
 教室移動なくていいな。今度勉強教えてくれよ」
「僕でよければ。はじめさんは?」
「オレは一番バカクラスだよ。
 ……そうだ、移動する前に。これ、渡そうと思ってたんだわ」

 そう言って初がサイドポケットから取り出したのは、少し皺が付いた、小さな白い紙切れだった。

「『何でも言うこと一つきく券』……?」
「あの日お前に恋人役を頼んだ時、『無条件にとは言わない』って言っただろ?
 だから、お前も何か困った時や助けが必要な時があったらコレ使え。
 ……オレに出来る範囲で、なんでも一つ聞いてやるから」

 勇助が『何でも言うこと一つきく券』と初を交互に見ると、初は照れたように「なんだよ」と低い声で言った。

「ありがとうございます……。
 でもこれ、『券』の字が間違っているので、あとで無効になったりしませんか?」
「えっ、まじ!? どこ」
「ここ。『券』の字の下の部分が『刀』じゃなくて『力』になってます」
「まじか……下、『刀』か。
 オレ的には『券』のつもりで書いたんだけど」

 恥ずかしげに後頭部を掻く初に微笑むと、ふと時計を見た初がぴたりと動きを止めた。

「そろそろ移動するわ。
 ……それ、誤字ってるけどちゃんと有効だかんな!」

 教科書類をまとめて教室を出ようとする初を、勇助が引き留めた。

「あのっ。頂いたこれ……早速ですが、使ってもいいですか?」