「——ほら、これ。オレのLIMEのQRコード」
「ごめんなさい。僕が使ってるのは妹名義のキッズケータイなんで、メッセージアプリは入れられないし、QRコードも読み取れないんです。
更に言うとインターネットも繋がらないので、SMSと通話しかできなくて……。
なので、電話番号を教えていただけませんか?」
勇助が制服のポケットから白のキッズケータイを取り出すと、初が「オーパーツみたいな通信機器だな」と目を丸くした。
数日前、陸上部の部室でのひと騒動の後。
勇助が『ラブラブ』宣言を高らかにしてしまったことを初に平謝りすると、口を開きかけた初の胸倉を桜慈が掴み、小柄な体躯を壁際に叩きつけた。
「……っ!」
「どうして勇助君を謝らせる。元はと言えば、姫嶋。お前が悪いんだろう?
ラブレター紛いの姑息な手紙で俺を呼び出しておきながら、『まさか、入れ間違えた?』と言ってその場から走り去ったよな?
悪巧みに巻き込もうとしたのは、俺ではなく勇助君のほうだったというわけか。
逃げ足だけは無駄に速い奴め。勇助君がお前と連れ立って陸上部の部室に入っていくところを見つけていなければ、今頃勇助君はどうなっていたか……!」
初めて見る桜慈の激昂する姿に驚きつつ、勇助は全力で二人の間に割って入り、どうにか初を壁から引き剥がした。
「くっそ、痛えな。馬鹿力め……」
「はじめさん、桜慈くんは学年首席なので『馬鹿』ではありません。この場合『剛腕』などのほうが表現として適切かと」
「はあ?! なに言ってんのお前……って、ててて痛ってぇ!!」
再び初を締め上げた桜慈が、わずかに眉を寄せて勇助に訊ねた。
「そういえば、勇助君。今日はなぜこの時間まで学校に?」
「洞口くんに代わって、旧理科室の掃除をしていました。なんでも、彼のお母さんが体調不良とのことで」
「ハァ? あの"ほら吹き"、またそんなこと言って掃除サボったのか?
勇助、あいつに騙されたな」
「ええっ?!」
勇助が目を剥くと、桜慈は初を締め上げていた手を緩め、険しい顔つきで「姫嶋、その話詳しく」と言って何やら二人で話しはじめた。
騙されていたこと自体はショックだったが、これがきっかけで二人の険悪な雰囲気が少しでも和らいだのなら、多少は騙された甲斐があったのかもしれない。
初との会話を終えた桜慈は、手元の時計を見て「そろそろ生徒会の仕事に戻る」と勇助達に伝えた。
「姫嶋。今回は勇助君に免じて勘弁してやるが、再び彼に迷惑を掛けようものなら、ただでは済まさないからな」
「……わーってるよ、プリンス」
「君に『プリンス』と呼ばれるのは至極不愉快だ」
「じゃあ何て呼べばいいんだよ。……桜慈?」
首元をさすりながら訊ねた初に桜慈はふん、と冷たく一笑すると、真剣な面持ちで勇助に向き直った。
「勇助君、また姫嶋に何かされそうになったら逐一連絡して」
桜慈はそう言い残して、生徒会室がある方向へと姿を消していった。
勇助はこの時、知る由もなかった。
翌朝登校するやいなや、なぜか全身ヨレヨレ状態の洞口が半泣きで謝り倒してくることを。
そして、自らの大失言である『ラブラブ』宣言が、陸部ネットワークによって
"二年一組の『姫』と『じゃない方』の鈴木は恋人同士"
と、瞬く間に学校中の噂になることを。
「ごめんなさい。僕が使ってるのは妹名義のキッズケータイなんで、メッセージアプリは入れられないし、QRコードも読み取れないんです。
更に言うとインターネットも繋がらないので、SMSと通話しかできなくて……。
なので、電話番号を教えていただけませんか?」
勇助が制服のポケットから白のキッズケータイを取り出すと、初が「オーパーツみたいな通信機器だな」と目を丸くした。
数日前、陸上部の部室でのひと騒動の後。
勇助が『ラブラブ』宣言を高らかにしてしまったことを初に平謝りすると、口を開きかけた初の胸倉を桜慈が掴み、小柄な体躯を壁際に叩きつけた。
「……っ!」
「どうして勇助君を謝らせる。元はと言えば、姫嶋。お前が悪いんだろう?
ラブレター紛いの姑息な手紙で俺を呼び出しておきながら、『まさか、入れ間違えた?』と言ってその場から走り去ったよな?
悪巧みに巻き込もうとしたのは、俺ではなく勇助君のほうだったというわけか。
逃げ足だけは無駄に速い奴め。勇助君がお前と連れ立って陸上部の部室に入っていくところを見つけていなければ、今頃勇助君はどうなっていたか……!」
初めて見る桜慈の激昂する姿に驚きつつ、勇助は全力で二人の間に割って入り、どうにか初を壁から引き剥がした。
「くっそ、痛えな。馬鹿力め……」
「はじめさん、桜慈くんは学年首席なので『馬鹿』ではありません。この場合『剛腕』などのほうが表現として適切かと」
「はあ?! なに言ってんのお前……って、ててて痛ってぇ!!」
再び初を締め上げた桜慈が、わずかに眉を寄せて勇助に訊ねた。
「そういえば、勇助君。今日はなぜこの時間まで学校に?」
「洞口くんに代わって、旧理科室の掃除をしていました。なんでも、彼のお母さんが体調不良とのことで」
「ハァ? あの"ほら吹き"、またそんなこと言って掃除サボったのか?
勇助、あいつに騙されたな」
「ええっ?!」
勇助が目を剥くと、桜慈は初を締め上げていた手を緩め、険しい顔つきで「姫嶋、その話詳しく」と言って何やら二人で話しはじめた。
騙されていたこと自体はショックだったが、これがきっかけで二人の険悪な雰囲気が少しでも和らいだのなら、多少は騙された甲斐があったのかもしれない。
初との会話を終えた桜慈は、手元の時計を見て「そろそろ生徒会の仕事に戻る」と勇助達に伝えた。
「姫嶋。今回は勇助君に免じて勘弁してやるが、再び彼に迷惑を掛けようものなら、ただでは済まさないからな」
「……わーってるよ、プリンス」
「君に『プリンス』と呼ばれるのは至極不愉快だ」
「じゃあ何て呼べばいいんだよ。……桜慈?」
首元をさすりながら訊ねた初に桜慈はふん、と冷たく一笑すると、真剣な面持ちで勇助に向き直った。
「勇助君、また姫嶋に何かされそうになったら逐一連絡して」
桜慈はそう言い残して、生徒会室がある方向へと姿を消していった。
勇助はこの時、知る由もなかった。
翌朝登校するやいなや、なぜか全身ヨレヨレ状態の洞口が半泣きで謝り倒してくることを。
そして、自らの大失言である『ラブラブ』宣言が、陸部ネットワークによって
"二年一組の『姫』と『じゃない方』の鈴木は恋人同士"
と、瞬く間に学校中の噂になることを。

