ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 勇助が初にお守りを渡したあの日。
 最初は、亡き母に昔教わった編み方で作ったミサンガを渡そうと思っていた。
 けれど、競技の邪魔になりうる懸念と、気持ち悪いと引かれそうな不安から、メッセージを書いた紙とともに、哲哉づてに桃子から聞いたレシピを基に作ったお守りの中に封印した。
 まさか、初の手でその封印が解かれていたなんて。

「どうして……」

 勇助の視線に気付いた初がジャージの袖を捲ると、桃色と赤の糸で編み込まれたミサンガが揺れた。

「ああ……これな。
 悪い。一度お前への気持ちを断ち切るために捨てようか迷った時、ハゲるの覚悟で開けた。
 そしたら中にこのミサンガと、お前のメッセージが書かれた紙が入ってて。それを見て、お守りを捨てるのも、お前を諦めるのもやめた。
 勇助さ、以前オレが体育教師に向いてるって言ってくれただろ? あれ、本気で刺さったから、体育の教員免許が取れる、お前と同じ大学のスポーツ科学部を目指すことにしたんだ。

 勉強も陸上も、お前のことも。
『最後まで諦めずに、最善を尽くす』
 ……なんで今まで忘れてたんだろうな。勇助はいつも、そう言ってオレの背中を押してくれたのに」

 視線を落とした初の左手が、そっとミサンガに触れた。

「えっ……と、使ってくれて、ありがとうございます。
 でもそれ、利き足に着ける用なんです。
 知ってますか? ミサンガはどこに着けるかで願掛けの内容が変わってきて」
「知ってる」
「え」
「知ってるから、ここに着けてんやろが……!」

 勇助の目の前に、見せつけるように初の右手首が差し出される。
 利き手に、ということは……
 
「れ、恋愛成就の願掛け……ってことですか? だれと」
「お前以外に誰がいるんだよ!!」

 ここまで言われて更に追及できるほど、鈍感でも強心臓でもない。
 瞬く間に顔が火照って固まると、それに気付いた初が「バーカ」と呟きながら俯いた。
 真っ黒な髪の隙間から、燃えるように真っ赤に染まった耳が覗いている。初の想いに気付いた途端、勇助の胸の奥から、熱く、苦しく、むず痒いほど幸せな感情が溢れ出す。

「本当は同じ大学に合格して、勇助と肩を並べられる自分になった上で、改めてオレから告(い)うつもりだったけど。
 まあ……結果的にそれより早い段階で恋人同士になれるんなら、願ったり叶ったりだな。

 ……ほんと、お前の作ったお守り、効果覿面すぎ」

 初が一歩近づくと、ミサンガを巻いた右手がいつの間にか勇助の腰に回り、双眸に甘やかな琥珀色を宿した美しい顔が、かつてないほど距離を詰めてくる。
 ゆるやかに初の瞼が閉じると、勇助もぎゅっと目を瞑り、

「……おい、なんの真似だこれは」

 両手で初の口元を押さえつけた。

「あああああ、ごめんなさいぃ……!
 こういうのは、お互いが成人してからって父に言われてるんです」
「はあ? おっさんもてめーもふざけてんのか?
 ぜってー今キスする流れだったよな??」
「すみません。け、決してしたくない訳じゃないんですよ……?」

 勇助が初の顔を覗き込むと、眉間に深い皺を寄せた初がごくりと唾を呑み、観念したように息を吐いた。

「……わーったよ。要は十八になるまで待てってことだろ?
 お前が四月生まれだから、オレの誕生日の五月一日以降になったらいいんだよな?」
「……えーっと」
「なんだよ、言いたいことがあんなら言えよ」

 初がせっつくと、勇助は両目をさかんに泳がせながら答えた。

「はじめさん……僕、四月生まれと言っても、四月一日が誕生日なので、まだ十六なんです。
 ですから、あと一年と少し……お待ち頂けますか?」
「……ハアアアアアア!?」


 十日後。
 こうして色々あった末に、二人はようやく、ほんとうの『恋人』同士になった。