「なんで十日後……? 最低でも一年はかかるのでは」
いっそうポカンとした勇助の問いに、今度は初が目を剥いた。
「お前こそ、なんでオレが一年以上も京都に行ったきりだと思ってんだよ。
一年以上もある合宿なんて聞いたことねーよ、軍隊かよ」
「え? 合宿??」
「? おう。陸部の元先輩経由で誘ってもらって、明日から京都で十日間。
新学期前には東京に戻る」
「でも新学期って……はじめさん、成績不振で京都に転校」
「は!? いつの間にオレ転校することになってんの?
それに成績不振って失礼だな。これでも学年末の順位、かなり上がったんだぞ!
……お前が貸してくれたノートのおかげで」
先程まで捲し立てていた初のトーンが、穏やかになった。勇助もそれに合わせて、ゆっくりと口を開く。
「あのノート、見てくれたんですか?
翌日には返されていたので、迷惑だったのかと……」
「迷惑なはずないだろ。
……一晩で返したのは、なるべくお前の勉強に支障が出ないようにと思って、その日のうちに二冊ともコンビニで全部のページ、コピー取ったからだよ。机の上にあるから見るか?」
「いえ……大丈夫です」
勇助は首を横に振ると、ほっと胸を撫で下ろした。
「陸部の元先輩、オレが一年の時に可愛がってくれてた人でさ。その人が大学の監督にオレがインハイの本戦に出たって話をしたら、興味を持ってくれて。それがきっかけで、大学の合宿に一緒に来ないかって誘ってもらえたんだ。
九十九大学……お前の志望大学と同じところの、スポーツ推薦が貰えるかもしれないチャンスなんだ。だから、心証が悪くならないように髪も黒くした。
本当は黙って行くつもりだったけど、これも今まで勇助がサポートしてくれたおかげなんだから最低限の礼は伝えろって母ちゃんに言われて。
でも、結果残せなかったらダサいし……直接言うのも恥ずいから、マジで最低限だけ」
「待ってください」
拳を握りしめた勇助が、涙目で初を睨みつける。
「はじめさん、『最低限』って言葉の意味はご存知ですか?
さっき僕に送ったメールは、最低限すら守れてない、言うなれば"最っ低"のメールです……!!」
「……え、どこが」
「見てみろよ」
自分でも驚くくらい粗暴な言葉が出ると、動揺しきった初が慌ただしくスマートフォンを確認しだした。
数秒後、初は「うわ」と小さな声を上げるやいなや、額を押さえて「ごめん」と繰り返し呟いた。
「オレが明日から京都の合宿に行けることになったのは、今まで勇助が励ましたり、お守りくれたおかげだってのを伝えたかったんだけど……文字数に気を取られて、行く期間書いてなかったんだな。
勇助。言葉足らずでごめん」
引っ込んでいたはずの涙が、再び溢れ出してくる。
「足りてないにもほどがあります!!
……っ、はじめさんの語彙力がゴミなせいで、僕は……」
「ゴミか……辛辣だな」
「ゴミですよ、ゴミ!! っう、うぐっ……はじめさんの、ばかっ、そのせいで……」
「泣かせちまってごめん。——でも、」
瞳に向かって伸びる手に反射的に目を瞑ると、眦から目頭へと指の腹が動く感触が伝わる。
瞼をゆっくり開いた先に、愛おしそうに勇助を見つめる初の顔が見えた。
「オレがバカでゴミだったから、お前が来てくれたんだよな」
「はじめさん、それ……」
勇助の目は、涙を拭った初の右手首に釘付けになった。
お守りの中に入れておいたはずのミサンガが、ジャージの袖口から覗いていた。
いっそうポカンとした勇助の問いに、今度は初が目を剥いた。
「お前こそ、なんでオレが一年以上も京都に行ったきりだと思ってんだよ。
一年以上もある合宿なんて聞いたことねーよ、軍隊かよ」
「え? 合宿??」
「? おう。陸部の元先輩経由で誘ってもらって、明日から京都で十日間。
新学期前には東京に戻る」
「でも新学期って……はじめさん、成績不振で京都に転校」
「は!? いつの間にオレ転校することになってんの?
それに成績不振って失礼だな。これでも学年末の順位、かなり上がったんだぞ!
……お前が貸してくれたノートのおかげで」
先程まで捲し立てていた初のトーンが、穏やかになった。勇助もそれに合わせて、ゆっくりと口を開く。
「あのノート、見てくれたんですか?
翌日には返されていたので、迷惑だったのかと……」
「迷惑なはずないだろ。
……一晩で返したのは、なるべくお前の勉強に支障が出ないようにと思って、その日のうちに二冊ともコンビニで全部のページ、コピー取ったからだよ。机の上にあるから見るか?」
「いえ……大丈夫です」
勇助は首を横に振ると、ほっと胸を撫で下ろした。
「陸部の元先輩、オレが一年の時に可愛がってくれてた人でさ。その人が大学の監督にオレがインハイの本戦に出たって話をしたら、興味を持ってくれて。それがきっかけで、大学の合宿に一緒に来ないかって誘ってもらえたんだ。
九十九大学……お前の志望大学と同じところの、スポーツ推薦が貰えるかもしれないチャンスなんだ。だから、心証が悪くならないように髪も黒くした。
本当は黙って行くつもりだったけど、これも今まで勇助がサポートしてくれたおかげなんだから最低限の礼は伝えろって母ちゃんに言われて。
でも、結果残せなかったらダサいし……直接言うのも恥ずいから、マジで最低限だけ」
「待ってください」
拳を握りしめた勇助が、涙目で初を睨みつける。
「はじめさん、『最低限』って言葉の意味はご存知ですか?
さっき僕に送ったメールは、最低限すら守れてない、言うなれば"最っ低"のメールです……!!」
「……え、どこが」
「見てみろよ」
自分でも驚くくらい粗暴な言葉が出ると、動揺しきった初が慌ただしくスマートフォンを確認しだした。
数秒後、初は「うわ」と小さな声を上げるやいなや、額を押さえて「ごめん」と繰り返し呟いた。
「オレが明日から京都の合宿に行けることになったのは、今まで勇助が励ましたり、お守りくれたおかげだってのを伝えたかったんだけど……文字数に気を取られて、行く期間書いてなかったんだな。
勇助。言葉足らずでごめん」
引っ込んでいたはずの涙が、再び溢れ出してくる。
「足りてないにもほどがあります!!
……っ、はじめさんの語彙力がゴミなせいで、僕は……」
「ゴミか……辛辣だな」
「ゴミですよ、ゴミ!! っう、うぐっ……はじめさんの、ばかっ、そのせいで……」
「泣かせちまってごめん。——でも、」
瞳に向かって伸びる手に反射的に目を瞑ると、眦から目頭へと指の腹が動く感触が伝わる。
瞼をゆっくり開いた先に、愛おしそうに勇助を見つめる初の顔が見えた。
「オレがバカでゴミだったから、お前が来てくれたんだよな」
「はじめさん、それ……」
勇助の目は、涙を拭った初の右手首に釘付けになった。
お守りの中に入れておいたはずのミサンガが、ジャージの袖口から覗いていた。

