勇助の自宅から初のマンションまで、徒歩で十五分ほど。
「はあっ、はあ……」
日頃運動をしない身体は、思うように動いてくれない。
脇腹が痛み、鼻先は冷え、サンダルが擦れて足には血が滲む。
それでも、勇助は走り続けて初のマンションの前に到着した。
乱れた息を吐き切り、かじかむ指でインターホンを押す。しばらく待つが応答はない。
もしかして、早めに出立してしまったのだろうか。
失意のうちにその場に蹲っていると、
「……勇助か?」
頭上から声がした。
顔を上げて立ちあがると、目の前にいたのは、コンビニのレジ袋を引っ提げ、驚いたように勇助を見つめるジャージ姿の初だった。
「はじめさん……その髪」
「ああ……不本意だけど、ちょっとな」
転校先の校則に合わせて染め直したのだろうか。褪せたベージュブロンドの髪は、不自然なほどの漆黒に染まっていた。
「オレの髪なんかより、勇助。どうした、そんな薄着で。
それに……足、擦りむけてんじゃねーか。絆創膏貼ってやっから」
初は慌てた様子で鍵を開け、「入れよ」と勇助を促した。
玄関口に、特大サイズのスーツケースが見える。
やっぱり、行ってしまうんだ。途端に視界が滲んで歪む。
「……どうした? 早く入れよ。
というか今更だけど、お前がここにいんの、桜慈は知ってんのか?」
「なんで桜慈くんが出てくるんですか!!」
勇助が叫ぶと、驚いた初が玄関のドアノブを握る手を離した。バタン、という音が響いた瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。
「行かないで……」
違う。伝えなければならないのは、そんな言葉じゃない。
哲哉に言われたばかりじゃないか。ちゃんと言葉にして、伝えないと。
勇助は困惑する初をまっすぐ見つめ、全力で想いを告げた。
「はじめさん……あなたが好きです!!」
「ちょっ……勇助!? まって」
「待ちません」
待つもんか。ようやく言葉のエンジンが掛かった今、アクセルを踏む以外の選択肢はない。
「もう一度言います。僕は、はじめさんのことが好きです。
あなたの言葉を借りるなら……『ぶちおかしたい』くらい、大好きです。
……本当は京都に行ってほしくない。ずっとそばにいてほしい。でも僕にそんな口を挟む権利なんて、ないってわかってるから……」
勇助は涙を拭うと、ポケットの中の生徒手帳から『何でも言うこと一つきく券』を取り出した。
「まだ持ってたのか……それ」
「はい。ずっと使うつもりはなかったけど……やっぱり使わせて下さい。
ずるいタイミングなのは重々承知の上で、最初で最後のお願いです。
東京に戻ってくるまで……僕、待ってます。
一年でも、二年でも……何年経っても、ずっと、待ってます。
だから、はじめさんがまた東京に戻ってきて、僕を必要としてくれた、その時は……!
今度こそ……僕を、仮初でも、期間限定でも、偽りでもない、ほんとうの『恋人』にして下さい!!」
ぼろぼろと涙を流しながら、勇助は頭を下げて『何でも言うこと一つきく券』を初に差し出した。
「……だめだ」
しかし、数秒の沈黙を経て初の口から出たのは、拒絶の言葉だった。
「はあっ、はあ……」
日頃運動をしない身体は、思うように動いてくれない。
脇腹が痛み、鼻先は冷え、サンダルが擦れて足には血が滲む。
それでも、勇助は走り続けて初のマンションの前に到着した。
乱れた息を吐き切り、かじかむ指でインターホンを押す。しばらく待つが応答はない。
もしかして、早めに出立してしまったのだろうか。
失意のうちにその場に蹲っていると、
「……勇助か?」
頭上から声がした。
顔を上げて立ちあがると、目の前にいたのは、コンビニのレジ袋を引っ提げ、驚いたように勇助を見つめるジャージ姿の初だった。
「はじめさん……その髪」
「ああ……不本意だけど、ちょっとな」
転校先の校則に合わせて染め直したのだろうか。褪せたベージュブロンドの髪は、不自然なほどの漆黒に染まっていた。
「オレの髪なんかより、勇助。どうした、そんな薄着で。
それに……足、擦りむけてんじゃねーか。絆創膏貼ってやっから」
初は慌てた様子で鍵を開け、「入れよ」と勇助を促した。
玄関口に、特大サイズのスーツケースが見える。
やっぱり、行ってしまうんだ。途端に視界が滲んで歪む。
「……どうした? 早く入れよ。
というか今更だけど、お前がここにいんの、桜慈は知ってんのか?」
「なんで桜慈くんが出てくるんですか!!」
勇助が叫ぶと、驚いた初が玄関のドアノブを握る手を離した。バタン、という音が響いた瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。
「行かないで……」
違う。伝えなければならないのは、そんな言葉じゃない。
哲哉に言われたばかりじゃないか。ちゃんと言葉にして、伝えないと。
勇助は困惑する初をまっすぐ見つめ、全力で想いを告げた。
「はじめさん……あなたが好きです!!」
「ちょっ……勇助!? まって」
「待ちません」
待つもんか。ようやく言葉のエンジンが掛かった今、アクセルを踏む以外の選択肢はない。
「もう一度言います。僕は、はじめさんのことが好きです。
あなたの言葉を借りるなら……『ぶちおかしたい』くらい、大好きです。
……本当は京都に行ってほしくない。ずっとそばにいてほしい。でも僕にそんな口を挟む権利なんて、ないってわかってるから……」
勇助は涙を拭うと、ポケットの中の生徒手帳から『何でも言うこと一つきく券』を取り出した。
「まだ持ってたのか……それ」
「はい。ずっと使うつもりはなかったけど……やっぱり使わせて下さい。
ずるいタイミングなのは重々承知の上で、最初で最後のお願いです。
東京に戻ってくるまで……僕、待ってます。
一年でも、二年でも……何年経っても、ずっと、待ってます。
だから、はじめさんがまた東京に戻ってきて、僕を必要としてくれた、その時は……!
今度こそ……僕を、仮初でも、期間限定でも、偽りでもない、ほんとうの『恋人』にして下さい!!」
ぼろぼろと涙を流しながら、勇助は頭を下げて『何でも言うこと一つきく券』を初に差し出した。
「……だめだ」
しかし、数秒の沈黙を経て初の口から出たのは、拒絶の言葉だった。

