ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

 二月も後半に入ると、周囲は徐々に来月の初旬に控える学年末試験モードに切り替わっていった。
 勇助が教室の扉を開けると、既に登校していた桜慈が「おはよう」と声を掛けてくれた。

「今日は早く着いてしまって……勇助君に倣って、花瓶の水換えをしたんだ。
 今年の冬は暖かいから、アネモネが早めに花を咲かせたね」

 桜慈は窓際の片隅に咲く紫のアネモネを優しく見つめて、花のようにふわりと微笑んだ。

「桜慈くん、ありがとうございます。
 ……もしかすると、桜慈くんに見てもらいたくて早めに咲いたのかもしれませんね」

 あれから桜慈とも気まずくなるのを覚悟していたが、バレンタインデーの翌日以降も、桜慈は以前と変わらぬ態度で接してくれた。それは勇助にとって有り難いと同時に、わずかに心苦しくもあった。

 そして、ホームルームの鐘の音が鳴る直前。
 虚ろな表情をした一人の男子生徒が、足早に教室内へと入ってきた。——初だ。
 勇助の好きだった烟(けぶ)るようなピンクの髪はすっかり色が抜け落ち、唇は乾燥でひび割れ、少し痩せて肉の落ちた口元には、ほくろの隣に湿疹ができている。

 忙しくしているのだろうか。
 食事と睡眠は、きちんと摂れているのだろうか。
 席に着くなり机に突っ伏したぼさぼさのベージュブロンドの頭を見て、勇助の胸は軋むように痛んだ。

 完全にお節介だとわかりつつ、黙って見ていられなかった。
 学年末試験を一週間後に控えた放課後、勇助は教科ごとの試験範囲とその要点を記したノートと、電子レンジで簡単に作れるレシピをまとめたノートの二冊を初の机の上に置いた。しかし翌日の休み時間には、二冊とも勇助の机の上に戻ってきた。
 もの悲しい気持ちでノートを手に取ると、間に挟まっていたメモが、はらりと床に落ちた。

 それは、初からのメッセージだった。

『オレに構わなくていいから
 自分のことだけ気にかけてろ』

 突き放すような言葉に胸が苦しくなるが、メモの右下には、小さな文字で続きが書かれていた。

『ありがとな
 チョコレート、うまかった』

 勇助はメモを握りしめたまま、その場から動けなくなった。