ラブレターの差出人は、同じクラスの『姫』だった。

「——はぁ!? 誰だテメェ」

 ですよね。


 あの後すぐ、初が「約束通り『同じクラスの鈴木』に告白してOK貰ってきた」と勇助を指差しながら声高に宣言すると、返ってきた第一声がこれだ。

 至極当然の反応だが、ここで弱腰になるわけにいかない。

「あの、わたくしこのたび姫嶋初さんとお付き合いをする事になりました、二年一組の鈴木勇助と申します。
 よろしければ、生徒手帳をご覧になりますか?」
「ならんわ!!」

 ですよね……。

 受け口の男——おそらく部長の簗のほうが、パイプ椅子から立ち上がり、初に詰め寄った。

「どういうつもりだ、姫嶋ァ」
「どうもこうも、簗部長が言ったんだろ。『同じクラスの鈴木』に告白して、OKだったら出場権を譲るって」

 得意げに口角を上げた初が、スマートフォンで録音していた音声を流す。

「というわけで、約束通り譲って下さい。支部予選の出場権」
「お前さ、頭沸いてんの?」

 簗は初を鼻で笑うと、勇助を指差した。

「こいつのどこが『難攻不落の王子様』なんだよ」

 それを聞いた勇助が、待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

「僕にとって、告白されて"オトされた"のは人生で彼が初めてですし、僕は彼の恋人なので、彼の"王子様"は僕です!
 以上の点から、僕も『難攻不落の王子様』の条件を満たしていると言えるでしょう!
 そして彼は……はじめさんは、貴方の出した極めて悪質な条件をクリアしましたので、インハイの支部予選会に出場すべきは、はじめさんのほうだと思います!!」
「「はああぁああ?!」」

 陸上部二人組の素っ頓狂な声がハモった。
 相当無茶なこじつけを言った自覚はある。言語化するのも恥ずかしかったが、初の命運が懸かっている以上、言い淀むわけにはいかなかった。
 勇助が弱々しくも噛み付くような視線を簗に向けると、引き攣った顔の簗が叫んだ。

「そんなアホな理屈が通じると思ってんのか?
 この学校で『王子』と言ったら鈴木桜慈しか」
「——俺が、何ですって?
 陸上部部長の、(やな)谷津雄(やつお)先輩」

 突如、背後から聞き覚えのある、透き通った声が響いた。
 いつもは穏やかで優しいテノールに、冷たさと静かな怒りが滲んでいる。
 まさか。どうしてここに?

 振り向くと、そこには両腕を組み、険しい面持ちで簗を睨みつける『王子』——鈴木桜慈の姿があった。